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事件

お読みいただきありがとうございます。

「全く初日はいじめられましたよ。」


「私がかね。君を?冗談だな。」

 湯気の立つカップを口に運びながら返事を返す。


「本当ですよ。相当ビビっていましたよ。」





 極寒の湖を思わせるブルーの目がプリズムを見る。目の前に司令が座っている。同じ高さに。あの時を思えば、信じられない状況だ。あれから、こともあろうに指令づき補佐官としてアイスにしごかれた。少しでも状況の把握が甘いと、冷たいアイスブルーの目で無言の圧力をかけてくる。身も心もへとへとになって、部屋に帰り着く。ジョゼとデートなど夢の又夢だ。タフなキャットも同様だ。アイスの担当する星は、まだ本格的に宇宙に進出していない星が多い。プロメテと同じ階梯の文明ということだ。大地に縛られているくせに大地を破壊汚染する兵器が、作られていく。踏み外して一気に戦乱へと向ったら、悪くしたら破滅が待っている。


『基本的には皆一緒だ。』

 アイスはこともなく言い切る。


 他の司令にも会えた。


「噂は耳に入っている。」

 大きくて分厚い手が差し伸べられるが、その仕草と口調のやわらかさに反して、極悪人のような顔をした司令だ。クイーンは顔で司令を選んでいないという証拠か。


「大丈夫だ。とっては食わない。」

 アイスが横から言う。


「もちろんだ。私は男には興味がない。」

 握手をすると、手から伝わってくるのは暖かい波動だ。


「へんな噂でないと良いのですが。」


「アイスが自慢するのを初めて聞いた気がする。」

 ジャガー=カーシュがにやっと笑う。どうやってもマフィアのドンのような剣呑な顔だが、一度見たら忘れられない強烈な印象がある。


「司令がまさか!」

 日頃の言動から褒められることなど信じられない。


 アイスが微妙に嫌そうな顔をすると

「無駄話はそこまでだ。ジャガー、打ち合わせに入るぞ。」


「わかった。」

 アイスの担当とジャガーの担当は共通することが多く一緒のオペレーションをすることもしばしばある。


 部屋を出て行きながらジャガーがアイスに

「彼らも今度のに参加するのか?」

 というのが聞こえた。


「二人はまだだ。もう少し揉まれないとな。キャットはともかくプリズムにはまだ」

 そのあとを聞く前に二人は扉の向こうに消えていった。



「悪いな、キャット。」


「何がだ?」


「俺なんかと組んでなければ、今の一件にも参加できただろうに。」


「なんだ、司令のあの言葉を気にしてたのか?お前らしくない。アイスはまだって言っていただろう。見込みがなければはっきりという司令だ。まだというからには可能性はあるし、まだまだ出ないなら、すぐそういう時はくるさ。」


「だが、俺がいなければキャットは」


「相棒なしに行く気はないさ。俺が思うに経験と度胸がかけているだけだ。」





 プリズムは30才を越えたと思う。だが、鏡に映る姿は20代の男の顔だ。ルミナスの認識票を持つとどうしてだか、細胞の再生が精度も回数も上がるので老化が極端に遅くなる。キャッチフィールドやフルールもそうだった。その上で、『超える』ようになると老化はほとんど止まる。アイスは見た目は40代だが、本当はいくつなのかはわからない。


 アイスがルミナスに参加したのが40代というだけだ。


「若い頃には戻れないのですか?」


 何かの拍子に聞いた。冷たい声でバッサリと切られるかと思ったら、

「クイーンに会ったのがこの歳だったからな。」

 と穏やかといってもいい声が帰ってきた。それを幸いに聞きたかった質問をぶつけてみる。


「顔も本当は治せるのでしょう?」


「治せる。」


「クイーンに合われた時には既にやけどを?」


「ああ。」

 そう答えて、やけどの顔の方をなでる。


「これは半分わざとだ。」


「わざと?」

 故意に醜いままにして置いてるというのか。


「初対面の時の反応で人間性を図るのにちょうどいいからな。重宝する。クイーンはもう直せというが」

 ということはクイーンが直せと言わないからというのはデマか。


「クイーンはそのやけどを見て何と言ったんですか?」


「クイーンか。あの方は『痛くないのか?不自由はないのか』と聞いてきた。『痛くはないし不自由もない。』と答えた。そうしたら笑ったのだ。『よかった、生きていてくれて。』と」


 アイスの顔が今まで見たことがないほど柔らかくなる。氷河期の終わりか。

「生きていることを肯定してくれたように感じた。それを忘れたくないからこのままにしているのかもな。」


 そう言うと顔つきがいつもの氷点下マイナス40度に逆戻りだ。




 大分慣れてきてジョゼとも食事をいっしょに摂ったり、担当する惑星に降りて一緒に遊んだりする余裕もできてきたある日の真夜中、ルミナスで未だかつてないけたたましい音で、プリズムは起こされた。

 寝室から居間へと走りでるとキャットも出てきたところだった。


「なんだ?」


「エマージェンシー・コールだ。」

 プリズムは知っている惑星文明を思い起こす。現時点では崩壊してしまいそうな危機的文明はなかったはずだ。


「何が起こったんだ?」

 二人は急いで着替える。


「・・・おそらくタナトスだ。」


「タナトス?」

 入りたてのペーペーではないのに初めて聞く単語だ。そしてキャットの声に恐怖の色が混じっているのも初めてだった。


アイスは元F1パイロットがモデルです。

引退後事業家に転身したという話を聞きます。

こういう性格をしているかどうかは知りませんよ?

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