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タナトス 前編

やっと動いた!

「警戒態勢に入ったが、私を含めて君たちもできることはない。医療部がバックアップに入る。」


 キャットはアイスの言葉に安堵をにじませて頷く。

「裂け目ができたんですか?」


「文明に近いところに『ほころび』が出来て日頃から警戒態勢をとってはいたが、裂けたということだ。オーバーソウルとオーバーロードも“隔離”に入っている。小さい部類に入る裂け目だ。しかし被害は出る。」


 キャットの体に小さく震えが走る。


「すみません。『タナトス』という言葉初めて聞きます。」


「ええ!」

 キャット、お前は俺の相棒だろう。そんな他人のフリして驚くなよ。


「教育プログラムの中でレクチャーされただろう。」


「聞いた覚えはない。」

 伊達に高い知能指数を誇っているわけではない。座学なら一回で頭に入る。


「教育プログラムはいくつまで受けた。」


「D-7までです。」


「D~!」


 A~F10まである教育プログラムである。


「待てよ!司令の補佐官になるにはE-7まで受けていなければなれないはずだぞ?だから『タナトス』のことは知っているとばかり思っていた。」


「アリ、ビント=アームの認識票の教育プログラムの終了記録を」


『了解』

 すぐに目の前に投影される。


「・・・なる程、恐ろしくバランスが悪い。メカニカル・ブレインに関してだけF-6までいっている。これだけ見ると0-0のメインフレームへの立ち入りもできるな。」


「おま!」


「知りませんでした。・・・二回目の教育の時にクイーンが好きなものを学んで良いと言われたので、そこばっかり受けていたせいかな。」


 アイスもキャットも今の状況が危機的な色を含んでいるにもかかわらず、少しばかり力が抜ける。特にキャットは、星の終焉には神経質になっているので、起きてからずっとピリピリする張り詰めたものがなくなりいい具合に肩の力が抜ける。


「・・・キャットの良いガス抜きにはなったが、知らないでは済まされないな。」


「・・・認めます。俺だって『タナトス』に遭遇したことはありませんので、緊張していたことは確かです。」


「緊張が悪いことではない。私も実際に遭遇したことはない。が、どうも首の後ろがチリチリする。」

 キャットもプリズムもぎょっとする。司令が『首の後ろがチリチリする』といった時には決まって、悪い事態が起きる。100%の確率だから、おそるべしだ。


「『タナトス』は端的に言ってしまえば“敵”だ。『タナトス』自体は現象であって、事象であるから意思を持っているとは言い難い。少々乱暴に例えるのなら・・・無気力の雲といったところか。」


「無気力?」


「そう、生物を生物ならしめるものは、生存する意志だ。タナトスはそれを停止させる。生産を止め、生きるのを止め、死ぬことすら止める。緩慢だが確実な死。侵入を許したが最後その宇宙は滅びの道をたどるしかない。」

「侵入を止めることはできるのですか?」


「ルミナスにはできない。オーバーソウル《純粋思考体》なら対抗はできる。オーバーロード《高位生命体》なら湿潤を止めることはできる。だが、その両者も『タナトス』を駆逐することはできていない。精神エネルギー還元生命体のみがかろうじて、抵抗できるというレベルだ。」


「その『タナトス』がこの世界にもやってくるというのですか?」


 そうなったら、今まで自分たちが関わってきた星が廃墟になってしまうのか。そこに生きている生命体、人以外もすべて死に絶える。何もない鉱物だけの世界。

 やっとキャットがビビるわけがわかった。


「いや、裂け目があるというだけだ。『タナトス』は自ら超える力はない。次元の切れ目が自分のいる場所と他の場所をつないだときだけ移動する。だから、裂け目は早急に閉じることが必要だ。」


「「はい。」」




「司令。コクーンの準備かできました。」


「他のベースからも緊急転送させろ。」


「了解です。」


 コクーンというのは高度医療ポッドのことだ。ダメージをおった体の代謝、機能を代替えして延命させることができるし、体の機能を自然治癒の数十倍の速さで回復させることができる。単に疲労回復としても使えるものだ。


「アイス。アルル司令がお見えです。」

 ドアが開くと、一人の少女が入ってくる。


「お騒がせしてすみません。」

 申し訳なさそうに握手を求める。いや、少年だった。少女と見間違えるほど可憐な顔立ちだ。声も柔らかい。


「いや。できる限りバックアップする。」


「ありがとうございます。クイーンもオーバーソウルもオーバーロードの方々も出ているのですぐに閉じることはできるでしょう。ですが裂け目の近くにある惑星は、反動を受けてしまいます。そちらの保護にも人員を割かなくてはならないので、助かります。」


「気にしなくていい。」


「実はクイーンから司令たちに一緒に来てくれと。」


「しかし。」


 あの司令が『しかし』という言葉を使うのを初めて聞いた。アルル司令は、花がほころぶように可憐に微笑むと、

「指令と“キャット”と“プリズム”をとおっしゃられております。」


 アイスにかぶせて動じないものも初めて見た。流石司令、外見だけで判断し・・・


「俺たちもですか?」


「超えるものは見ておいたほうが良いとのおおせです。司令も守備範囲の違いから遭遇したことは確かないはずだと。」


「・・・わかった。」


「二人共揃っていることですしこのまま参りましょう。」



 目の前の景色がスライドしたかのように変わる。なんにもない殺風景な部屋だ。


「三人ともこのベルトとバイザーを着用してください。」


 司令と違う声に振り向くと、体格のがっしりした男が立っていた。いっしょにいたはずのアルル司令はいなかった。三人とも男の差し出すベルトとバイザーを身につける。


 アイスの雰囲気が怖い。


 付け終わると男が点検をする。

「こことここがグリーンになっていることを時々点検してください。点滅し始めたら、下がってください。今司令がまいりますので今しばらくお待ちを。」

 そう言うと男の姿が消える。


「消えた。」


 転送にしてはタイムラグが無さ過ぎる。


 アイスが息を吐く。

「あれは瞬間移動だ。アルル司令は主に精神文明を担当する司令だ。部下も当然能力者だ。」


 その言葉と同時に

「お待たせしました。」


 三人は咄嗟に身構える。


「良い反応ですね。」

 アルル司令が可憐に微笑む。


「ドアを使って欲しいものだ。」

 アイスがドアを差す。


「失礼しました。戦闘態勢に入っていますので。」

 戦闘態勢に入っていて、その可憐さはないだろう。


「司令は修行済みですがお二人は絶対に切らないでください。」


「私も切らないよ。」

 アルル司令がキラキラした目でいうのと正反対なアイス司令。


 美女と野獣?

 美女と吸血鬼だな。

 こんな若い時にルミナスに入る人もいるんだ。


 ジャガー司令といい、ルミナスの司令は皆変わっている。


「そうですね。中性的ともよく言われます。この外見ですとお坊ちゃんみたいに見られることが多いですが、幸い私の担当は精神関係なので、外見の比重が少ないのが助かりますね。」


 おわ!口に出していたか?


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