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ロジの町

「ここがロジの町か。」

 案内の男性と広翔、二人が町の繁華街を歩く。露店が並び人々で溢れ、繁栄している事が分かる。

「町とは言いましても都市に近いですからね。リギス村で作られた織物やカゴなどの特産品もここに卸しに来ますからね。」

 案内の男性。名をカガンと言い、年齢は30前後だろうか。野良仕事で日に焼けた肌と発達した筋肉が印象的な色男。日々のネット三昧で色白で華奢な自分とは正反対の体つきだ。

「予想していたよりも栄えてるな。リギス村からわずか半日でこんな場所があるなんて。」

「人口はおよそ4000人。町長宅を中心に町が形成されております。」

「その町長宅って言うのはあれか?」

 一際異彩を放つ大きな砦。城と見間違うほどの規模の石造りの建物が町の中央にでんと構えている。

「そうです。常に雇われの傭兵が警備を務めていると聞きます。」

「数は?」

「そこまでは・・・。ただ、メイダラックから流れて来た者や引き抜かれた者も多く、メイダラック城の元、士官も居るとか。」

「なるほどね。警備に無頓着なわけでもなさそうだ。襲われた時の対策もそれなりにはしているだろう。どちらにせよ、戦力20名ほどのリギス村が太刀打ちできる程の相手じゃなさそうだ。」

「ま、まさか戦うのですか?」

「まさか。ただ、相手の強大さを知ると現状と比べてしまうだろ?」

「それはそうですが・・・。」

(・・・この者、召喚により呼び出された時と少し雰囲気が違う。ミコラス様の魔力と知識が影響しているのか?何を考えているのか読めぬ。)

 人ごみの中歩く二人。だが、広翔がふと足を止める。

「どうしました?」

「おう兄ちゃん、寄ってくかい?」

 中年の男性が女房と思われるふくよかな女性と露店を切り盛りしていた。年季の入った木製の台に並べられた花の数々。丹精込めて育てられたのだろう。それぞれ色鮮やかな大輪を見事に咲かせている。

「花・・ですか?」

「ああ。・・・これ、種もあるかい?」

 カガンの言葉に相槌で答え、広翔は店の男性と話し出す。

「もちろんあるさ。ポピーだな。そいつは栽培も簡単で色も豊富だ。今からなら種まきにも間に合うだろう。」

「質問なんだが、今から種をまく花がどうして同じ時期に開花してるんだ?」

「ん?ああ、魔法陣だよ。」

「魔法陣?」

「そう。室内に魔法陣を書いて適した環境を作るんだ。温度や湿度、様々な数値を調節できる。町長がメイダラックと交流があるから魔法使いが来てくださるんだよ。その分、金は掛かるがな。」

「へえ・・。しかし、メイダラックは滅んだと聞いたがね。」

「そこだよ。おかげでこっちは不安で仕方がない。他にも魔法使いは居るがメイダラック直属の魔法使いと比べるとどうしても劣る。植物は繊細だ。1℃違うだけでも状態が狂ってしまう。」

「おいおい、魔族が攻めてくる心配じゃないのか?」

 普通は近場のメイダラック城が制圧されたとなると、身の危険を心配するものだが男の言葉には危機感が無い。命よりも商売を気にしている様に見える。

「ははは・・。普通はそうなんだが、どうやらこの町は魔族に制圧される心配は無いらしい。」

「?」

「ウヘイ町長が繋がっているんだよ。魔族と。」

「は!?それは本当か?」

 カガンが声を上げて驚く。

「ホントさ。今、町の話はそれで持ちきりさ。魔族に従おうとする町長を支持する人間と支配されることを拒む人間とで意見は真っ二つ。」

「魔族に支配など冗談ではない!町長を支持する人間に誇りは無いのか?」

 話に納得が行かないカガン。筋肉質の男に迫られ、店の主人も警戒する。

「普通はそう思うでしょうね。でも、こっちも商売。それに命も惜しい。金で苦しむことにはなるでしょうけど命を取られるわけじゃない。」

 カガンの言葉を聞き逃すことが出来なかったのだろう。旦那の隣で作業していた奥さんが口を挟む。

「だが・・。」

「商売屋が多い土地さ。戦う事よりも商売を維持しようって考えを持つ人間も多い。暮らしは裕福じゃないけど、なるべく日常を壊さずに生きたいと考えるのが普通だろ?」

「ぐ・・ぐ・・。」

 気持ちのこもった重みのある声。簡単に無視できる発言ではないと感じ、カガンも口を出せない。


「なるほどね。町長は魔族に屈する方を選んだか。そりゃあ『戦う』なんて判断を出せるわけないわな。」

街中の喫茶店で紅茶を飲む広翔とカガン。憤りが収まらない様で、カガンの愚痴は止まらない。

「ですが、こんな簡単に屈するなど・・。メイダラックが滅びたからと言って、すぐに魔族に媚を売るなんてやり方を民が受け入れるとは思えません!!」

「それが半数には受け入れられてるんだろ。だからこそ対立しているんじゃないか?」

「ですが!!この町には誇りは無いのですか?昔から魔族と対抗してきた人間が戦いもせず簡単に・・・しかも町の長がですよ!」

「民を守るのが長の役目。これも有りだとは思うが・・。それよりも、これからその町長の屋敷に行くんだろ?納得できないのは分かるが顔を変えないと要らぬ疑いを掛けられるぞ。」

 その後、町長の屋敷へと足を運ぶ。リギス村の反物は上質なため、買い取り手の大半は町長と決まっていた。そのため、リギス村の村人が町長の屋敷に入ることは簡単だった。

「では、これが今回の分だな。」

 持参した巾着袋の中に金を入れる使用人。その間、内部を見渡す広翔。質素な造りであることから、この部屋が重要な客を招く場所ではないことは明らか。おそらく町長本人が顔を出すことは無いだろう。

「なにやらお忙しそうですな。」

「なに。メイダラックが滅びて以降、対応に追われていてな。ウヘイ様もその対応に追われておる。」

 馴染みの使用人と世間話をするカガン。使用人もカガンと仲が良いらしく会話の中に時折、笑い声が混じっている。

「それにしても、そこの者は初めて見るな。まだ若いところを見ると任務は初めてか?名はなんと言う?」

「あ、ヒロトです。」

 突然、話を振られて少し戸惑う広翔。

「広翔は村から出たことも無い。そのため見る物すべてが新鮮だろう。」

「と言う事はロジに来るのは初めてか。人が多くて驚いただろ?」

「そうですね。建造物もすごくて・・。これだけ大きな物を数多く作った事に驚きです。」

 白々しく場当たり的な感想を述べる広翔。

「そうだろうそうだろう。石の建造物はロジの自慢でもある。簡単に真似出来る代物では無い。」

自慢げに笑いながら町自慢をする使用人。適当な言葉だったが使用人には好評なようだ。

「どれ、ではそろそろおいとまさせて頂きます。」

「む。そうか。少し喋りすぎたな。また来月も頼むぞ。」

 カガンの言葉で時間に気付く使用人。そして、任務を終えたカガンと広翔は宿屋へと着く。

「ふー・・。疲れた。」

「ははは。歩きっぱなしでしたからな。明日はもっと筋肉に効いてますよ。」

「やめてくれよ。明日もあの距離歩かなくちゃならないんだろ?」

「手荷物が無い分、いくらか楽ですがね。」

 一日の疲労をベッドに押し付けるように倒れ込む広翔。カガンは慣れているのか、疲労が表に出ていない。

「どうでした?ロジの町は。」

「ん?でかい町だと思うよ。貿易で成り立ってるせいか人々も裕福そうだ。」

 率直な感想だった。現世の町と比べると人口は少ないし文明も遅れている。だが、これだけの人数が一カ所に固まった場所が限られている事はミコラスの記憶から知っていた。

「裕福・・ですか。」

「?」

「広翔様、この町で暮らしている人間は高い税率に悩まされています。そのため、この町を捨てて他へと移る人間も多いのですよ。」

「どこもそんなもんじゃないの?」

「いえ。ウヘイ様と言うのは我が強いお方でしてね。民をないがしろにするところが多々あります。」

「へえ・・。」

「それでも、ウヘイ様の後ろにはメイダラックがありました。人々は安全を引き換えに現在の暮らしを受け入れたのです。」

「そのメイダラックが滅びたわけだけど。」

「そうです。そして、ウヘイは魔族に従う事で暮らしを継続させることを選んだ・・・。これは許しがたい愚行です。」

 『またこの話か・・・』と心の中でうんざりする広翔。

「誰だって死にたくは無い。屈した事に対して侮蔑する気は無い。」

「この町の人間は魔族への危機感が無いのです。いままでろくな襲撃を受けていないから恨みを持つ人間も少ない。それ故、戦う事をしない。」

「恨みか。そんなものは無い方がいいんだがな。一つ教えてやる。誰かが誰かを見下した時に『遺恨』が生まれるんだ。それが争いへと変化するかは別だがな。衣服に残ったシミ以上に消えない厄介なもんだぜ。それこそ刺青の様に一生残るんだ。」

「・・・・・。」

 広翔の言葉には重みがあった。こちらの世界では神に匹敵する信仰心を持たれているが向こうの世界ではただの一般人。『向こうの世界』を知らないウヘイはあちら側の広翔を垣間見た気がした。

「・・・少し喋りすぎたかな。今日は疲れた。そろそろ寝るか。」

「そうですね。明日も早いですから・・・。」



 再び山道を歩き、日が暮れたころにリギス村へと着く。くたくたになった足を動かしながら、報告をしに長老の家へと向かう。

「お帰りなさい。どうでしたかな、ロジの町は?」

「人が多い町ですね。貿易で潤っているようで様々な品物が集まっていました。」

 見た事を報告するが、ロジの町に何度も言っているクウガイにとっては珍しいことも無い普通の事ばかり。

「ところで、その隣の方は?」

「ああ、彼は・・・。」

「ご紹介が遅れましたな。商人のヤスケと申します。以後お見知りおきを。」

 深々と頭を下げる痩せ型の男。みすぼらしい格好はこの村の村民も同じだが、恰好が違う。おそらく他の土地の人間だろう。 

「この村だけでは力不足ですからな。ヤスケを通して必要な商品を申し付けください。」

「どうぞよろしく。」

 見えているかも分からない細い目。その奥で微かに瞳が見える。

「・・・さて、それではこれから如何いたすおつもりで?ウヘイの奴に協力する気が無いと思われますが。」

「そうですね。クウガイさん、あなたが言われた通りでした。どうやらウヘイ町長は魔族に従う道を選んだ。ですがメイダラックを奪われた今、ロジまでもが魔族に従われてしまうと、この大陸そのものが魔族の手に落ちたと同じ。」

「・・・ほう。では、どうなさいます?」

「・・・戦う力を蓄えます。いずれあの町はこの村に強引な要求をしてくる。あらがう力を身に付けます。」

「・・・なるほど。ロジとの関係は崩れると予測しますか。わかりました。村の者も協力するよう伝えておきます。お好きにお使いください。」


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