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揺らがない忠義

ウヘイの屋敷。戦が始まるとあって炊き出しや必需品の買い出しと慌ただしく動く。

「ウヘイ様。町の外、南側の入り口付近リギス村の奴らが陣地を構えております。どうやら手紙の内容は本当と見てよろしいかと。」

「そうなると傭兵を殺したのもリギスの奴らと言う事か。むう・・奴ら。クウガイの件で手を出さずにしておれば調子に乗りおって。」

 早朝。門から邸宅までの道に生首が転がっていた。それはリギス村に出した使いの傭兵。横には手紙が置かれ、リギス村が宣戦布告をしたことが書かれていた。

「ふざけやがって。僅か100人にも満たない人数で俺の首が取れると思っているのか?」

「ウヘイ様・・・それがどうやら相手は30名程らしいのです。」

「さ、30人だと!?」

「はっ。先程偵察に行った者が帰って来まして。どうやら戦力を厳選してきた様です。」

「つ・・潰せ!!今すぐ奴らを潰せ!!!」

 激怒して部下を怒鳴りつけるウヘイ。怒りが収まらず机に拳を叩きつける。

「くだらない奴らだ。この俺に楯突いたことを地獄の底まで後悔させてやる。」

 

「さて、敵さんもこちらに気付いた頃だろう。」

「ですが良いのですか広翔様。人数で劣る分、奇襲をかけた方が得策かと思いますが。」

「敵の人数はこちらの10倍以上。おそらく500人前後は居るだろう。だが、所詮は烏合の衆。死んでも尽くそうと思う人間は居ない。実際は250名ほどの戦力だ。」

「それでもこちらの上ですが・・・。」

「カガン・・・害虫を駆除するには何が良いか知っているか?」

「虫ですか?そりゃあ潰したり来なくするようにするのが・・・。」

「・・・俺の居た世界には別の方法があるんだよ。」

「?」

「広翔様!!奴らが来ました!!」

 一人の村人が声を上げる。南側の入り口から大勢の男たちが出てくる。10・・20・・30と列が切れる様子は無い。

『ウオオオオオオオッッ!!』

「来たか!!」

 怒声を聞き、一瞬怯む村人たち。その中で広翔は堂々と立ち、腰に据えた刀を抜いて集団に向け言葉を放つ。

「怯むな!!俺の作戦に抜かりはない。存分にぶちかましてやれ!!!」

 

「居たぞ!!本当に数名で来やがったのか。」

 門を出たロジの男達。言われていた通り人数が少ないことから内心で安堵する。ますます活気づき、リギスの村人が作った陣地へと向かう。その時。

『ドーン!!』

「!?」

 突然、カミナリが落ちたかの様な大きな音が響く。その音は一つでは無く、二つ、三つと次々と鳴り響く。それと同時に男たちの視界が煙により奪われる。足を止め、状況がつかめないまま困惑するロジの男達。

「な、なんだこの煙は・・・ゴホッゴホッ!!」

「んだっ!!くそっ!!」

 鼻を突き刺す異臭。同時に目が痛む。モクモクと立ちこむ煙により咳込みながら苦しむ傭兵たち。

「うっ!!」

 一人の男がドサリと倒れる。そして、一人、また一人と次々と倒れていく。

(何が起きた?い、息が・・息が出来ない・・・。)

 目の前にはリギスの村人が居た。だが、男はもう歩くことも出来ない。村人は竹筒を手に容赦なく砲撃を打ち込む。

(音はあの筒が原因なのか?なんだこれは・・まるで魔法・・・)

 状況を理解できないまま男の意識が遠のく。


「毒ガスだ。風は計算してある。死に至るまで僅か一分。毒が肺まで到達すれば、体内の血液を固めて窒息死させる。害虫を駆除するには薬が一番って事さ。」

 絵に描いた光景だった。だが、その光景を目の当たりにして広翔は震えが止まらない。

(・・・人が死んでいく。これが戦だ。ミコラスに植えつけられた記憶の通りだ。)

 倒れていくロジの男達とミコラスの記憶が重なる。時代と相手の違いはあるが共に命を奪い合っている事に違いは無い。

(負ければこちらが殺される・・・。)

 拳を握りしめながら戦況を見守る広翔。


「ロジの兵士たちが逃げていくぞ!!」

 周りに居る村人が声を上げる。士気を失い、南口へと撤退していく。

「武器は奪っておけ!刀や槍は使える。」


「追いますか?」

「ああ。だが、深追いはするな。問題はここからだ・・・。」

 陣地を後にする広翔。皆と共に南門まで向かう。木製ではあるが巨大な門が行く手を遮る。夜以外は使われることの無い扉。持っている道具だけでは突破するのに時間が掛かる。

「この扉の向こうはロジの町だ。」

「はい・・。町民には協力を要請しております。イタクがうまくまとめてくれていると思うのですが・・・。」

 門の向こうにはイタクが居る。ウヘイに反感を持つ町民たちにタイミングを見て参加するように協力を要請していた。そのタイミングはまさに今。『最初の衝突で敵を殲滅、もしくは退けることが出来たらともに戦ってほしい』。この扉の向こう側で共に戦ってくれる人間が居るか居ないか・・・。その存在は大きい。

「行くぞ・・・。」

 門扉に手を向け意識を集中する広翔。掌に風が集まりだす。そして。

「メイスト!!」

『ズガアアアアアアン!!!』

 突風が扉を破壊する。竜巻を横にしたかのような強烈な衝撃。村人たちはここまで強力な魔法を見たことは無い。行く手を遮っていた無機質な門が一瞬で瓦礫と化した。その光景を見て思わず唾を飲む村人たち。

「すげえ・・・。」

「はあ・・はあ・はあ・・。」

(魔法と言うのは結構な重労働だ。でかい魔法なら2発が限度。後は魔力と体力がもたない。)

 扉の向こう側に目を向ける。魔法に驚いたのはロジの兵士たちも同じ。尻餅をついたり石像のように硬直したまま動かない。

「あ・・あ・・。た、助けてくれ!!もう嫌だ!!」

 一人の兵士が背中を見せながら逃げていく。

「お、おい!!」

「置いてくな!!こいつら人間じゃねえよ!」

 釣られて次々と逃げ出していく。中には武器を捨て、完全に逃げに徹する者も。

「やはり寄せ集め。形勢が悪くなると弱いか。それでもまだこちらよりは多いか。」

 腰に差した剣を抜き、衝突に備える広翔。村人たちも竹筒を握りしめ攻撃態勢に入る。その時!

『ウワアアアアアアアア!!』

 怒号を上げながら周辺の家屋から一斉に町民が飛び出してくる。得物を持ち、兵士達めがけて突進する町民たち。

「俺たちも行くぞ!!」

『オオッ!!!』

 町民と共に兵士たちを襲う。町民たちの士気は高く、兵士たちの命を奪う事に躊躇いは無い。鬼気迫る迫力になすすべなくやられていくロジの兵士達。

「こんなに共に戦ってくれる人間が・・・。」

 町民の戦う姿を見て広翔は感激する。ロジの人口と共に戦っている人数を重ねわせ、余力は少ない事は間違いない。こちら側が完全に有利だと確信する広翔。

「よし・・行くぞ!!向こうに士気は無い。ザコには構うな!!!敵はウヘイ一人!」

 

「た、大変ですウヘイ様!!町への侵入を許したどころか町民が武器を取り反旗を翻した模様!!」

「なに!?ええい!!役に立たん奴らどもだ。戦況はどうなっておる!?」

「そ、それが・・・兵士たちは逃げ出し、進行を止められない状況だそうです。」

「な!!?ば、馬鹿な・・。何のために今日まで雇ったと思っておるのだ!!糞の役にも立たぬとは!!そ、そうだ!魔族を使え!!奴らを戦に参加させろ!!」

「駄目だ。」

「誰だ!俺に意見する奴は!!」

 後ろを振り向くウヘイ。そこに居たのは・・・。

「ぎゅ・・ギュイ様!!」

「大事な部下だ。人間どもの戦に巻き込ませるわけにはいかん。」

 威圧するようにウヘイに近寄るギュイ。黒く光る肉体が不気味さを増す。

「ですが、それではこの戦に勝つ事は出来ません。負けてしまえばメイダラックへの生贄も送れなくなってしまいます。」

「構わん。」

「な!?」

 躊躇なく即答するギュイ。『生贄を求めていたギュイならばこちらの味方になってくれる』。ウヘイはそう確信していた。

「部下はすでに撤退済みだ。もとよりこの国は崩れかけている。それに・・・どうやらお前は国を治める器ではない。」

「そ、そんな・・・。」

「そういう事だ。後は自分で何とかするんだな。機会があったらまた会おう。そうなることを祈っているよ。」

 後ろを向き出口へと向かうギュイ。その時、偶然ケルミスとすれ違う。人間の中では長身のケルミスもギュイと比べれば子供も同然。気にすることなくその場を後にするギュイとその後ろ姿を見つめるケルミス。

「ウヘイ様・・・。」

「・・・なんだ?」

 がくりと床に両膝を着いた主君の姿を見て心情を察するケルミス。今から報告することはウヘイにとって絶望的な事だろう。だが、ケルミスにはそれを言う義務があった。

「・・・ウヘイ様。リギスの村民とロジの町民が屋敷の周りを囲んでおります。もはやこの場に逃げ道はありません。」

「・・・・・。」

「私が・・私があなたをお守りいたします。このケルミス、命はあの時に尽きております。」

 そう言い残し退室しようとするケルミス。ウヘイは視線を上げることが出来ずに潤んだ瞳で床を見続け、涙を流し続ける。


突火槍について。

竹製で中に火薬と弾丸を入れて爆発により弾丸を飛ばす。射程は10m程度で竹製のためもろく、1度限りの使い捨て。

火薬の爆発により弾丸を飛ばす初期の武器と言う事で採用しました。殺傷能力は低く、馬や人を威嚇したり金属片を混ぜて使ったりしたそうです。


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