表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/9

プロローグ

 『魔王ゲルド』。かつて魔族を束ね、すべての生物に恐れられた伝説の魔王である。人間達は魔族の奴隷となり、数えきれない人間が無残にも殺された。絶望が世界を覆う中、一筋の光が現れる。劣勢が伝えられる戦況で、幾度も勝利に導いた一人の男。いつしか『勇者』と呼ばれ、人々の生きる希望となる。そして、勇者は彼を慕う3人の戦士たちを従え、ついには魔王ゲルドに最後の決戦を挑む。


 魔王ゲルドの城。

「グ・・グオオオオオオオッッ」

 勇者の放った一撃が致命傷となる。漆黒のマントを纏い、苦しむ魔王ゲルド。恐怖を知らない彼が恐怖を知った瞬間だった。

「見事だ・・・勇者ジレン。よもやこれほどとはな・・・。だが、私を殺しても戦は無くならない。人間達は魔族の糧となる定めなのだ・・・。」

「・・・とどめだ。」

「ふっ・・。束の間の平和を噛みしめるが良い。魔族は永遠に不滅だ!か弱き人間なぞに屈するはずがない!!」

『ザシュッ!!』

 ジレンの一撃がゲルドを切り裂く。意識が消えながらも狂気に満ちた笑みを浮かべ絶命するゲルド。魔族に生まれたプライドが彼をここまで強くさせたのだろう。敗れてなお、魔族の繁栄を確信した男の姿がそこにはあった。

「魔王ゲルド・・・魔王と名乗るにふさわしい相手だった。だが、貴様の思惑通りにはいかない。人間は魔族などには負けない!!」

 剣を鞘へとしまう。そして、同時に張りつめていた緊張の糸が切れ、片膝をつく。

「や・・やったあああああああっっ!!!」

 大声を上げ、近寄る仲間たち。満身創痍のジレンに抱きつく女魔法使い。当然、受け止められるはずもなく、床に押し倒される。

「おいおいアクリス。お前は元気かも知れないがジレンは疲れてんだ。あんまり無茶をするもんじゃないぞ。」

「はははっ。まったくだ。」

 無邪気なアクリスの姿に呆れる戦士ギュイと商人のミコラス。

「だってさ!!倒したんだよ!魔王ゲルドを倒したんだよ!!」

「ああ。そうだな。・・・倒したんだよな。」

 ピクリとも動かなくなったゲルドに目を向け、しみじみとつぶやくギュイ。

「ああ・・。魔王ゲルドは倒れた。魔族の脅威は潰えたわけではないが、これで魔王軍も統率は取れないだろう。俺たちは大仕事をやってのけたんだ。奴が最後に残したセリフ。『魔族は永遠に不滅。人間には屈しない』。・・・残念だったな。人間も魔族には屈しない。お前の思うようにはいかない。」

 

 魔王ゲルドと勇者たちの戦いは人々の心に深く刻まれ、語り継がれていく。ゲルドを失った魔族は統率を失い、分散化していった。残った魔族たちも野盗化するが、勇者や騎士団といった人間達に討伐され、次第に行き場を失っていく。


・・・そして、200年後。

リギス村。知る人の少ない辺境の村である。100名にも満たない村民が集まり、自給自足の生活をしていた。争いも無い平和な農村。だが、ある事件が起きる。それは織物などを近くの町へと売りに行った青年が戻ってきた事から始まる。

「村長!!大変だ!メイダラックが・・メイダラックが落ちた!!」

「なんじゃと!!?あのメイダラックが!?」

 青年の一言で青ざめる老人。メイダラックとはこの国の名前である。青年の言うメイダラックとは、メイダラック城の事であり、かつて戦士ギュイが所属していた事でも有名である。もともとギュイはメイダラック騎士団の団長であり、ゲルド討伐後も再び国に戻り、英雄として迎えられて城に仕えていた。今はその子孫が王となり、メイダラックを治めている。

「ぬうう・・。最近、魔物どもが活発に動き出したが、まさかメイダラックが落ちるとは。」

「噂じゃマスカ城まで制圧されたって話だ。小規模とはいえ、このままじゃこの集落すら危ねえ。」

「マスカ城は勇者様の血族が収める土地。メイダラック城といい、勇者様一行の血族が収める土地が次々と襲われておる。」

「勇者様の血を恐れているのでしょうか?」

「・・・だろうな。それにしても妙だ。勇者様が魔王ゲルドを倒して以降、魔族は分散化し、特に目立つ動きは無かった。それがここ最近は狂暴化し、暴れまわっておる。統率が執れておるのも不可解じゃ。」

 マスカ城とメイダラック城の制圧。偶然とは考えられない。何者かの意図を村長は感じ取る。顎先から伸びる白い髭をさすり、沈黙する。

「村長・・・このままじゃ。」

「うむ。ならば召喚しようではないか。伝説の通りミコラス様の御子息を。」



 現代、日本。

 八月の熱い日差しが体力を奪い取る。久しぶりに出た外の世界。ゲームとネット三昧の身にこの熱射はきつい・・・。コンビニからの帰り道、自分の体力の限界を感じ始める。

「くっそ。大体、家に飲み物が無いのが悪いんだ・・・。」

 俺の名前は『屋代やしろ 広翔ひろと』。自分で言うのもなんだが、どこにでもいる22歳のフリーターだ。夏休みを利用して自転車で日本一周なんて馬鹿なことをやっている奴がいる時期ではあるが、俺には関係ない。日差しを嫌ってクーラーの効いた部屋でジュース片手にネット三昧。せっかくの夏休みだ。時間は有意義に使わなければいけない。

「はあ・・はあ・・。着いた。」

 息を切らしながら部屋へと戻る。そして、自分と同じように汗だくになったペットボトルを取り上げ、氷を入れたコップの中にオレンジジュースを注ぐ。中のジュースが冷えることを考え、待つ事20秒。適当にコップを揺らした後、ジュースを一気に流し込む。

「くうううっっっ!!さてやるか。」

 空になったコップに再びジュースを注ぎ、モニターに目を移す。ネット上で動くキャラを見て自分と同じことをやっている人間が居るのを確認し、なんとなくホッとする。

「・・・『まさ』さん『タイムリー』さん。いつものメンバーか。どれ、やるかな。時間は有意義に使わなくっちゃ。」

 その後、夕食と風呂を挟みパソコンと向き合う時間が続く。そして、ふと尿意に襲われ、数時間ぶりに室外へと出る。

「・・・ふう。それにしてもまだ0時じゃねえか。って言っても周りの家はもう寝てるか。」

 トイレからの帰り、壁掛け時計を見つめる。表示されていた時間は23時55分。階段を上り、再び部屋へと戻ろうとしたその時。

『キィィィィ・・・ン』

「・・・なんだ?」

 鐘のような音が響く。一度だけではない。二度、三度と鐘の音が微かに鳴り響く。立ち止まり、耳を澄ます。少しの好奇心から音のする方へと足を運ぶ。

『キィィィィン  キィィィィン』

「物置?なんでこんなところから?」

 辿り着いたのは物置。母親と離婚して親父が死んでからと言うもの、この家には自分しかいない。家だけは大きいため、ほったらかしの部屋も存在する。それがこの物置となっている部屋だ。電気を点け、室内を見渡す。

「音はまだ止まないな。なんだ?目覚まし時計でも壊れてんのか?」

 ホコリが溜まった段ボールを押しのけて音の出所を探す。自分が小学生の時に使っていた絵の具セットや妹が使っていたランドセルなど、懐かしい物が見える。

「ったく。『捨てるに捨てれなかった』パターンか?どうすんだよこれ。」

『キィィィィン・・・』

 懐かしさを感じながらも音の出所を見つける。それは片手サイズの古びた木箱。陶磁器の茶碗でも入ってそうな箱を手に取り、中の物を取り出す。

「これは・・・球?」

 宝石のように綺麗な球体。水晶だろうか?ビー玉サイズの青白く発光する石を手に取り、その輝きを見つめる。

『キィィィィン』

 音は鳴り止まない。目を奪われる輝きと頭に染み込んでくる音が妙な心地よさをもたらす。


『カチッ』

 壁掛け時計の針が0時を示したその時。


『バシュウウウウッッッ』

「な、なんだ!?う、うわあああああ!!」

 青白く発光していた石が黒煙を吐き出す。目の前を覆っていき、一瞬で自分を飲み込む。突然の事に広翔は思わず叫び声をあげながら尻餅をつく。だが、煙は止まらない。石は煙を吐き続け、視界を完全に奪う。


今回、初めて異世界ものを書きました。

今までで一番長い作品になると思いますが、お付き合いいただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ