どうしよう、まだ武器とか持ってないんだけど。
「ガルゥッ」
木の間から一匹のウルフが口から唾液をだらだら垂らしながら
出てきた。
「ん?どうした、お前もこれが欲しいのか?」
俺はそう言いつつ少し焼いた死体から離れてやる。
だがウルフの目はそちらではなく俺の方をとらえている。
ですよねぇー。
同族なんかよりも身のしまった人間の方がおいしそうですよね。
どうしよ、戦う?獣と?
えっでも武器ないよ?素手?足?
ちょっとずつ後ずさりして逃げる隙を窺いつつも
戦闘になったときの対応を考える。
くそ、あの野郎、こんなとこに転送しやがって!
こんな状態で戦闘になるかもしれないことを思い悪態をつく。
そこそこ自分で歩き回っている以上は自分から危険地域に飛び込んだともいえるが
町とか安全なとこに転送すればこんなことにはならなかったんじゃないか。
責任転嫁はやめよう。あいつにも飛ばせる場所はわからなかったかもしれん。
それに今やることはこの状況の打開だ。
過去よりも未来の話だ。
俺は空手なんかの戦闘に役立つことは何もしてなかった。
運動神経自体は悪くないことはステータス上の能力からも裏付けはある。
だがそれと戦闘技能とは別だ。
となると戦闘経験・技術の無い俺がモンスターに勝てるかどうかは怪しい。
能力値中上昇があるものの今の状況打開の鍵にはなりそうもない。
どうすっかな、うーん、逃げるか。
さてそうと決まるとどうやって、が問題だな。
今ある手札としては生活魔法、死体、そして道すがらに拾った幾つかの石ころ。
さてどうするか。
いつ襲いかかってくるかもわからん。
今はお互い牽制しあって小康状態だが、時間をかけられないのは事実。
今ある手札でどうすればあいつの気をそらせるかを頭の中で組み立てていく。
どこかに穴はないかと何回か確認しつつも警戒は怠らない。
そして、一定の目途が立ったと確信して再びウルフに向き直る。
こころの中で自分に激をいれる。
さあ、勝負と行こうか。
俺は死体に向けて生活魔法を放つ。
といっても俺が何かしたとばれないよう細心の注意を払ってだ。
まだ異世界に来てすぐの俺が使い慣れてるはずもないから
ボロが出るかもしれないがここではちょっとでも死体に視線を逸らせればいい。
生活魔法が発動される。
俺が使ったのは土系の魔法だ。
というのも他の系統だと単純に死体の上から何かすることになる。
それだとなんか俺がしたってことがばれやすそうだからだ。
すると、土が隆起し、死体の頭の部分が少しだけ持ち上がった。
ウルフが少しだけ死体の方に視線を向けた。
やはり大きな隙はできない。
まあそれは想定済みだ。できたら御の字くらいにしか思ってない。
俺はウルフの視線が少し逸れたのを見逃さず、
すかさず最小限の動作で石をウルフの後方に放った。
心持距離が離れているように感じていたので心配だったがうまくウルフの後方に落ちた。
これは一番心配だったことだが、俺の思った通り能力値のSTRが影響してるんだろう。
よくゲームとかだとSTR(攻撃力)ってなってるけど俺が見たときはSTR(筋力)となっていた。
だからこれに関しては心配していたもののうまくいったようだ。
動作の面でも感づかれてはいないようだ。
石がウルフの後方に落ちて音が立つ。
するとウルフはすぐさま振り向いた。
ウルフだし嗅覚で敵を把握してる面もあるんだろうが
自分の予想外のところから音がしたんだ。
振り向いてしまうのも仕方ないだろう。
俺はすかさず全速力でウルフとは逆方向に走り出す。
ウルフは俺の走り出す音を聞いて遅れて追いかけてきた。
こいつ、音に反応しすぎだろ。
素早さにも能力値上昇補正がかかってるからスピードはそこそこ速く感じるが、
如何せん森の中という不慣れなところで足場も整っているわけではない。
距離を縮められることこそ今はないが一方で差が開いているかと言ったらそうでもない。
ここで他の奴来たら詰んじゃうな。
俺は必死に逃げながらもしもの時を考える。
フラグじゃないぞ!
もしもの話をしてるだけだからな!
いかん、こんなこと考えてたら本当に出てきそうで怖い。
もっと前向きなこと考えよ。
と思考を切り替えて20~30秒走ってたら、開けたところに出た。
今度はちゃんとした道がある。
すぐのところには橋もあった。
俺は急いで橋に向かう。
するとさっきのとは別の新手が2匹飛び出してきた。
くそ、やっぱいたのか別の奴!あんなこと考えてるからだ、
あぁ、もう今度からもっと前向きに考えれるよう訓練しよう。
まぁ、その今度があるか怪しいところだが・・・。
橋に差し掛かったところで新手二匹がかみつこうと飛びかかってきた。
俺はすんでのところで橋に転がり込んでそれをかわす。
二匹は左右から攻めてくる形だったので俺がよけたために頭をぶつけた。
この機を逃さず全力で橋を駆ける。
が、最初の一匹が追いかけてきた。
橋の真ん中くらいまで来たときにちょっとまずいな、と思ったが
この橋が揺れることに気づいて縄をつかみ、
俺は体という体を使って全力で揺らしてやった。
足場を悪くしたウルフはそのまま体勢を保てず下に落下した。
グシャッという音が聞こえた。下を見るとなんか血が飛び散ってる。
うわー、こわっ。
新手の二匹もこれを見ていて
俺のどうする、まだやるか的な顔を見るとあきらめて帰っていった。
俺は橋を渡り切ったところでドスンと音を立てて座り込んだ。
「はぁ、はぁ、あぁしんど。」
足は見るからに震えていた。
そう、俺は怖かったのだ。
高いところが・・・。
しゃあないじゃん、小さいころから治ってないんだよ。
でも命の危機に怖がってらんないでしょ。
今ちょっと橋の下をのぞいただけで体に鳥肌が立った。
ふぅ、できうるなら高いところは今後とも避けたいな。
警戒しながらもしばらく休憩してこの場を離れることにする。
一応道があるからそれに沿って行けば町があるかも。
歩き始めて5分としないうちに、人影が見えた。
俺は近づいて話してみることにした。