ルミナス
一週間を手紙後届いた。
『ブリガットバーンホテル8311に34日10:00にお出で下さい。 ルミナス』
明日だ。
ビント=アームは参加する気になっていた。
翌日彼は8311号室のドアをノックした。
「どうぞ。」
ドアが開かれる。ハウルスクが立っている。
「来ると思っていたよ。・・・来ましたよ。」
ハウルスクが部屋の奥に言う。
「まっていたよ。早速だが、返事を聞かせてもらおうか。」
「当然参加だよな。」
「その前に。俺にできると思いますか?」
フルールとハウルスクは顔を見合わせる。
「出来ると認められたものしか参加することはできない。ましてや君はクイーンの目でピックアップされた。これは、君には十分すぎるほどの適性があるということだ。」
「・・・・なくても構いません。やります。」
「お~し」
フルールが言う前にハウルスクが声をあげる。
「乾杯するか。」
3人はグラスを取る。
「星の未来に。」
「君には表の世界を引き払ってきてもらおう。普通は保留期間が与えられて適性の有無を調査するのだが、君には必要ないだろう。」
フルールが飲み干すという。
ビント=アームはちょっと苦笑いをする。
「どうしたのかね。」
「いえ、『表の世界』と言われたので、やばくなければ、死後の世界かなって。」
「ある意味そうかもな」
ハウルスクがさらりととんでもないことを言う。
「引き払うのに何日かかる?」
「そうだな。2日ほどあれば・・・身内もいないし、借家の更新は明後日で切れる。職もないし借金もない。」
「上出来だ。2日後に迎えに行く。」
「住所は・・」
「わかっているさ」
そうだろうな、手紙が来るのだから。
2日後ドアがノックされた。違う世界へと続くドアを開ける。
「よお、相棒。」
ハウルスクが立っている。
「この2日間何回も夢じゃないかと思ったよ。」
「だろうな。だがよく言うじゃないか、現実は小説よりも奇なりってな。荷物はどこだ?着替えなんぞいらないぞ。金もだ。」
「じゃ、これだけだ。」
小さい方だけ持つ。
「じゃ、行くぞ。」
アパートの正面玄関の前に車がデンっと止められていた。
これ以上目立ちようがないというほど金色のスポーツタイプの車だ。
「こ、これに乗るのか?」
「そう、俺の愛車さ。」
ハウルすくはさっさと乗り込む。窓から赤毛の頭が出る。
「何突っ立っているんだ?」
金に赤。軽くため息をつくと乗り込んだ。
ロストラ山脈の国立公園の中をビント=アームは歩いている。
こんな所にルミナスの本部が本当にあるのか。
「おい、ここは国の土地だぞ。」
「地上だけはな。」
「もしかしてあのエレベーターにまた乗るのか?」
「あれには乗らないが、また地下だな。・・・クイーンがなルミナスはもぐらが進化した姿だと冗談を行ったことがあったな。」
「下に行けば彼女に会えるのか?」
「会いたいか?」
ハウルスクは足を停めてビント=アームを見る。
「会いたい。」
考える間もなくするりと口を出た。
「会える。今すぐというわけではないが。」
まあ、新入社員が大企業の社長に気安く会えるわけではないのと一緒か。
「ここだ。」
洞窟の入口だ。
『崩落の危険アリ 立ち入り厳禁』
鉄格子がはめられ、錠がかけられている。
警戒することなく開けて中に入るハウルスクについて行く。
明るい外から証明のない洞窟に入り目が慣れない。
「こっちだ。」
この暗さをなんでも内容にスイスイと歩いていく。
「待ってくれ!うおっと!」
転びそうになるのを壁にすがりついて耐える。
曲がりくねった坑道を影を伝いながら歩く。
「手を引いてやろうか?」
男どおしで手つなぎか?やめてほしい。
「いや、いい。」
「そうか?もう少しだ。」
手探りでさらに歩くこと5分くらい。ハウルスクが止まる。大分闇に慣れた目を凝らすとゴツゴツした岩が見える。行き止まりか?
「認識票を出せ。」
ハウルスクが認識票をかざす。ビント=アームも慌てて出すと闇にかざす。
ガゴン
後ろの音に振り返ると、通路は消えて壁になっている。触ると岩の触感がちゃんとする。
「おい!」
聞こうと前のハウルスクを見ると、前の壁がない。代わりに少し奥から先日たどった通路と同じ構造の通路になっていた。
「行くぞ。」
「あ、ああ。驚いたな。」
「秘密結社だからな。」
そう言うとウインクする。様になっているのが癪だ。
『認証します。カードを提示してください。』
二人は認識票をかざす。
『認証いたしました。』
四つ目のゲートで止められた。
『登録名“ビント=アーム”認識票とサイコパターンに相違が見られます。・・・拘束いたします。』
「なっ!」
「待て、クイーン特例No.MF06が出ている照会しろ。」
『照会いたしました。』
その先は部屋になっていた。部屋の隅にコントロールパネルらしきもののほかには、何もない。いや、床にポッカリと穴が空いていた。
「これをつけろ。」
ハウルスクがベルトを渡す。
「自分の行きたい階をリクエストすればそこで止めてくれる。独立重力系になっているからその間Gも受けない。簡単で慣れれば快適だ。」
ここに落ちろというのか。穴は穴だ。底が見えない。星の真ん中まで落ちていきそうな穴だ。
「どっちが先に行く?」
ハウルスクがニヤニヤして言う。試されているのか?
「・・・先に・・・行く。」
「よし。」
ハウルスクはベルトを点検する。
「いいぞ、落ちてこい。」
背中をどやされ、たたらを踏む感じで、穴の際まで進む。
頭では判っていても体が拒む
「どうした?まだ、入口にしか来ていないんだぞ。」
「わかっている。・・・体が・・・なあ、押してくれないか?」
体がすくむ以上、落としてもらったほうがいい。
わかったとも言わずに間髪入れずハウルスクが押す。
「ううううあああああぁぁぁ」
バンジージャンプは体のホールド感があるので、安心するがこれは足元の感覚さえない。浮くというのとは違う。目の前の壁がものすごい勢いで上へと流れていることが、自分が落ちていると認識させる。
気がつくと足の下に硬い感覚が戻っていた。息をそっと吐く。足元は暗い穴。その上にかぶせてあるがらず板に立っているような感覚だ。落ちてくる前の部屋と同じ部屋なので、今のは白昼夢だったのではと思ってしまう。
「おい、早くどいてくれ。でないとミンチになってしまうぞ。」
ハウルスクの恐ろしい声がする。ロボットのように交互に足を出す。ようやく穴からどくとへたりこむ。ゆっくりと息を吐く。
「生きてるか?」
この野郎。本当にすぐに降りてきやがったな。
「なんとかな。」
「歩けるか?」
「大丈夫だ。」
ガクガクする足をパンっと叩いて気合を入れると立ち上がる。
その部屋を出るとまた通路だ。しかし今度の通路は壁が薄く発光していて、通路自体が明るい。明らかに素材も作り方も違う。
「これから、教育を受けてもらう。ルミナスの施設の使い方、組織、このプロメテの現状と課題についてのレクチャーなどだ。」
いよいよ第一歩だ。ハウルスクが壁の一部に触れると黄色いプレートが通路に浮かぶ。文字通り浮いているのだ。
「これに乗れ。連れて行ってくれる。」
明らかに一人用だ。
「君は?」
「俺はもう昔に受けたからな。」
「また、会えるよな。」
「当たり前だ。」