5.また明日
「あれ、こっち方面だっけ?」
学校を出てから二十分は経っている。普通に話していて時間に気が回らなかったけど、駅を通り過ぎていた。確か二人は電車通学だったはず。僕の家は駅を少し越えたところで、駅からは徒歩で十分ほどだった。片道三十分の通学で自転車ではなく徒歩通学なのは、ただの健康のためで。
小百合と智哉は今更、という顔をした。
気付くの遅くて悪かったな。
「んー純粋な由宇くんを送って行こうかなーと」
「純粋って何。その言い方だと、言い換えると馬鹿ってことになるけど」
「馬鹿じゃ意味が違う。送られるのは嫌?」
窺うように首を傾げて上目遣いに見る智哉に頭痛がしそうだった。ただでさえ可愛い顔なのに、それを意識しての仕種は一層智哉の容姿を強調させた。
思わず額を押さえた。本当にこの二人は。自分がどうすれば魅力的に見えるか自覚していて性質が悪い。
助けを求めるように小百合を見ると、小百合は苦笑して智哉の額を軽く手の先で押した。その様子は友達の気軽さで。途端に智哉はふっと息を吐いていつもの無表情に戻した。
だから何があったんだ。二人は僕のわからないところで理解し合っている。そして、真弓も何かがわかっている。仲間外れになった気分だ。
いや、今は信じよう。
「送られるのは嫌じゃないけど、君たちが遠回りになるのが気が引けるだけだよ」
「これは私たちの自己満足よ。帰るときくらい、長くいたいなって。友達になったばかりだしね」
小百合は気持ちを切り替えたようで、快活になっていた。生き生きしているのは見ている方も気分が良い。楽しそうにしているところを申し訳ないけど、足を止めた。同じように二人も止まった。
「ここが僕の家。今日は突然だから帰ってもらうけど、事前に言ってくれれば用意しておくから、上がっていって」
家はきちんと掃除してある。でも、客を迎える用意はできていなかった。家に上げるのだから、茶菓子の用意くらいはしておきたい。
二人は驚いたように顔を見合わせ、くすくすと笑い始めた。その様子は教室での悪巧みに似ていたけど、表情が違っていた。僕の前での振舞いだけは演技をしていないようで、誤解しそうになる。
僕は君たちにとって特別なのか?
「うん、じゃあまた今度上がらせてもらうよ。明日は昼食の用意をしないで来てね。また明日、由宇」
「じゃあねー」
ひらひらと手を振る二人に手を振り返した。放課後、教室で目が覚めてから二時間も経っていない。それなのに展開は速かった。
これが藤田先生の何かの影響か。問題が起こったのが早かったというのも関係しているのだろう。智哉が「巻き込まれる」といっていたのが気になった。もう巻き込まれているのか、それともこれからなのか。
玄関の扉がいつもより重く感じた。




