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孤島

お読みいただきありがとうございます。

 プリズムはキャットの介添えで、どうにかこうにか捌き終えた。

 表面に果実の絞り汁を、擦り付けて焼く。調味料がないので風味を付けるためだ。

 木のようなものは火を通すと、繊維がホクホクとした食感になって、匂いと同じようにパンと同じ風味を持つ。


「ここは島だと言っていましたね。」食べながらキャットが言う。


「周りは海だ。群島でもない。」


「俺も海辺に降りてみましたが、漂流物は自然物で人工的な物はなかったです。」


「潮流から外れているか、高度に循環している社会か、知的生命体の携帯が物質的ではないか、存在していないとか考えられますね。」

 プリズムが口に食べ物をほうばりながら、口にする。普通に食べている自分に驚く。


「先ほど口ごもっていましたね。」

 キャットが肉を削いで、クイーンに渡す。


「ありがとう。この島の食物連鎖がおかしいと思ってね。大型の肉食獣がいない。頂点には猛禽類が立っている。絶海の孤島ならありうる話もあるが。」


「床を直したら食料調達がてら、海に潜ってみます。」


「そうだな。床の補強は私も手伝う。」



 ルミナスの第一級装備は亜空間通信機、重力調整機、パラライザー、空間遮断フィールド、ライト・ウィップの5点装備。今回は思考波遮断フィールド発生器を装備している。

 プリズムは加えて肌身離さず常に持ち歩いている、アリの端末がある。ルミナスとは通信できないが、この島がいくら絶海の孤島といっても、多少なりとも社会の中に存在しているのであれば、何らかの電波をキャッチすることは可能なはず。それに通信はできないがこれらを分解してチェイサーを作ることはできないだろうかとプリズムは考えた。


 キャットは海へ。クイーンは水浴びをしてくると言ってジャングルへ。大型肉食獣がいないということなので安全だろう。プリズムは塩を作るべく、岩をくりぬいた器を火に入れて海水を煮沸中だ。

 端末を立ち上げてサンサーを絞って感度を最大にする。


「?」


 ノイズがある。空中からではなく、地中から。端末を持ち他の場所からも探査する。それを解析して方角と深度を計算する。

 島の中央部から響いてくるようだ。島の中央には標高は低いが山がある。


「山の下か?火山活動じゃこんなノイズは出ないか。」




 キャットが魚を持って返ってくる。

「クイーンは?」


「まだ、戻ってこない。」


 プリズムは不審なことをキャットに話す。


「こっちも収穫があるんだ。」

 魚とは別らしい。


「潜ってみたらわかったが、この島の土台は人工物で出来ている。」


「じゃ地中のノイズも土台の中からということだな。」


「そうなるな。」


「人工島か。」


「クイーンが戻ってきたら報告しよう。」


「動物より人間のほうが厄介だな。もう少し結界を広げておくか。」


 魚なら調理できるので、キャットが結界の拡張とパンの木を切り出しに再びジャングルに入っていくと、魚を受け取る。腹をさばき果実をいこんで塩をふる。後は分厚い葉にくるんで浅く掘った地面に入れ上から灰をかぶせる。さらに器にした熱い石を上に乗せる。これで蒸し焼きができるはず?



「なる程。人工島が作れるくらいの文明なら、ルミナスの監視対象だな。このまま飛んでしまうと次にここを探し当てるのは、難しい。」

 戻ってきたクイーンに報告する。濡れた髪を無造作に束ねてあげている。後れ毛と項が色っぽい。


「迎えが来るまで待ちますか?」


「心配をかけているようで心苦しいんだが。」


「亜空間通信機と端末を分解すれば、低出力ですがチェイサーを作れます。」


「そうか。だが、端末はまだ必要だろう。・・・知的レベル5以上の脳波を拾えるか?」


「ここからは無理です。ノイズの発生地点に近づけば可能です。」


「少し発生地点を見てきます。」

 キャットが立ち上がる。


「あまり近づかなくていいぞ。」


「気をつけろよ。」

 二人に軽く手を上げて答えるとジャングルへと消えていく。





 ポツポツと雨が降ってくる。屋根のあるところに移動する。すぐに雨は連続する銀の糸になって落ちてくる。雨が葉を叩く音が心地よい。火は覆いをかけてあるからすぐには消えないだろう。

 クイーンは雨の落ちてくる空を見上げている。すっきりと描かれた顎の線が美しく見とれてしまう。


「キャットは降られたな。」


「そうですね。」


「風に雨の匂いがしなかった。風も吹いていないのに何故雲が移動する?」


「え?」

 プリズムも空を見上げる。


「人工的に雨を降らせているということだ。外界と隔離されている。」


「端末がノイズしか拾えないのもそのせいですか?」


「・・・ルミナスの科学力が絶対というわけではないが、端末で拾えないほど隔離された中にいるというなら、このシールドスペースを作った作り主はかなりの科学力を持つと、言うことになる。」


「ですが、ここの植生や動植物は天然のもので、遺伝子操作された形跡はありません。」

 プリズムをクイーンが見る。


「分析したのか?」


「はい。」


「落ちてしまったのは災難だが、一人で落ちたのではないというのは、楽だな。自分が誰であるかも覚えてもらえてるし。」


「忘れてしまうことなんてあるんですか?」


「『打ちどころが悪い』とね。」


「危険じゃないですか!」


「だが、マイナスを回避するためのリスクだ。命を落とすわけではない。」


「災難とは思ってはいません。むしろ幸運ですかね?」


「ありがとう。」

 まっすぐ見つめてくる目を見るとドキドキする。


 自分が好きなのはジョゼだ!と心に言い聞かす。


「そろそろ、蒸しあがった頃ではないのか?」


「そうですね。」

 雨は降ってはいるが、空は明るくなってきている。その空の色を信用するならばもうすぐ止むだろう。



 髪から雫を垂らしながら、キャットが帰ってくる。


「流石キャットだな、20分で往復するとは。」

 洋服の替えがないので、上半身ハダカだ。


「途中雨が降ってきたので、沢を迂回しなくてはならなくなって手間取りました。プリズムの示した地点には特に警戒装置やブービートラップの類は見つかりませんでした。」


「そうか。丁度出来たところだ。食べながら話そう。キャットは冷えると体に毒だから火にあたっていなさい。」



「おそらくここは閉じられていて外と隔絶している。」


「何故我々は?」


「落ちてきたからな。関係ないのだろう。」



「ということは物理的に侵入・脱出できない構造になっているということですか?」

「侵入についてはプロテクトをかけられていると見ていいだろう。が中から外へ出れないと決まったわけではない。概してその方が簡単な場合が多い。」


「海に潜ったときは潮流が早くて、あまり沖まで出れませんでしたが明日行ってみますか?」


「いや、本命はノイズの発生源でしょう。人工物ならそこがコントロールルームのはずだ。明日そちらに行ってみよう。」


「「了解」」


「どのみち第一級装備といえど生活するのに必要なツールとしては心もとない。漂流物がないのがこんなにきついとは。数日後にはここを離れよう。この施設の解析は後回しにして、端末を分解してビーコンを作れるか?」


 キャットにいいところを持って行かれているプリズムとしては任してくださいと断言した。


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