表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異界牧場物語 牧場の勇者  作者: ハーベスト
プロローグ
1/4

第0話 勇者召喚

「よっしゃ!これで、全員の好感度最高っと!」


 俺は手に持った携帯ゲーム機を上に掲げながら歓喜の声を上げた。

 いやあ、苦労したよ。

 このキャラ、現れる場所が一定じゃなくて、好感度を上げるためのアイテムも序盤じゃ中々手に入らないものだから、好感度上げるのが面倒臭いんだよな。

 ま、好感度上げると言っても、ギャルゲーじゃなくてシミュレーションゲームなんだけどなこれ。

 まあ、ギャルゲー成分も混じっているのは否定しないけど。


「と、取り敢えず此処で一旦休むか。何故か時の止まる室内で中断しときゃいっか」


 俺は携帯ゲーム機の電源を切って一度中断すると机の上に置く。

 俺、牧場(まきば)勇也(ゆうや)は大学一年生だ。

 家の中で引き籠もるのが大好きで、最低限しか外に出ないニート予備群でもある。

 勉強もしっかりとしないし、大学の授業を舐め腐っている現代法学部生だ。

 まあそれも、前期の授業の単位を全て簡単に取れちゃったのが原因何だけどな。

 一夜漬けよりはマシな程度、二日漬けかそれよりちょっとくらいしか勉強しなかったていうのに合格ラインの最低のCどころか、Aとか最高のSまで取れちゃったんだもんな。

 まあ、後期の授業も軽く取れるだろと事前・事後学習など知らずとゲームにパソコンと二次元に齧りついている暇人が俺だ。

 今は白い箱が初期型のゲーム機であったあるシミュレーションゲームの、携帯ゲーム機でリメイクされたバージョンをやっていたところ。

 ハーレムルートが無いのが唯一の難点だけど、シリーズの中では一番好きなやつをやっていた。


「取り敢えず、これで全員の好感度は最高だけど、誰と結婚するべきかな?」


 苦労したから、今攻略したばっかりの難しいキャラでもいいんだけど。

 俺個人としてはあのキャラ、好みじゃないんだよなあ。

 俺の好みはその逆で、一番攻略が簡単な彼女。

 優しくて真面目、見た目も好みだし、最高だと思うんだ。

 とは言え、折角攻略に成功したんだし、最難関キャラでも……。

 う~ん、悩むなあ。


「セーブして増殖して、それぞれのキャラと結婚でもするか」


 折角、攻略サイトから攻略プレイまで見て厳選したプレイを行って作り上げた最高のデータなんだ。

 増殖させて、増えたデータでそれぞれのヒロインと結婚させるのがいいかも。

 よし、そうと決まったら早速ゲームを再開するか。

 俺は机の上に置いた、携帯ゲーム機に手をかけて電源をつける。


「うわ、なんだっ!?」


 そう。

 俺はただ、ゲームの電源を付けただけのはずだったんだ。

 だけど、そのゲームの電源を付けた瞬間、凄まじい光が放たれて、俺はアパートの一室から―――いや、この世界から姿を消すことになってしまったんだ。




「今のは何だったんだ?」


 光が止んだかと思い、俺は呟く。

 そこで、俺はある違和感に気づいた。

 俺の持っている携帯ゲーム機に、妙なステータス画面のような何かが写っているのもそうだ。

 だが、それ以上に携帯ゲーム機越しに見える床が、どう見ても俺が暮らしている部屋の床に見えなかった。

 俺の住んでいる部屋の床はフローリングっぽいので、その上に絨毯を引いている。

 なのに、どう見てもゲーム越しに見える床は石畳―――というか石の床だ。

 ボコボコじゃなくてツルツルだけど、石の床だ。


「……どういう……ことだ?」


 俺が、ゲームの電源を切りながら立ち上がろうとして周りの異変に気づく。

 床をよく見れば、何やら魔法陣チックな模様が書かれてる。

 おまけに床だけでなく、壁まで石造りだ。多分、天井もそうだろう。

 何故、そこで多分って言ったかというと俺に天井を見る余裕がなかったからだ。

 辺りを見回した俺の視界に、一人の少女の姿が写っていた。


「……ふつくしい」


 まるで二次元から出てきたんじゃないかという美しい美少女が立っていたのだ。

 二次元にしか興味がなく、三次元の女なんておかずにもならないと思っていた俺でも見惚れるほどの美少女だ。

 俺は思わず、条件反射的に小さく呟いてしまった。

 彼女の容姿は金糸のような髪に、透き通るような蒼い瞳。

 顔の作りも整っていて、美しいというよりもどちらかと言うと可愛いの方が正しいかもしれない。

 着ている服はドレスとかじゃなく、ただ単に白いロープを纏っているだけで、その下は豪華な服にはとてもではないけど見えない服装をしてる。

 兎に角、傾国の美女ならぬ傾国の美少女が俺の前に立っていた。

 彼女は鬼気迫るような表情をしていたが、俺を見ると満面の笑みを浮かべる。

 何だ何だ?

 俺は思わず訝しんでいると、彼女は唐突に言った。


「やった!勇者様の召喚に成功した!」


「ファッ!?」


 いや、いきなり何言っちゃてんのこの美少女?

 そう思ったのも束の間、俺は何が起こったのか直感的に理解した。

 いや、理解してしまった。

 クトゥルフ神話TRPGなら、SANチェックをすることになりそうな展開だ。

 もしかしなくても、これって勇者召喚じゃね?

 ファンタジー小説の定番で、勇者として異世界に召喚されるってアレ。

 最近だと、四人とかクラスごととか人数が滅茶苦茶増えてるアレ。

 実は召喚勇者は噛ませ犬で、別口で異世界に転移してしまったり、転生した方が主人公だったりするアレ。

 これは素直に狂喜乱舞なんて出来ないなあ。

 最近の勇者の扱いは、かなり悪いからなあ。

 一応、少しだけ期待しながらこの美少女に尋ねてみるのが吉かな?


「えっと……勇者ってどういうことですか?」


 取り敢えず、丁寧な口調で質問する。

 すると、彼女は俺の質問に直ぐに答えてくれる。


「あ、はい!詳しく話すと長くなるんですが、手短に説明しますと我が国を救っていただくために勇者様を召喚したんです!」


 あ、やっぱりそういう勇者召喚だよなぁ。

 魔王でも出たのか、邪龍でも出たのか、それとも邪神でも出たのか?

 何が出たのかは分からないが、他の国との戦争じゃないことだけは祈る。

 取り敢えず、それ以外であってくれよ。

 稀によくある、他国との戦争のための勇者召喚だったら俺は逃げるぞマジで。

 どうか、戦う相手が魔物系であってくれよ。

 それだったら、多分戦えると思うから。


「お願いします勇者様!我が国を救って下さい!」


 我が国を救って下さい、と言われてもなあ。

 さてと、問題はどんな方法で救えって話だよな。

 取り敢えず、この美少女に声をかけるしか無いか。


「救って下さい、と言われても詳しい話を聞かないとどうにもならないのですが。取り敢えず、ゆっくりと話せる場所で詳しいことを教えてくれませんか?」


「あ、はい!分かりました!それじゃあ付いて来て下さい!」


 彼女は俺に背を向けると、石で包まれた薄暗い部屋から外へと案内する。

 部屋の外に出ると、そこは明るい―――わけでなく、天井に明かりっぽいのがあるけど、それは付いておらず、蜘蛛の巣とかはないけど、よくよく見てみれば埃が隅に存在する通路が広がっていた。

 ……おいおい、この城(仮)ってもう末期じゃね?

 そう思った俺は決して悪くないはずだ。


「ず、随分と個性的な場所ですね」


 オブラートに包んだ答えを、更にオブラートに包んだ感想を俺は呟く。

 それを聞き止めた彼女は、苦い表情をしながら言う。


「正直に言って下さい勇者様。ボロくて汚い城だって……」


「ええっと、流石にそれは……」


「いいんです。言葉を飾らないで構いません。喋り方も、そんな丁寧なものじゃなくていいですよ」


「……」


 俺は、思わず無言になってしまう。

 雰囲気とか、テンプレからして彼女は王女とか聖女とかその辺りだと思う。

 その美少女が、此処まで言うってこの国はどれだけピンチなんだ。

 俺は少し間を置いてから、彼女へと答える。


「分かった。それじゃ、これからは飾らずに話すさ」


「お願いし―――」


「その代わり、君も必要以上に畏まらないでくれ」


 何か、こうも気品を感じるような人物に畏まれるのはむず痒い。

 俺は言葉を飾らないでくれという頼みを逆に利用して、彼女にも普段のような喋り方をするように遠回しに頼む。

 すると、彼女は足を止めて困惑というか困ったというかそんな表情を向けてくる。


「ですが―――」


「いいから。まあ、どうしても難しいのなら少しずつ、な?」


 無理にすぐに変えて貰う必要はない。

 だから、少しずつと言うと彼女は困った表情をしながら頷き、歩くのを再開する。

 俺は再び彼女についていくと、窓がある廊下へと出る。

 その窓も、ヒビの入ったガラスのようなものが嵌められていて、これまたこの城(仮)のボロボロさを俺に教えてくれる。

 ……いや、本当にこの国大丈夫?もう終わってないよね?

 嫌な予感が拭えない俺は、この城(仮)にある扉とは思えない扉の前にたどり着く。

 金ピカとかそういうわけでなく、何か複雑な模様が刻まれており、それが美しい装飾にもなっている扉。

 彼女は俺の方を振り返るという。


「勇者様、この扉に手を触れて下さい」


「この扉は?」


「この国の危機を解決するため、勇者様に最も必要な武器が勇者様の召喚と同時に召喚される部屋です。そして、この扉を開けるのは勇者様だけなんです」


「成る程、大体分かった」


 つまり、俺の専用武器がこの扉の先に召喚されたってわけか。

 俺は扉に近づき、右手でその扉の中心を触れる。

 すると触れたところから扉の模様が光り出していき、それが扉全体に広がっていく。

 そして、扉全体が光り輝くと共にガタンと大きな音がすると、扉は光となって消滅していく。


「うおぅ!?なんて魔法的な……」


 消えていく扉を見て、俺は思わず呟いてしまう。

 何となく、そうじゃないかなと思っていたが、凄く魔法的な扉の開き方に興奮してしまう。

 扉の先にあるという俺の専用武器に若干の期待を抱いて、部屋の中へと足を進める。

 そして、それを見た瞬間に俺は叫び声を上げてしまった。


「なんじゃこりゃー!?」


 それは、誰がどう見ても武器なんかじゃ決してなかった。

 というか、勇者様に最も必要な武器が一緒に召喚されるんだよな?

 どうして、これが召喚された武器だって言うんだよ!?

 

「どう見ても、農具じゃねーか!?」


 クワ、カマ、オノ、ハンマー、ジョウロと農具セットがそこには存在していた。

 これの何処が武器だって言うんだ!?

 どうしてこれが勇者に一番必要な武器になるんだよ!?

 驚愕の声を上げている俺の後ろから、彼女が部屋の中に入ってくる。


「わー!流石、勇者様です!この国に一番必要なものです!」


「どういうことだ!?まるで意味がわからんぞ!?分かるように説明してくれ!」


 これが必要な武器って、どういうことなんだよ!?

 困惑で、頭がどうにかなりそうな俺は彼女に説明を求める。

 彼女はいい笑顔で、俺の質問に答えてくれた。


「勇者様には、牧場経営をしてもらってこの国を助けてもらいたいのです!」


「はぁぁぁぁああああああああああ!?」


 意味が分からなかった俺は、ただ大声で驚きを表現するしかなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ