第3話 荒れ果てた街
一体、此処は何処のアッ◯ムト何でしょうかねぇ?
エリーに案内され、城を出た瞬間そんなことを思わざる負えなかった。
空気が重いってレベルじゃねーぞ。
淀んでやがる、遅すぎたんだ。
腐ってるとまでは行かなくても、殆ど終ったも同然の空気だぞ。
おや、空気だけじゃなくてその全てが殆ど終わった状態だ。
どれくらい酷いかって言うと、某緑衣の勇者シリーズの七年後よりマシな程度で酷い。
集落というより、人の住めない場所から逃げてきた人達が、盗賊によって壊滅した村の跡に住んでるレベルって位かもしれないなこれは。
それくらい、酷いんだ。このミネリア王国(廃村)の実態は。
「昔は、栄えていたんですけどね」
エリーは、遠い目で荒れた街を見通していく。
人っ子一人見つからず、むしろアンデットでも出てきそうな雰囲気の街。
此処でグールとかスケさんとかゾンビとかに襲われたと聞いても信用できてしまう街。
脳内BGMがエ◯ジーで固定化されてしまうような、最悪の街。
「兵どもが夢の跡、か」
しかし、エリーには別のものが見えているように俺には見えた。
そう。それは多分、いや間違いなく此処が栄えていた時の様子なんだろう。
この荒れ果て、人が住むことのできないような街になるまえの幸福な時代。
魔王が現れ、戦いになる前の街を今の街に重ねて見てるんだろうな。
小説なんかで読むのも十分というほど感情移入して、キツイと思う俺だけど、こうして実際にそういうことを考えている人物を見ると、キツイってレベルじゃない。
胸が締め付けられるような、そんな息苦しさを感じてしまう。
けど、そのお陰でゲーム気分だった俺の気持ちも引き締まった。
必ず、この国を復興させて見せないとな。
「夢となった跡を現実に戻す、か。難しいだろうけど、やってやる」
この酷い光景を、かつての素晴らしかったであろう街並みに戻す。
それが俺のやるべきことだと、俺は改めて確信していた。
「酷いな」
街を進んでいく中で、その廃屋と化した街並みは更に酷さを増していた。
この世界にいるのかは分からないが、シロアリか何かによって被害を受けたように家々の柱が腐っている。
非力な俺の力でも、握ったら簡単に砕けかねないような状態だな。
どうやったら此処まで腐らせることが出来るっていうんだ?
エリーがかつての街並みを覚えているということは、魔王とやらと戦って数年も経っていないはず。
ゴーストタウンになるのなら兎も角、これは流石におかしい。
俺は違和感を感じ始めていて、エリーへと質問をした。
「エリー、本当に魔王との戦いのせいなのか?俺には、それだけには思えないんだが」
「……それだけです。それだけで、此処まで……」
その言葉に、俺には嘘があるようには思えなかった。
絞りだすように、重い空気を纏ったその一言は俺に信じらせるだけの強さを持った言葉だった。
最後の戦場が此処にでもなったのか、それともアンデット攻撃でもされたか。
どんな理由があって、魔王との戦いだけで此処まで疲弊―――いや、腐敗したのか。
それは今の俺は知らないが、いずれ知る必要があると感じながらエリーの後を付いて行く。
水を吐き出すことのない、枯れ葉の溜まった噴水。
何故か読める「武器屋」と書かれたヒビの入った看板の掛けられた店の跡。
屋根が崩れ、もはや家としての体裁を成していない民家。
そのどれもが、この街のかつての姿と今の姿の二つを重ねさせ、今の状態の酷さを俺へと突きつけていた。
「他の国も、支援くらいすれば―――ッ!?」
俺は、この光景を見て思わず感じてしまったことを呟いた。
他の国も、此処まで酷いのだから復興に手を貸してもいいんじゃないか。
だが、その言葉を言っている途中、俺は凄まじい何かを感じ、言葉を飲み込んでしまう。
そして、その凄まじい何か―――恐らく、殺気を発した人物を見て、息を呑む。
そこには、凄まじいまでの負のオーラと殺気を放つ歩みを止めたエリーの背中があったのだ。
エリーは、小さく呟いた。
「……その他の国のせいで……」
難聴系主人公であれば、聞き逃していたのだろう小さな呟き。
だが、耳が良い事に定評のある俺の耳にはしっかりと聞こえていた。
他の国のせいで。
この言葉の意味はわからない。
だが間違いなくここまで酷い状況になったのは他国のせいであるということは、何となくだが理解できた。
魔王との戦い、それに他国のせい、この2つが大きな原因と見て間違い無さそうだ。
他国がどんな事を行ったのかは幾つか想像できる程度だが、魔王との戦いの後に何かをし、ここまで酷い状況に持ち込んだ。
それが一番妥当な可能性だろう。
「あれ、此処は綺麗だな」
そうして、俺達が再び進み、街の外れ近くまで来た時だった。
先ほどの街並みとは全く違う、綺麗な家が幾つか存在していた。
木製の、手作り感にあふれた小さな小屋の家のような家であるが、それは確かに街とは違う空気を放つ綺麗な建物だった。
しかも、その建物の中から何やら視線を感じる。
「此処は、今もこの国に住んでいる人達が唯一暮らしている場所ですから」
「成る程なあ」
今まで国民―――集落民を見てこなかったが、此処にいたのか。
俺はそんなふうに思いながらエリーに案内されていく。
視線は感じるのに、誰も出てくる気配はない。
結局、俺は誰も会うことがなく、牧場へと辿り着くことになった。