水魔法で泳ぎましょう
綺麗な月の夜だった。
辺境の海に囲まれた小さな島の小さな村、名前もないその村に一人の子供が生まれた。
後の世に『海の変人』と呼ばれ、嵐を引き起こす者、カイ・アルグレーその人が。
カイは悩んでいた。
まだ小さい両腕を前に突き出したまま首を捻りう~んと唸る。
その突き出された掌には赤と黄色の少し変わった魚「マントルフィッシュ」が木に刺さったまま、ほどよく焼かれている。
カイが悩んでいる事、即ち「食べれるか否か」両親は絶品だと言い、実際に完食している。
まだ7歳程度の子供だ、何処に悩む要素があるのか、両親は二人で微笑みながらも遠くから暖かく見守っていた。
カイが悩む理由、それはカイの記憶、カイは所謂前世と呼ばれる物の記憶を持っていた。
地求人の青年だった記憶を有するカイには、目の前の魚がどうにも危険に思えて成らない。
赤と黄色の体、更に口の中は青色、危険色の盛り合わせである。
両親が食べたから毒はない、でも取ってきて魚を只焼いただけの魚。現代っ子のカイには少しハードルが高かった。
ふっ、と短く息を吐き気合いを乗せカイは一思いに食らいつく。
小さい口で噛みついた瞬間、口の中に広がる肉の旨味、見た目に反した軽い口通り、骨そのものも食感を微かに感じる程度で喉に刺さる心配もない。
止まることなく食べ続ける。そのまま一気に完食した。
カイは感動した、日本では食べること叶わない味、そして感謝した。自分をこの世界に送ってくれた何者かに。
その感謝も更に出された魚への食欲に飲まれ直ぐに消えたが。
カイが再度生を受けた世界「シェルピス」は朝が早い、村の大半は農家で硬貨を使うこともなく物々交換で互いに作った物を交換し会うのだ。
カイはまだ小さい為の農作業を手伝うことは余りしていない、と言うよりも両親が「子供は遊ぶもの」という異世界の農家では少し珍しい考え方をした二人だったのだ。
マントルフィッシュを食べたカイは海に行きたがった、しかし父の強い反対で一人で行くことを止められた。
カイは前世の事を誰にも話していないのだ、7歳の子供一人で行ったこともない海に行かせる親はいないだろう、止められるのは当然の結果だった。
何度も目を盗んでは海に行こうとしたカイに、ついに折れた父は苦笑しながら"釣竿を作るから明日一緒に行こう"と約束してくれた。
母は最後まで反対していた、"海には海神様が居る"と近ずくべきではないと言っていた。母は子供の頃に実際に見たことがあるとも言っていたがどうにも胡散臭くて信じてはいない。
次の日の朝、カイは父と共に海に来ていた。
その平均よりも小さい体に木で作られた長い釣竿を持って。
母や兄弟は結局快く送る、とは行かなかったが許してくれているようだった。
歩いて一時間程度、浜辺まで着たときに朝日が差し海を照らした。
カイ・アルグレーと成って初めて見る海は唯々広かった。
朝日に照らされた広く大きい海。日本の、いや地球のそれとは存在が、大きさそのものが違うようなそれはカイに不思議な燻りを与えた。
それが体が小さいからなのかそれ以外の理由からかは分からなかったがカイの中に小さな灯火を作った。
そのままカイは魅いられた様に海を見続けた。
瞬きもせずに見続けるカイに父が語りかけるが反応を返さない。
父が肩を強く叩き金縛りに係ったような感覚が消えカイは動き出す。
カイは父の制止を振り切り海まで駆けた、父が寝ずに作った釣竿を放り出し服が濡れるのも構わずに。
バシャバシャと水の中を歩き腰まで浸かる場所で動きを止め、軽く掌で水を掬う。
懐かしい水を裂く感触、そして海という大きな存在を潜る事で全身に感じる。
今思えば前世でも海や川が近しい存在だった。
子供の頃は川で日が暮れるまで遊んだものだ。泳ぎや潜水が友人の誰よりも得意だった。その小さな自慢も水泳部に入り脆く崩れたが。
だがそれでも好きだった。
今分かる、一度死に再度人生を歩むことが出来る今、僕がやるべきことは泳ぐことだ。父は農家で兄も弟も居る、二人には悪いが僕は自由に生きることにしよう。
天啓のような物だった。
前世では夢というものも無く、唯流されて生きていた。無難に、そうただ普通に人と同じように生きていた。
でも今は違う、此処は異世界だ。隣のおぼちゃんが手から炎を出すのを見たことがある。その時は熱くないのかな、と思っただけだった。
不思議な事に海を見ることで、この世界が異世界だと強く理解したのだ。
海から勢いよく顔を出し思う、どうやら自分はどうしょうもなく海が好きらしい、一度死なねば分からなかった事だ。 そして一度死んでも治らなかった事でもある。
あるべき所に帰ってきた、そう感じた。
焦りながら駆け寄ってきた父を見ながら考える、まずは体作り、その間に水魔法を習おう。
取りあえずの目標は25m泳ぐこと、そして水魔法のウォータージェット推進だ、と。
海への決意から5年が経過しようとしていた。
カイは7歳から12歳へとなる。
背は余り伸びず未だ小さいままだが長いトレーニングのお陰でしなやかな肉体と大人にも負けない基礎体力を得ていた。魔法をおばあちゃんに習い水魔法使いと名乗れるまでになていた。
5年間、挫折と苦労の連続だった。
小さい体で出来るトレーニングは少なくやり過ぎると成長を妨げる危険性があった。
そのため軽い体力作りのランニングと筋肉が付きすぎない程度の筋トレをした。筋肉の重さで背が伸びないのを危惧してだとはカイ以外誰も知らない。
それに並列して"だらける"事のイメージを掴んでいった。泳ぎには無駄な力みでの体力消費が一番の敵だ。力まないイメージを掴むため毎日一時間のだらけタイムを設けた。
5年間、海に入り泳ぐ事も余り出来なかった。一人で海に行こうとして捕まる、を繰り返したことで母からは一人で村から出ることを禁じられた。それでも止めなかったが。
おばちゃんに魔法を習い始め、数年たった頃からカイは村の人々に認められ始めた。
それまでは言うことを聞かない、親の手伝いもしない不真面目な子だと思われていたのだ。水魔法を使っては不気味な笑みを浮かべるせいだとカイは知らない。
カイは高圧水流、即ちウォータージェット、又はウォーターカッターを会得していた。水を高圧で放つことにより大木や岩もスパスパ切れるのだ。
初めはイメージが以外にも難しく"水で切断する"と言うよりも"水ご当たった場所を吹き飛ばす"と言うイメージをだった。ウォータージェットは水で切るため熱が出ず木を切るのにも心配はいらない。
一時期指先から水を出す技を"ウォーターガン"と名付け使いまくった頃があったがそれは既に黒歴史だ。忘れたい、いやもう忘れたい。
これを使い今までの噂を撤廃するに至ったのだ。村に時折訪れる魔物は全てカイが退治した。
そうなると掌を会したように変わるのが人の常だ。家族以外とおばちゃん以外に無関心のカイにとっては気がつきもしない変化だが。
誕生日が来てカイは12歳になった、その日からカイは海解禁を母から申し使った。
カイは飛び上がって喜びその勢いのまま海まで駆け出した。背後から何事か叫ぶ母の声が聞こえたような聞こえないような。
5年の体力作りの賜物か浜辺まで歩いて一時間の所を20分まで短縮できた。
そのまま下着一枚になり海に飛び込む。
ザバーン、と海に飛び込み目を開ける。肌に魔力を通すことで強化された体に痛みはない。
7歳の頃からに取りつかれたように求めていた海。いや、前世も合わせればもっとだ。
視界の中、日本の時と違いゴーグル越しではない大海。
見るもの全てが初めて見るもの達だ。色とりどりの魚、動く大岩、群れを成して泳ぐ人魚。
ああ、これが海だ! 恋しくて止まない物。
その日カイは泳ぎ疲れプカプカと浮いている所を通りかかった村の人に助けられた。母が鬼のようでした、もはやあれは鬼そのものでした。赤鬼の方ね。泣いてたから。
カイは毎日に海に通った。
泳ぎ疲れては拾われてくる僕。
母は半分諦めたような目をしていた。
だがある日昼から天気が変わり海が荒れた。その日もカイは朝から海に行っていた、そして夕方近くになっても帰ってき来なかった。
これには村の皆が焦った、村の大人達が何人も海まで捜索に行ったが影すら見つけられない始末。
だがその捜索も唐突な報告で打ち切られる事になる。
カイが見つかったのだ…………村の井戸の中で。
カイ少年の主張はこうだ、
「昼に一度帰って来てた、天気が悪いから井戸の中を泳いでいた。梯子を忘れて登れなかった」
それに対する大人達は息を会わせこう言った、
「帰って来てるなら言えよ! そして井戸は泳ぐ所じゃない!」
至極当然の事だった。
一番心配していた母は泣きながら怒って言った"次、同じことがあったら海に行くのを禁止します"とカイは戦慄した。
周りの目も元に戻りあだ名が変人になった。
が、他の悩みに飲まれそれらも直ぐに消えた。
カイの最近の悩み、それは『空気』だ。
水魔法のウォータージェット推進はおおよそ成功だった。
水を前方から集め後方に高圧水流として出す。
足から水を吹き出すのは腰に負担が大きい為、両掌を使い四つのノズル代わりにした。
全身を魔力で強化することで様々な圧にも耐えられる。
そう思いかなり深い所まで潜って見ることにした。だがカイは完全に忘れていた、息が続かないことを。
その結果プカプカと浮く状態を繰り返すのである。勿論、魚達と友達になり夢中で遊んだせいでもあるが。
熱中し過ぎたら周りが見えない自分の悪い所、と軽く考えるカイ。死にかけた事を少しも分かっていなかった。
カイの次の目標は風魔法による酸素ボンベだ。風魔法で膜を作りその中に圧縮した空気を留める、そう考えたカイは隣のおぼちゃんに風魔法を習いに行った。
だがおばちゃんの返答は"無理"だった。おばちゃんは火と水しか使えないらしい。カイは絶望した。だがおばちゃんの"街に行けば居る"の一言で立ち直った。
カイの目標は決まった、風魔法習得、そして空気ボンベを再現することだ。
カイは母(鬼)の説得に走るのだった。
村を出てから5年の月日が経った。
カイは17歳になっていた。16歳が成人の世界、カイは立派(?)な大人になっていた。
村から然程離れていない街で風魔法使いに弟子入りした日が懐かしい。三時間、風魔法使いの足を掴んだまま土下座し続けたのは最早過去だ。
風魔法と共に水魔法の腕も磨きカイの名は轟いていた。
街の池に飛び込んでは奇声を上げ、水を触る度に"えへへ"と不気味に笑う変わった天才として。
天才と馬鹿は紙一重、そんな異国の言葉を思い知らされた街の住民達。
だがカイは嫌われている訳ではなかった。魔法を惜しみ無く使い態度も礼儀正しく丁寧な所も有名だった。ただ、変わった言動が全て台無しにしていただけで。
街に来てから5年間、カイは沢山の物を獲た。それは風魔法だったり海図だったり魚図鑑だったり。だがその反面、カイの中で日に日に大きくなる欲望、そう禁断症状が出始めたのだ。
海に行けず見ることも叶わない五年間、その苦行を耐えたカイ。途中どうにもならず池に飛び込んだのはしょうがない事なのだ。
そして対に風魔法使いから免許皆伝の資格をもらったカイは海に帰る(村に帰る)
村までの道のり何度も禁断症状が出ては水魔法でどうにか抑える、を繰り返した。
そして、村に着いたその日。
村の様子がおかしかった、誰も出迎えに来ないのだ。手紙で今日帰ることは言ってあった筈なのに。
どうして、理由が分からないカイ。子供の頃は手伝いもしたし水魔法で手助けもした。
魔法の修行で真面目さもアピールできていた筈なのに。カイは知らなかった、自分が"変人"と呼ばれていた事に。魔法の修行の時も時々笑っていたせいで不気味がられていた事も。
村から誰かの叫ぶ声が聞こえた。カイは走った、むしろ飛んだ。地上ジェット推進で、風魔法を思い浮かべないところはご愛敬だ。
上から見る限り村は海賊に襲われていた。何でこんな時期に、と思いながら急いで駆け出す。
だがその時、唐突に切れる。水が。
水魔法は近くの水分や液体を操作する方が楽なのだ。カイも竹を切った容器に水を入れて持ち歩いていた。
だが道中の禁断症状のせいで少しずつ減り、地上版ジェット推進をしたせいで完全に無くなったのだ。
カイは思う。
ああ、熱くなりすぎて周りが見えない自分の悪い癖☆、と。
落下する体。どうせなら海に落ちれば海に落ちれば良いのに、と考える辺り自分は海好きなんだな、と再確認する。アホである。
流石にこのまま落ちた場合、痛い所ではない。そう思いながら風魔法を思いだしゆっくりと降下する。
争う村の人々。
カイは目の前にある海か、険悪な雰囲気が漂う村か悩んでいた。
争う二人の脳内カイ。海に行けと言うカイと飛び込めと言うカイと、ああ、どっちも海か。
カイは海をとった。どうせ出迎えもない薄情な村の人達だ。それにおばちゃんや元冒険者のおじさんも居たから大丈夫だろう。海賊が居るから出迎えが無い、と考えが行き着かないカイ。頭の中は海で一杯だ。
ふわりふわりと海を目指してい所、どこか懐かしい鳴き声が聞こえる。鳴き声のした場所を見る。海賊船の傍らに黄色のイルカが目に入る。
体から血を流し僕を見ながら弱々しく鳴いている。
ああ、あれは! カイは戦慄と共に懐かしい記憶が蘇る。7年前友達になったドルドルフィンのドル子ちゃん!
カイは怒った。ドル子ちゃんの痛ましい姿に。
共に海を泳いだドル子ちゃんの敵をとるためにカイは空を駈ける(ドル子ちゃんは別に死んでない)。多少の無理を承知で海の水を操る。
海を震わせ水の巨人を作り出す。
巨人に気がついた海賊達が何かを叫ぶが聞こえはしない。海の怒りを知るがいい、そう叫びながらカイは腕を振り下ろす。それをなぞるように腕を振り下ろす水の巨人。
巨人が殴り付けた場所が陥没し小さな池を作る。海賊達は泣きながら土下座をしている。そんな事で許されないぞ、そう思いカイは再度腕を振ろうとする。
だがその途中で聞こえるドル子ちゃんの声、生きてたんだね! 満面の笑みでドル子ちゃんの方を見る。
何故かドル子ちゃんが僕を睨んでいる。おかしい。
首を捻りながら考えていると母の声が耳を打つ。
手招きしている母、カイは母の場所まで降りる。母の横に居る海賊面の男が気になった。
地に降り立った僕は開口一番母に尋ねた"父さんとは別れたの?"、殴られた。ビンタではなくグーで。
別れて居ないならばと"まさか、父さんは既に……"と言うと後ろから小突かれる、父さんだった。生きてたんだね。
そこから始まる長い説教。まず息子の無事とか成長を祝う物では?
そう思ったがどうやら海賊達は襲撃に来たわけではなく食べ物を貰いに来ていたらしい。
それは襲撃では? と思ったが貰った分はちゃんと労働するらしい。なんて丁寧な海賊達。ドル子ちゃんも怪我をしていた所を保護しただけらしい。
僕は土下座した。頭が地面にめり込む勢いで。ガンガンと頭を打ち付けながら謝り続けた。
叫ぶ声が聞こえ顔を上げるとドン引きした村の人達。おかしい、風魔法使いはこれが正しいやり方だと言っていたのに。
許すと言う優しい海賊達。だがカイも一人前の魔法使いだそう簡単には行かない。カイは言った"自分に出来る事なら何でも一個叶えよう"一個だけの所がなんともズルいが海が近くに感じる今そう何個も叶え続けるのは苦痛だ。
海賊は言った、ならば航海を妨げる海の主を倒してほしいと。
それを聞いた瞬間母はカイを止めた、なんでも母が幼い頃見た海神様の事らしい。
カイは快く引き受けた。どうせ何時かは倒す予定だった物が早まっただけだ。
母を説得し早速海に飛び込んだ。時刻は昼、今日中に終われるつもりだった。
海賊の話では主の姿は大きい蟹だそうだ。水の中で戦うには少し面倒だがどうにかなるだろう。
風魔法で空気を圧縮し口回りに留める。肺など臓器も魔力で強化するのを忘れない。忘れると死ぬ。
久々の海にカイは涙した。号泣だ。
ウォータージェット推進を発動し海を駈ける。空気を少しずつ戻し故旧もバッチリだ。
水深が深まり水圧も高まる。全身を巡る魔力を増やし強化していく。
暫く海を自由に泳ぐ、水中には遺跡のような物があり大変興味そそられる。だがぐっと我慢して上昇する。
その時、一艘の船を襲う巨大蟹が目に入る。
コイツだ。カイは一気に距離を詰める。
蟹は気づいてはいない。距離か殆ど無くなった辺りでカイは水魔法で水を強く弾く。
強く弾いたことで生まれる衝撃波。それは大きい波となり蟹を襲う。水を操作して船を運ぶのも忘れない。
蟹が此方を睨み大きい鋏を向けてくる。
衝撃波は余り効いてないようだ。ならば水中でも関係ないウォーターカッターだ。
僕を挟むように鋏を振る蟹。カイは足からジェット推進を発動し後方に引く。振られた鋏を指差しウォーターカッターを放つ。
強い手応えを感じ片方の鋏を捉える。しかし鋏に小さい傷を作る程度で切断には至らない。
蟹はジェット推進で逃げるカイ目掛け凄まじい勢いで迫ってくる。地面もないのにあり得ないスピードで泳ぐ蟹。流石はファンタジー、と迫る巨大蟹に恐怖しながら思う。
接近してくる蟹はカイ目掛け泡を繰り出す。信じられない早さで打ち出される泡。泡の一つがカイの肩に触れ爆発する。
蟹が放った泡。それは乱気流のような水が封じ込まれていた。体がぐるぐると回り目が廻る。
更に迫る泡に回転しながらウォーターガンを放つ。叫びながら撃ったことで黒歴史を呼び起こす。
それにより更に泡に被弾する。
パニックになったカイは風魔法の制御を誤り空気ボンベを解除してしまう。
そこからは散々だった。必死に逃げ村に着いた頃には殆ど魔力切れの状態で気絶していた。
蟹に敗北した次の日、カイは悩んでいた。
どうすれば倒せるのかを。
思えば風魔法と水魔法、両方使って入るが合体させたことはない。
つまり、どちらも使った全力魔法で戦う。勝気はある、風と水つまり嵐。嵐魔法だ。格好いい。
そうと決まれば早速練習だ。
カイはその日から妥当巨大蟹を目指し日夜特訓した。実際はその内の8割は海で遊んでいたが。
海賊達もすっかり村に馴染んだ3ヶ月後、対にカイと巨大蟹(正式名ジャイアントグラブ)と対峙していた。
睨み会う形で動かない両者。
先に動いたのは蟹だった。凄まじく不気味な超発進で近づいてくる蟹。
泡を無数に作り出しカイを狙う。
それをカイは風魔法で小さくも強い水流を作り壁にする。
泡はその水流に流され向きを変える。そのまま蟹目掛け殺到する。カイは風魔法で一回転するように水流を作り出したのだ。
バンッバンッと泡が蟹に当たり弾ける。だが蟹はそれを無いもののように直進を止めない。
凄まじい勢いで向かってくる蟹、カイも両足からジェット推進を発動し向かう。
ぐんぐんと距離が無くなっていく。蟹が鋏を振りカイを狙う。
カイはそれを風魔法と水魔法合わせた水流操作で狙いを背ける。
弾かれたようにうち上がる鋏、それを指差すように指を動かし魔法を発動させるカイ。
3ヶ月前は効かなかったウォーターカッターだが今度は更に細く収束することで切れ味を増した強化版だ。
指を振るように動かす。ワンテンポ遅れて分断する両鋏。
二つの武器が壊れ暴れ始める蟹。
カイは蟹の懐に潜り込まみ嵐魔法を発動する。作り出すのは水上竜巻だ。
その名の通り水上で現れる竜巻を再現したものだ。
眼前に細長く渦状の竜巻が出来あがる。竜巻は地上から上空へと伸びる上昇気流。風魔法と水魔法でそれを再現したのだ。
竜巻に巻き込まれる蟹、そのままぐんぐんと上昇し一気に空へと飛び上がる。
恐らくこの攻撃で蟹の堅さは破れない。だがカイの目的は蟹を他の場所に移すことだ。海賊達もそれで良いと既に言っていた。
カイも上昇し蟹を待ち受ける。
重力に引かれ墜ちてくる蟹、カイは水の巨人を作り蟹を強く叩く。
ホームランボールのように飛ぶ蟹。カイは願う、何処か平和な場所で生きろよ、と。自分に酔うカイ。
村の方から皆の声が聞こえる。カイの戦いが見えたのだろう。止せよ、恥ずかしい、手振りでそう答えカイは海に潜っていく。ああ、やっと海が楽しめる。
カイは既に海のことで頭が一杯だった。そう村が竜巻で無茶苦茶になってるなんて考えもせずに……。
調べが足りない為、ウォータージェット推進等は間違いがあるかも知れません。