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宇宙へ 1

お読みいただきありがとうございます。

 二人は部屋に戻った。艦の中なので同室だ。二人だけになるとどっと疲れが押し寄せてきた。無言のまま代わる代わるシャワーを浴びる。気持ちよくさっぱりとはしたが、何もする気が起きない。食べることだけはしっかり食べてきた。日が暮れると寝る日々だったので睡眠時間は足りていると思っていた。だから、それほど疲れはないと思い込んでいただけだった。タフなキャットも億劫そうだ。交わす言葉も少なく寝床に潜り込んだ。


 ぐうううう


 ガバっと起きるとキャットがこっちを見て笑っている。


「お前のお腹の音で目が覚めた。」

「俺も自分のお腹の音で目が覚めるなんて、はじめてだ。」

 時計を見ると15時間ほど経っている。


「大変だ。」

 ベッドから飛び降りる。


「飯を食いに行こう。」

 キャットが着替え始める。


「いいのか?先に司令に会っておいたほうが良くないか?」


「用事があればとっくに起こされている。だとしたらあと一時間くらい遅くなっても構わない。」


「だが。」


「その大きな腹の音をたてて司令や・・・クイーンに聞かれてもいいのか?」


「論外だ。」

 二人は食事に向かった。




 宇宙船の食堂は基本終日開いている。

 ルミナスは軍隊ではないので階級は、実に大雑把だ。エンジニアの中での上下関係はあるが士官や下士官の待遇の区別はない。従って食堂は広くワンフロアをとっている。閉塞感のある宇宙ではこういうところを広くとって、メンタルのケアを図っているのだ。

 その食事室にクイーンとレッド司令を見つけた。向こうでも見つけたらしく、クイーンが手招きをしている。


「ようやく起きたようだな。」

 二人の前にはコーヒーが置かれている。


「すみません。寝すぎました。」

 キャットが謝る。


「構わないさ。今は戦闘配備中でもないし、君たちにはまだ艦内任務は発生していない。」


「ともかく、食事を。あれからずっと寝ていたのならお腹がすいているでしょう?」


 プリズムたちは脇に腰を下ろした。

 二人はプリズムたちの登場で中断していた会話を再開した。


「重水素が目当てじゃなかったって?」


「解析によるとスライクリーパーという薬の原料があの星にあるか、またはあったかということです。」


「薬。・・・麻薬?」


「あの施設自体は重水素から動力を得て、維持されていますが100年以上前のものというデーターですだ。」


「高度な科学力を持っている割には、くだらないものを作っていたな。」

 クイーンは鼻の上にしわを寄せた。


「その顔はやめてほしいな。施設は破壊しますか?」


「もったいない。」


「接収しますか?放置されて久しいので戻ってくる確率は低いですね。この宇宙での拠点にするには丁度良さそうでもある。」


「そうだな。」


「あの」

 キャットはクイーンとレッド司令の会話に聞きなれた声が入ってきたので、顔を上げる。


「聞いてしまっていましたが、あそこの元の持ち主が帰ってきたらどうするんですか?」

 アイスだったら、恐ろしく冷たい目を向けて無視だろう。


「捕まえるさ。」

 レッド司令は気にした様子もなく、こともなげに答える。


「施設に不具合がでて、沈んだと思わせたほうが効率的ですよね。」

 レッド司令はあとを促す。

「軌道を変更できるか、計算してみます。それとコントロールシステムに手を加えていいですか?ルミナスで使うならルミナス仕様に教育し直さないといけないですよね。マザーとのリンクは必要ですか?」


「それはまだいい。」クイーンが答える。「確かにルミナス仕様にすることは必要でしょう。」


 レッド司令が頷く。

「頼めるか?」


「はい。」


「レッド、この二人をしばらく預かってくれる?」


「それはいいが、アイスの虎の子でしょう?この二人は。」


「私から話しておく。」


「ということだ、よろしく頼む。」



「プリズムという男、変わっているな。波長が昨日と違う。」

 レッド司令がクイーンに言う。二人はまだ食べているプリズム達を残して一足先に、艦橋へと歩いていた。


「あの子はその名の通り“プリズム”だ。多様な色を持つ光を出す。適応力も高いし柔軟な考えの持ち主だ。それに彼は、アリと『話せる』」


 レッド司令の足が止まる。

「ルミナスのメイン頭脳と?」


 サブ・コンピュータならともかく、メインコンピュータとダイレクトにやり取りが出来る者は、ルミナスにおいて十指にも満たない。統括官にもなっていない下っ端ができるというのが意外だった。


「アリは馬が合うと言っていた。」


「・・・本人の印象としては論理主義者には、みえないな。論理を優先するもので、柔軟性や適応力が高いというのも少し珍しい。」

 再び歩き出す。


「だから“プリズム”だ。あの二人はまだ、伸びる。」


「アイスが気に入っているくらいですからね。」


「アイスには悪いが、あの二人は『遊撃隊』扱いにしたいと思っている。まだ仕込まなくてはならないだろうが。」


「それで、あちこちの司令に合わせている?」


「意識してはいなかったが、そう言えばあっているな。」


「それは意図的というものですよ。充分。・・・ところであの“ネジ”が精製した麻薬はかなりタチの悪いもので、錯乱・幻覚・モラルの低下をもたらすものでした。」


「社会的に問題があって、取り締まられた結果廃棄された施設ならいいが。」


「麻薬というものが、出回る背景には社会的な不安が密接に関わっている可能性が高いと思う。」


「戦争か?」


「それに近いことが起きている。」


「実力行使はなるべく控えて、前線には出るな。」


「どこかで、クイーンが言われているのを聞いたようなセリフだ。」





「声を聞いたときには、体毛が逆だった。」

 キャットがプリズムを睨む。


「ほうか?」

 口に食べ物をほうばったままで答える


 キャットは自分を豪快な小さいことにはこだわらないような人間に見せようと、装っている。実際は回りを気にしてアンテナを張り巡らしている。そして自分のしっぽを踏みつけるようなやつを見つけたら牙と爪をむく。プリズムを相棒とする以前には一匹狼的な立場にいた。この男と組むようになってから、内心のトゲトゲが少なくなっているのに気がつき唖然とした。毛が逆立つ前に、気がそらされるとでも言うのだろうか?一緒にいると深呼吸ができる。プリズムには、表も裏もない。だが、手のうちをさらさないとうことが自然体でできてしまう。羨ましい能力だ。


「よく話に割り込めたな。」


「“ネジ”ではほとんど役にたてなかったから、気がついたら口から言葉が出ていた。ルミナスは意見を言えるところだ。アイスだって『くだらないことなら許さないぞ』オーラは出すけど、『黙っていろ』とは言わない。」


「まあ、そんなのだが。」


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