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クイーン

 一か月間しごかれた。昼は一般的な護身術や射撃訓練。夜はハウルスクの言っていて講義。寝ている間もわけのわからない知識を睡眠学習みたいに、頭に叩き込まれた。


『ルミナス』とは今はもうない、クイーンの馴染みな深い星の言語で『光』という意味だそうだ。


 自分では流されるままだったので、あまり変化がないように思えたが、再び会ったハウルスクが

「大分らしくなってきたな。」

 と出迎えた。らしくっていうのはどんな感じなのだろう。


「これから、どうするんだ?」


「本来なら、これから地下(うらかた)で簡単な役回りや補佐的な仕事をこなしていくんだが、即戦力として実戦配備だろうな。」


 自信はない。


「惑星担当官と面談だな。銀河担当官はどうかな?」


「銀河だって?」


「そうさ。まず惑星担当官のキャッチフィールドに会うことになっている。」


「キャッチフィールド?冒険家の?」

 秘境探検家として知らないものがいないほどの超有名人だ。彼がルミナス。それよりもビント=アームの中では、ルミナスは政治結社としての認識だった。世界と技術の差はあったが、この世界だけに限定されたものだと思っていたが『銀河』単位なのか?


「ようこそ、ルミナスへ。君の教育成績を見せてもらった。良い適応力だ。」

 白い歯が溢れる。テレビで見るのと同じだ。いや、当然なのだが・・・


「あなたがルミナスの惑星担当官と聞かされて驚いています。」


「そうか?今はちょっとした有名人だからな。」

 人を引き込むような笑顔だ。男が憧れるタイプだ。


「君には感謝しているのだ。久しぶりにお目にかかれるからな。“キャット”」

 ハウルスクに声をかける。


「君も昔あっているはずだったな。ビント=アームと同じ『クイーン選抜』だったはずだ。」


 ハウルスクの目がに開かれる。

「もしかして?」


「ああ、こちらにいらっしゃられている。」

 そう言うと耳の後ろに手を触れる。


「クイーン。ビント=アームが来ました。」


「今行く。」

 答えたのは男の声だ。


 ドアが開く。2メーター以上の長身の男が現れる。横幅の広い。灰色の肌銀色の猫のような目。白い髪。明らかに異星人だ。


「銀河担当官カシミランだ。」

 深く響くようなバリトン。


「よ、よろしくお願いします。」


「仲間が増えるのは喜ばしい。」

 表情筋は動かないが、不思議とそっけなくは感じない。


「カシミラン、あなたが私の前にいると何も見えないのだけど。」


 この声は?


「おや、これは失礼を。」

 カシミランがどく。


「あ!」


「2度目ね。正確には3度目だけれどあなたは覚えていないでしょうから。」


 彼女だ。

「覚えていますよ。あなたに合って忘れるものなどこの世にいません。」


 キャッチフィールドがビント=アームに向かっていう。

「この方が総司令クイーンだ。」


 総帥の名がクイーンだとは知っていたが、改めて会ってみると場違いなほど若くて美しい女性だ。クイーンはハウルスクの方に向く。

「“キャット”、よくやっているようね。私も鼻が高いわ。」


「ありがとうございます。」

 ハウルスクが傍からみてもわかるくらいに緊張している。


「さて、」

 クイーンがビント=アームの前に来る。いい香りがする。

「私が立ち寄ったのはあなたの『封印』を解くためです。」


「?」


「あなたは天才だった。残された子供にとってそれはマイナスに働く方が多い。周りの干渉がいびつな子供をそしていびつな大人を作ってしまう可能性が高かった。だから、普通の子供にさせてもらった。訓練記録を見たがいいバランスになっている。『封印』を解かせてもらう。」

 そう言うとビント=アームの額に指をあてる。


 押されたわけではないが、頭が後ろに行きそうになる。頭が膨れたような気がする。


「あ?」

 自分の頭を思わず抑える。膨れてはいない。


 クイーンの手が離れる。

「しばらくは戸惑うがすぐになれる。・・・カシミラン。」


「はい。」


「もう一度教育し直して。昼だけでいい。」


「了解です。もう一度やり直しだそうだ。」


「いや、やり直しではない。」

 クイーンはビント=アームの額を指で突っつく。


「この中に空きスペースができたから、もう少し詰め込めるだろう。本人の興味わくことだけで良い。」


「承知いたしました。」

 クイーンは頷くとビント=アームと目を会わせる。黒い目は夜空の星のようだ。クイーンは何も話さない。


 沈黙に耐え兼ねて

「あ、あの」

 と声にすると目がそらされる。


「私はもう行く。ナハルがやきもきしているだろう。」


「私も後からご一緒しても?」


「歓迎するが、早くしないと待ってはいないぞ。」

 クイーンは笑いながら部屋を出ていく。


「グレアム、しばらくこちらにいらっしゃるそうだ。」


「そうですか、では必ず私も行きます。」


「なるべく引き止めておくよ。」

 カシミランはクイーンのあとを追って出ていく。




「俺が身分違いなのに声をかけたから、気を悪くしたのか?」


「誰が、気を悪くしたって?」


「クイーン。」


「それはない。」

 ハウルスクの言葉にキャッチフィールドも頷く。


「君の能力を開放するために寄っただけだからな。」

 キャッチフィールドもカシミラン、フルールもビント=アームが今までの人生の中であってきた人間の中ではカリスマ性と人間的な魅力の持ち主だあったが、クイーンの入室とともに影が薄くなってしまった。仕草は普通の女性なのだが・・・・


 再び一か月、ビント=アームは教育を受けた。今度は面白いほど頭の中に吸収されていく。自分の望む知識をと言われたので、コンピューターのプログラム関連を集中的に選んだ。面白かった。ルミナスのメインコンピューターはA.R.I(all-round Intelligence)と呼ばれていた。ごく初期のものから始まりプロメテのスーパーコンピュータ、そして自分には未知の演算方式の処理方式までが複雑に混じり合いつながっていて、誰もその全部を理解せているものはいない。アリが自分で修理ロボットの設計をして随時修理させている。業務的な処理をする一方で、その膨大な処理能力の大半を使い、哲学しているとも言われる。“推論”と“可能性の演算”、“論理の飛躍”まで可能な特異な存在(?)でルミナスの存続には欠かせない要素だ。


「よっ!」

 ハウルスクが手を上げる。


「教育は今日で終了だ。」


「もう一生出れないのじゃないかと思ったよ。」


「それにしては、楽しそうにやっていたじゃないか?」


「いつ見に来たんだ?声をかけてくれればよかったのに。」

 いつも人に囲まれているビント=アームに声をかけにくかったなどとは言わない。ハウルスクは、小さい包を投げた。危ういところでキャッチする。


「なんだい?」


「認識プレートだ。」


「あれ?持っていただろう?」


「あれは、仮だ。こっちが本物。特別製だ。この世界では製造できない物質と加工で出来ている。複製不可だ。なくすなよ。」


「無くすなっていったって。」

 厳重な包を開けてみると一センチ四方の小さなプレートだ。目を凝らしてみると、表面が細かく加工されている。こんな小さなものをどこに仕舞っておけばいいんだろう。


「その表面の模様みたいなものは構成員のパーソナルデーターだ。」


「磁気でカードに読み込ませていないんだ。」


「磁気は案外データーが壊れやすくてな。」


「そう言われてみればそうか。ハウルスクも持っているのか?」


「キャットでいいさ。チームメイトだからな。俺のはここにある。」

 そう言うと手のひらを見せる。


「ただの手のひらだろう。」


「肌に密着させると5分で同化する。もちろんCT、金属探知機にも引っかからない。」


「これじゃ、無く仕様がない。」


「手首を落とされれば、なくすことになる。」


 さらりと血なまぐさいことを言う。

「どこに埋め込む?」


「心臓の上。」


「いい選択だ。」

 キャットは犬歯を見せて笑う。


「このプレートは個人のサイコパターンを記憶するほかに、ある場所に持ち主のバイタルサインを送っている。」


「ある場所?」


「クイーンのとこだ。」


「クイーン。」

 今も、彼女の映像は鮮やかだ。


「個人のバイタルサインは定期的にクイーンのチェックを受けている。変化はすぐにわかるから、直属の上位職に連絡が行く。それで、メンテナンスされるってわけだ。」


「なる程・・・待てよ?この星だけの組織じゃないんだよな。」


「もちろん。」


「どうやって彼女のもとへ、というかいつも彼女はどこにいるんだ?」


「昔は惑星にあったのだが、今は人口惑星だな。0ー0と呼ばれている。まだ、俺も行ったことがない。司令クラス、銀河統括官クラスしか踏み入れられないという話もある。」


「彼女は雲の上の存在というわけか。」

 ビント=アームの感想にキャットが首を振る。


「そういうわけじゃない。君のためにわざわざ出向いてきたろう?最前線に出るのも厭わない。銀のスプーンを咥えて玉座にいる存在じゃない。」


「クイーンと一緒にいたことがあるのか?」


「ああ、入りたての頃だ。一番苦しかった頃なんだが・・・優しくて厳しい、一緒にいると活力がわくような人だ。」

 思い返すようにしみじみ言う。


 周りの者たちから『クイーン選抜』、つまり彼女に直に見出されてスカウトされたものという意味だが、それだと羨ましがられてはいたが、キャットの方がよっぽどいい想いをしていそうだ。


「なんか、ずるいぞ。俺は最初に会った時のことなんか覚えていないし。いつか、一緒の仕事がしたいな。」


「司令以下、皆同じさ。より難度が高かったり重要性の高い任務を志願するようになる。」


「なんで・・・その方がクイーンと組める可能性が高いからか。」


「その通り。」


「競争率が高そうだな。」

 クイーンと会っていた統括官たちの反応を思い出す。


「だが、下心を出して取り組もうとすると指令の叱責が落ちるからな。」


「司令って、銀河統括官の上か?」


「そうだ。能力をシビアに査定して背伸びをするとガツンとやられるぞ。」


「カシミランの上の司令ということは、俺たちの司令だな。」


「そうだ。ビビるぞ。」


「怖いのか?」


「厳しいんだ。でもまあ、司令の叱責くらいならまだいいほうだ。話によるとクイーンの叱責を喰らうよりは。」


 彼女に直に怒られる。ちょっといいかもな。


「甘いことを考えているんじゃないだろうな。自分はこの世に生きていてはいけないんではなかろうかという気分になるそうだぞ。」

 あの(・・)クイーンがそんな言い方をするなんて信じられない。


「まさか。」


「ルミナスのことは極秘だ。」

 話題が唐突に変わる。


「当然だ。」


「施設も非公開だ。」

 頷く。


「ところが過失から施設に民間人が紛れ込む事態がおこった。」


「見られたのか?」


「ああ、今よりはセキュリティが前時代的であったとは言え、取り返しのつかない過失だ。」


「民間人はどうした?」

 見られたら殺せは、スパイ物の見過ぎか。


「クイーンが記憶を操作した。そして調査した。当事者はすべて集められた。


『ルミナスの最低レベルをこなせないのなら、これ以上はきつかろう』


 司令は止めたと言うぞ。参加できる人材は限られている。何十人単位で放逐されては組織自体が回らなくなる。


『レベルを落とすことは断じてしない。』


 ルミナスに関する知識を消去され、別な記憶を植えつけられたという話だ。」


「追放されたのか?」


「彼らはクイーンから拒否された。ただの失敗なら挽回できるが、これだけは譲ってはいけないということに関しては厳格だ。だが、さっき言ったように俺たちひとりひとりのバイタルサインをクイーンは見ている。人づてであっても、気にかけてくれる。俺も最悪なときにクイーンからメッセージをもらった。優しい方でもあるんだ。」

 キャットには辛い思い出と一体だが、宝物のような記憶でもあるのだろう。


「クイーンに会うためでなく、プロメテのために仕事をしよう。」


「そういうことだ。」


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