第十五回
「よっ、恵。これ、うちの親がおまえんとこに持ってけって」
中に茸がたくさん入った竹籠を文音が差し出す。
「あ、ありがと」
落としてしまわないよう両手で受け取り、ずしりとした重みを支えながら、恵はぶるりと胴を震わせた。
「ひゃ……」
生まれたままの姿が、冷たい夜気に晒されていた。目の前には幼馴染みの少年がいる。
「やだっ、あわわ、んしょっ、ふにゃっ!」
咄嗟にその場にしゃがみ込もうとして、途中で籠を抱えていることに気付いて慌てて止まり、体を伸ばして洗い場に置いてから電光石火で湯船に戻る。
盛大に跳ねたしぶきが、文音の顔面を直撃した。
「わぷっ、熱っ!」
「ご、ごごごめん、ふみねちゃん、えっと、拭く物は……」
湯殿の外だ。恵は一瞬躊躇し、だがやはり取りに行こうと浴槽に手を掛ける。
「恵、いいから」
文音は着物の袖で適当に顔を拭うと、窓枠に肘を乗せて凭れかかった。
「おまえんちの風呂ってさ、広くていいよな。すげーのんびりできるし」
しみじみと覗き込まれ、恵は湯船に深く身を沈めて縮こまった。星と小さな灯だけの薄闇でも、全身が真っ赤に染まっているのがばれてしまいそうだ。
「んー、なんかひさびさに入りたくなってきたかも」
文音は指先を湯に沈めてちゃぷちゃぷと悪戯する。
まだ小さかった頃には、四人で同時に浸かったりもした。
今ではとても無理だ。豪太を筆頭に、みんなそれぞれ背が伸びた。だけど二人ぐらいなら、たとえば恵と深雪でなら一緒でも余裕だろう。
他の組み合わせだって考えられる。
恵はそうっと顔を上げてみた。ちょうど同じことを考えていたかのように、目が合った文音が悪戯っぽく笑いかける。
「また一緒に、なんて。どうかな?」
「いい、よ」
恵は頷いた。
「一緒でも。ふみねちゃんとなら。ぼく……」
「いいの!? じゃあ早速明日、みゆに声掛けとくから!」
「……ぼくも、え?」
勢い込んで窓枠から身を乗り出してきた文音を、恵はぽかんと見返した。