武者修行?
ルミナスの一員となって8年が経った。
長いのか短いのかと聞かれたら、短いと答える。
最初の一年はキャットの跡をついて行くのが精一杯。二年目は対処がうまくなっただけマシというぐらい。やっと自分の方から提案できるくらいになったのは、今年に入ってからだ。9年目の冬をむかえてビント=アームはキャットと南国の島の陽光の下にいる。目の前には惑星統括官のキャッチフィールドと惑星担当官のジェームス=フルールがラフな格好で陽の光を浴びている。
「すまないな。呼び出して。」
ルミナスの上位者は相手をねぎらうことから始める。威圧しなくとも自分の存在感を与えることができるからか。
「フルーはサミット帰りのバカンスだ。私は、冒険中で日焼けと雲隠れの必要があってね。」
この八年間でフルールは政界に転身しミリアム連合議長になった。20数カ国に分かれていか国家は統合し今は2大大国にまで収斂された。わずか八年の間にここまで進んだのは、爆発的に増えたネットワークだ。グーネス。この仮想空間は今や巨大な社会そのものだ。グーネスは行政・商業・医療・交通・金融といった生活に欠かせないありとあらゆるものに関わっている。庭木の水やりの時間設定から、軍事衛星の軌道変更プログラムまで。グーネスがここまで生活に入り込んだのは、かつてないほどのセキュリティーの高さである。それまでのネットワークはサイバーテロとハッキング、ネット犯罪にさらされていた。グーネスはそれらを排除するほど優れた暗号方式を採用している。
また、グーネスに並列搭載されたA.Iはお互いに監視しながら、飛び交うメタ情報を監視している。始めは監視されることに反対運動があったが、完全に自動化されており人の目を排除されており、犯罪の検挙率で納得の数値を出したことから、徐々に認知されることになった。
仮想空間では国境はない。個と個の理念の違いが隔てを生むだけだ。多くの国は、形骸化してくる。単一でグーネスを導入できない国は他の国と連携を組むことになる。ネットワーク内の国の消失。その結果が現在の状況だ。
「いつもビルの中だからな。自然の中はホッとするよ。しかも圏外だからな。」
フルールのような立場の人間にはプライバシーはない。現代はそれが顕著だ。極限まで発達したネットワーク内で人の目のないところはない。自宅でさえその気になればグーネスは覗くことができる。
「フルーは”追っかけ”も多いからな。人気者はつらい。」
八年前と変わらず、甘いマスクのフルーは女性関係も派手だ。それが人気の一因なのだから、全く世間はわからない。
「ああ、時々君たちが羨ましいよ。」
時々と言ってのけるところがすごい。
「君たちもゆっくりして行きたまえ。ここは私有地扱いになっていて、グーネスの管理外だ。」
「君には釈迦に説法だったな。君はグーネスのアドミラル=エクスキューションの設計者だからな。」
キャッチフィールドの言葉にフルールとキャットが頷く。言われた本人は頭を掻く。
「いや・・・やれと言われたからやったまでで、ここまで爆発的に広がるとは・・・」
グーネスの存在が世界をまとめたようなものだ。
「異能の才だな。」
「やはり、クイーン選抜だな。2人ともよくやってくれる。」
言われた本人たちは恐縮の体だ。
「が、ここからが本題だ。」
「はい。」
「カシミランから、『進度が早すぎる。歪が出て揺り返しが来るまで、手を出すな。』」
「つまりデッド=ゾーンですか。」
「そうだ。早すぎるとは思わないが、外側からみればそうとも言える。」
「タイミング的には丁度いいだろう。」
「キャット、デッド=ゾーンって何だ?」
キャットの代わりにフルールが答える。
「干渉をしない。この星の進むままに歩ませるということだ。」
「ほおっておくという事ですか?」
「様々な発展の形態がある。形ある物を追求する物質型、心を重視する精神型。この二つははっきりとした形で現れるので例としてあげるが、実に多様だ。ルミナスに馴染まない個人型というのもあるが、それぞれがその惑星に発生した知的生命体の特性に基づくものだ。手助けをすると知らずにその芽を摘み取ってしまう場合も生じてくる。大体ルミナスにいるもの自体が偏ってはいるからな。ステロタイプになるのを防止するためだ。」
「カシミランの話によると、歪を出させるためとか。」
「早めに出れば、それだけ手を打ちやすい。」
「そういった意味でのデッド=ゾーンってありなんですか?」
「今のところ安定しているので小規模で行うということだ。本来なら数百年単位なんだがな。おそらく数十年単位だろう。私は表舞台に立っているので、万が一にも対処できると見ての判断だ。」
「私は秘境探検中の不慮の事故で行方不明になる。退場だ。別なパーソナリティで戻ることになるだろう。」
「じゃあ、俺たちも監視体制にいこうするのですね。」
「いや、君らはプロメテを離れてもらう。」
「離れる?」
ビント=アームが首をひねる。
「カシミランが武者修行に出せと言ってきた。」
「武者修行ですか?」
「クイーンから言われたらしい。毛色が違ってきているから、面白そうだと。」
意味がわからない。
「“キャット”“プリズム”。君たちは違う世界を見て、プログラム構築とアレンジ、情報収集と解析をそれぞれ磨いてこいとのことだ。」
「“プリズム”って誰のことですか?もしかして俺ですか?」
「クイーンの命名だ。バイタルサインが日毎に変わる変人で、珍しいからだそうだ。」
「今後共よろしくな、プリズム。」
「ルミナスに参加して今年で何年になる?八年か?」
「九年目に入りました。」
「九年で『飛ぶ』のか・・・キャットもそう言えば早かった口だな。」
キャットフィールドが感慨深げに言う。
「14年前です。ここに来たのが。」
「そうか、参加して25年だったな。」
「私も27年経ってからだ。」
「プロメテから優秀なものを二人抜かれるのはキツイが仕方がない。また、クイーンが探しに来てくださるとおっしゃっていらしたからな。」
「クイーンが来ていらっしゃるのですか!」
封印を解いてもらった時以来会っていない。
「君たちと入れ違いにな。」
「もっと早く来れば良かった。キャット、君が女の子にちょっかいを出しているから!」
「後悔している。」
キャットは頭を抱えている。
「お引き止めはしたのだが、お一人ではなかったからな。」
「君たちにも合せてやりたかったが、すまんな。それにしても・・・噂には聞いてはいたが。」
フルールがキャッチフィールドの言葉に頷く。
「まったく、ご本人にお会い出来てよかった。ほんの少しだが、気にはなっていたのだ。ルミナスの総帥たるものが、一惑星文明圏の統治者をパートナーとして選ぶのは、果たしていいのだろうかと。」
「実際に目の前にして吹き飛ぶ。スケールが違う。」
「同じ視点で物事を見れるからこそクイーンのパートナーなのだろう。」
「一回すべてのルミナスの者にお合わせするべきだな。『クイーンもただの恋する女だった』なんてことは言えなくなるぞ。」
「誰が言っているんだ?」
二人の間で会話されていて、キャットとビント=アームことプリズムは蚊帳の外だ。
「もしかして、クイーンのパートナー・・・あの方ですか?」
「そうだ。キャットはあったことがあるのか?」
「いえ、クイーンご本人が話しておられたのを聞いたことがあるだけです。」
「会う機会があったら、逃さない方がいいぞ。ルミナスの精神を理解している。」
キャットまであっちに行ってしまって、取り残されたプリズムは声をかける。
「いつ修行に出たらいいのでしょうか?」
「・・・すまんな。君たちは抜けれない案件を抱えているか?」
「ないです。」
キャットが頷く。
「じゃ、引き上げて地下に待機だ。カシミランのところから案内役が来る。」