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11.過去の部活をもう一度

「約束通り、作ってきたけど」

 結局、疑念はそのままで昼を迎えた。昨日と同じ配置で座っている。中華料理ということだけど、装丁は全く気にせず重箱に入れて来た。普通の重箱ではなく、食べた後は一つに纏められるようになっている。料理は食器の見た目も大切だけど、外に持っていくには利便性も必要だ。

 三重の重箱を袋から取り出すと、小百合と智哉は早速蓋を開けた。

「わー春巻きが両方ある」

「どっちでもいいって言ったから、どっちも作ってみた」

 プラスチックの皿を二枚ずつ渡し、箸はそれぞれ持参で用意は整った。手を合わせての「いただきます」の声は自然と重なり、昨日と同じように昼食は始まった。

 中華料理は弟の好物で、和食を得意とする母に代わっていつも作っていた。小学四年のときから週に一回のペースで作っているから、腕は着実に上がっている。実は今日持ってきたのは昨日の夜に作ったものだった。四人家族で、あと三人分を追加しても支障はない。

「うわー美味しい。生春巻きは勿論のことだけど、揚げた方も良いわ」

「炒飯は餡掛けにしたんだね。確かに、お弁当にするとご飯がベタつくからこっちの方がいいけど」

 話しながらも口に運んでいく二人に、自然と笑みが零れた。自分が作ったものを喜んで食べてもらえれば本望だ。そのために弟の我が儘で作ってあげていると言っても過言ではない。

 二人は僕の顔を見て、動かしていた口と箸を止めた。

 これは僕の笑顔のせいだ。

「あーもしかして、僕の笑顔は嫌い?」

「いや、そうじゃないの。笑っている顔が嫌いなんて、そうそう無いもの。ただね」

 小百合は言葉を濁した。笑顔を嫌だということではないことがわかったけど、続く言葉が気になる。

 もぐもぐと口を動かして沈黙した小百合は困った様子で、智哉に助けを求める視線を送った。智哉は口に残っていたものを飲み込んで、溜息を吐いた。

「君が笑うのは珍しいから。嫌いじゃないよ、君の笑顔は」

「じゃあ、気にしないことにする」

 そう宣言すると、二人は頷いた。嫌われていなかったという事実に安心した。なんとなくなった友達という関係が、今では失い難いものになっていた。一人でいるのは楽だけど、小百合と智哉なら一緒にいるのも悪くない。嫌な視線が付き纏うけど、そんなことは気にならない。

 小学時代の給食のように、会話のある昼食は穏やかに進んでいった。


「須賀! 放課後、時間あるか?」

 休憩時間に廊下で声を掛けてきたのは、体育教師の武藤むとう先生だった。入学当初から、いろいろとお世話になっていた。

 武藤先生は陸上部の顧問だったかな。

「ありますけど……また助っ人ですか?」

「ああ、頼めるか?」

 昨年は部活動の一環で陸上部の練習に付き合ったことがあった。それぞれの得意分野で手伝うため、運動部では球技以外の部活は全て練習に参加したことがある。

「はい。ちょうど体操服も持ってますし。放課後、職員室に行きます」

「助かる」

 四十代前半なのに青年の笑みを浮かべた武藤先生は背中を向け、片手を挙げて運動場に向かって行った。

 もう『万屋』は廃部になり、部員ではなくなったけど、頼まれるなら断るつもりはなかった。先輩たちが、先輩たちと作った関係を、壊したりはいない。

 それを望まない人がいたとしても。


「今日は陸上部の練習に付き合うことになったから、一緒に帰れないんだけど」

「あ、武藤先生に頼まれたんだ? うん、了解」

 小百合はビシッと敬礼した。こういうノリは『友達』だな、と実感する。猫を被っていない小百合は近寄り難い美人ではなくなっていた。

 『特別』な人なんていなくて、『特別』だと決めるのは個人の価値観で。『特別』な人の隣にいる僕は邪魔者で。それは近所から『美形家族』だと言われている両親の子供に生まれたときから始まっていた。弟は両親に似て『美形家族』の一員で。

 『普通』な僕は、それでも『特別』な人と一緒にいた。

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