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邂逅

お立ち寄りくださりありがとうございます。

 彼は迷っていた。目の前のテーブルの上には、プラチナ色のカードと一枚のメモ。

 メモには住所が書かれている。

 彼は、この二つを見知らぬ女性から渡された。



 ビント=アーム。

 毛先が少し癖気味な栗色の髪。栗色の明るい瞳を持つプロメテの19才の男性だ。

 五歳までの彼は、IQ250以上で自作のプログラム言語を作り今のプログラム言語の土台になったほどの、超がつく天才児だった。

 彼の両親は彼が五歳の時事故で死亡。

 その時に、一緒に持ち去られたかのように『普通の人』になった。

 両親をなくした『天才児』よりは、両親をなくした五歳児の方がこの世界は生きやすかったことは確かだ。

 自覚がない彼は、むしろ同年代の友達と遊ぶ時間ができたことが嬉しかった。

 他に親戚はいない。

 残された彼は両親が残した遺産で何とか大学まで出ることができたが、そろそろ生活にも困るようになってきた。

 2ヶ月前に学校を卒業した。

 無職だ。

 働きたくないわけでない。

 アルバイトもした。

 どの職場も一年と続かない。

 だが、どの職場も彼を『社員にするから居ても良い』と言ってくれた。

 その日も、次の仕事を探して面接に行く途中だった。

 ふと、前を見ると人が足早に歩いていく中に一人の女性が立っている。

 人はその女性が見えていないかのようだ。

 ぶつからず、だが避けているようでもなく、そこに違う空間があるようだ。

 ビント=アームは視線を外せなくなっていた。

 だんだん、二人の距離が縮まっていく。

 黒い艶やかに流れるような髪、生気に輝く黒い瞳、象牙色のなめらかな肌の色、均整の取れたプロポーション。

 このまま進むと、正面衝突だ。

 手前で立ち止まると、今度は自分も人の流れから取り残さる。

 ビント=アームの身長は190センチある。この女性も170センチはあるだろう。(なぜ、こんな所にたっているのだろう)

 話しかけてみた。

 現実の人だと思えなくて。

「何をしているのですか?誰かを待っているのですか?」

 その人は小首をかしげる。

(言葉が通じないのか?)

「誰を待っているのですか?」

 連邦の公用語で話す。

 再び小首をかしげる。

「誰を探しているのですか?」

 今度はバラガ語で。

(声が聞こえないのかも)

 指文字で、聞いてみる。特に違った反応はない。

「まいったな。」

 ガシガシと頭を掻く。

 するとその女性は、ビント=アームに手に持っていたものを差し出した。

 カードとメモだ。

「これ?」

 視線を落とす。

 金属でできているらしいカードには、細かい幾何学模様が刻まれている。

 メモには文字が書かれている。

 住所のようだ。

「これが、なんだって」

 視線を上げると、そこにはもう女性はいなかった。

 今まで耳に入らなかった、雑踏の音がビント=アームの耳に戻ってきた。



 ビント=アームはメモの指す場所に言ってみることにした。

 何かある。



 住所が示す場所、そこはありふれたアパートの一室だ。ブザーを押すが応答がない。

 丁度そこへ帰ってきた向かいの部屋の住人に聞く。

「そこは空き部屋だ。管理人が借り手にゲンの悪いことが続いたんで、今は閉めているっていう話だ。借りるなら、安くしてくれるだろうが、やめておくこったな。・・・え、管理人か?一階の突き当りの部屋だ。」

 礼を言って、管理人の部屋に行く。

 管理人は、ビント=アームが出したメモに訝しげな顔をしたものの鍵を開けてくれた。

「用が済んだら、鍵を閉めておいてくれ。鍵は俺の部屋のポストに入れておいてくれればいい。」



 鍵を開けて中に入る。

 小さな机のほかは何もない部屋だ。

 小さい窓に付けられたブラインドから明かりがわずかに入ってくる。

 人が出入りしている気配はない。

 目が慣れると、机の上に紙が置かれている。

 ビント=アームはそれを取り上げた。

 紙の上にあったホコリが舞って、差し込む光の線が見える。

「また、住所か。・・・だけどこの住所は・・・なんて手の込んだ悪戯なんだ。」

 書かれている住所は、ビント=アームでもわかる。

 プロメテの大都市ガウロの一等地。

 世界中の富と権力と金が集まる場所。

「悪い冗談だ。」

 紙を握りつぶそうとしたが、できない。

 ビント=アームをそこへと何かが駆り立てるように、別の自分がそこへいけと囁く。



 昼時のオフィス街の路上は、パワーランチをする人、手軽に済ませてトレーダーに戻ろうとする人、美味しいランチの順番を逃すまいと急ぐ人で賑やかだ。

「さてと、ここかな。」

 この街には、ビント=アームのかっこうは悪い意味で目立つ。

 だが、本人は一向に気にしていないようだ。

 平然とビルに入っていく。

「君、おい、そこの男!」

 入口からそれほど入らないうちに呼び止められた。

「俺?」

「そう、お前だ。ちょっとこっちに来い。」

 隅に呼ばれる。

「どこに行くつもりだ。身分証は?“バード”なら持っているだろう。」

「いや、“バード”じゃない。」

 バードとは物品の配達人のことだ。

「じゃあ、何の用だ。だいたいここに用があるような人間には見えない。」

 2人のセキュリティがビント=アームをジロジロ見る。

 ビント=アームは肩をすくめる。

「いつもだったらな。このメモに書かれている場所に行きたいんだ。このビルで間違いはないと思うんだが。」

 メモを出す。

「なんだ、迷ったのか。どれ、見せてみろ。」

「迷うのも無理ないがな。この街は同じようなビルだらけだ。」

 ビント=アームには特技がある。

『人に警戒心を起こさせない。悪意を抱かせない。』

 腹の足しにならなそうな特技だが、意外と威力のある特技だ。

 今もつまみ出してそれで終わりでいいはずのこわもてのセキュリティがビント=アームの出したメモを覗いている。

「おかしいな。あっているぞ。」

「このビルですか?」

「らしいな。・・・このメモをいったい誰から。」

「えっと、綺麗な女性から。」

 二人のセキュリティははじかれるように笑い出した。

「お前、担がれたな。」

「そうか・・・ここへいけという意味だと思ったんだけどな。・・・やっぱりそうか。」

「そうしょげるな・・・念のため」ここに問い合わせてやろう。」

 特殊能力100%全開だ。

 3人は、セキュリティのカウウンターまでいった。

 一人が問合せえおしている間、もう一人が、話しかけてくる。

「お前、結構いい体をしているじゃないか。」

「グワディをやっていた。」

 グワディは格闘技の一種だ。

「それでか。今いくつだ。」

「19。」

「学生か。」

「卒業した。」

「仕事は。」

「求職中。」

「その体格ならうちで雇えるかもしれないぞ。話してやろうか?」

「いや・・・」

「おい、お前名前は?」

 問い合せていたセキュリティがビント=アームに声をかける。

「ビント=アーム。」

「ビント=アームと名乗っています。・・・はい。」

 再び

「何かカードを持ってきているか?」

「これのことかな。」

 金属のカードを出す。

「貸してみろ。」

 そう言うと、マイクロ・シューターで送る。

「・・・・担がれたわけじゃなさそうだぞ。」

 と一緒にいたセキュリティがいう。

「・・・はい。はい、ではそちらに連れて行きます。」


「こっちだ。」

 セキュリティはエレベーターの前で手招きする。

 そのエレベーターは、60階以上に行くエレベーターだ。

「その住所が示すところに会社は一つしかない。」

 あの埃だらけの部屋に何故この会社の住所が・・・・

 自分が持ってきたのだが、信じられない。

 信じられないのは、案内をしてくれているセキュリティもだろう。

「帰りに寄れるようなら、寄ってくれ。」

 と言ってエレベーターから降りることなく持ち場に戻っていった。

 目の前には少しの廊下と重厚なドア。

 ビント=アームの考えるオフィスとは違っている。

 恐る恐るドアを開けて入る。

 足の下に感じたことのない感触がする。

 室内環境を整えるバイオ・マットだ。

 しかも並の厚さじゃない。

 厚さだけじゃなく、品質も最上級だ。

 何故解るのか。・・・それはビント=アームのバイト遍歴の賜物だ。その場で、感触を確かめるように足踏みしていると、

「ビント=アーム様ですか。」

 とソフトな女性の声がする。

 彼女か?

「こちらへ」

 違った。美女には間違いなかったが。

 その美女がさらに奥に招く。

 もう一つのドアをくぐると目の前に高層ビルと空が見える。

 それを背景にして座っていた男が立ち上がってこちらに歩いてくる。

「待っていたよ。」

 ソフトで気持ちの良い声だ。

 こげ茶に白いものが綺麗に混じりあった髪に女性が騒ぐであろう容貌。

 いや、男でもあこがれと期待を抱いてしまいそうなオーラがある。

 身につけているものも、超一流のものだ。(なぜ、庶民であるビント=アームに解るのか・・・もう一度言っておくがそれは彼のバイト歴の長さである。)

 案内をしてくれた女性はお辞儀をすると出ていった。


「かけたまえ。言いたいことがあるだろう。」

「言いたいことはない。聞きたいことならある。」

 ビント=アームの答えに男は微笑む。

 そう言えば、名も聞いていない。

「そうだな。少しだけなら答えられるだろう。」

「・・・じゃあ、教えてもらえることを聞かせてくれ。そのほうがイヤな気分にならなくて済む。」

「なるほどな。賢明だ。私はジェームス=フルール。君に仕事を世話したい。」

 ビント=アームは拍子抜けをした。だが、ただの仕事の割には手が込みすぎている。

 やばい仕事?

「とは言っても“密売人”などという類の仕事ではないから安心してくれたまえ。」

 顔に出たのだろう。フルールが付け足す。

「これから、仕事の内容を説明しにある場所に案内する。」

 男は立ち上がった。

「付いて来たまえ。」

 ええ~

「それで、終わりか?何も教えてもらっていない気がするんだが。」

「そうだな。後は違う男が答えるだろう。」

 違う男?

 この男がトップじゃないのか。

 男は、机のインターカムを押す。

「キャス、少し出かける。」

「はい。かしこまりました。」


 違うエレベーターで地階まで降りる。直通エレベーターだ。地階は駐車場だ。高級車ばかりが止まっている。

 足音が響く中、フルールは黙って歩く。

「あの」

 自分の声が大きく反響してビクッとなる。

 その後は黙ってついて歩く。

 駐車場の外れに来た。そこにはスチールドアがある。

 フルールはドアの側のロック錠に金属のカードを入れる。

「それは、俺の」

「いや、これは私のだよ。」

 同じものを持っている?

 開けると中にはもう一つドアがある。

 そこにも差し込む。

「?何もない?」

 がらんとした4メーター四方の部屋だ。

 見回すビント=アーム。

 フルールはまっすぐ向かいの壁に向かう。

 そして、壁に手をかざす。

「ジェームス=フルール惑星担当官。」

「照合いたしました。ほか一名未確認です。」

 フルールはカードをかざす。

「仮確認いたします。E1のみ解除します。」

「!  か、壁が・・・」

 切れ目などなかった壁に線が入って観音扉のように開く。

 向こうに男が立っていた。

 燃えるような赤い髪が目に飛び込んでくる。

 背はビント=アームより少し低いか。

「ここからは、彼が案内する。」

 フルールが言う。

「ビント=アームだな。・・・・・」

 赤毛の男は腰に手をやってビント=アームのことをしげしげと見る。

「ちょっとした有名人だぜ。君は。さて、こっちだ。」

 とにかく進むしかない。

 が、自分が非現実的な世界に踏み出している気がしてきた。

 黙ってついては来ているが、ツッコミどころは満載なのだ。

「このまま、ひっ返すってことはできないかな。」

「引き返したいのか?」

 男の目がすう~と細くなる。

「いや、言ってみただけだ。」

 好奇心の方が大きい。

 後ろで扉が締まる。

 フルールは後ろの部屋だ。

 扉があった場所はただの壁だ。

「驚いたな。」

「おい、このシャフトに乗ってもらうぞ。」

 男は反対側を指さす。

(まだ、下へ・・か)

 エレベーターに乗ると赤毛の男が壁を指す。

「君はそこのベルトで体を固定するといい。」

 壁には体を固定できる5点式のベルトがある。

 まさか、地下でスカイダイビングでもあるまいし。

「いや、いい。」

「いう事を聞いてもらえないか?そのうちなくても良くなるだろうが、今は無駄な体力と意地は使わないほうがいい。」

 ビント=アームは肩をすくめると体を固定し始めた。

「どれどれ。」

 男はベルトの締め具合を確かめる。

「よし。OKだ。異世界に案内するぞ。」

「案内人の名前を聞いていいか?」

「ハウルスク。君が仕事を引き受ける気になったら、俺は教育係兼相棒になる。」

 腰に手をやりニヤリと笑う。

 その顔はいたずらっぽそうだった。

「さあ、スタートだ。」

 軽いショックのあと体が浮き上がる。

 エレベーターではない。箱型のバンジーだ。

「う、うううわ~」

 絶叫する。

 落とし穴に足から落ちているようだ。床には足がついていない。

 内蔵が口から出そうだ。

「ま、まだか~」

「口を開くな。舌を噛む。吐くぞ。」

 目を開けていられないので、閉じてしまっているからハウルスクの様子はわからない。

 が、口調や声には何の変化もない。静かなものだ。

 徐々にスピードが弱まっている。

 深呼吸し、目を開いた。ハウルスクは乗った時と同じ場所同じ姿勢で立っていた。

「そろそろベルトを外してもいいな。・・・・驚いたな。気絶もしていないし、錯乱もしていない。」

 自分で外そうとしてみるが、手先がショックで震える。

「力が入らない。」

「ああ、外してやるよ。・・・言葉もしっかりしている。なかなかそういう奴は少ない。さすがはクイーンだな。」

「クイーン?」

「君にこれをあげた女性(ひと)だ。」

 ピッとハウルスクはあのカードを見せる。

「あの(ひと)はクイーンっていうのか。」

「そう。ここじゃ、ビント=アームっていう名は有名だ。あのクイーンから直接カードを渡されたてな。」

「彼女、そんなにすごいのか。」

「会って何も思わなかったのか?」

「・・・・空気は違っていたが、言葉を交わしたわけではないから。」

 ビント=アームは肩をすくめた。話しているあいだに大分体に力が戻ってきた。

「よし。歩けるか?」

「大丈夫なようだ。」

「そのうちまた会えるだろうさ。君がこの仕事を受けさえすれば。」

「仕事ね。」

 そう言えば仕事を世話してくれるという話だった。

「・・・・順応力はピカイチだな。」

 しばらく二人は通路を歩く。

 突き当りにまたドア。

「この部屋だ。」

「やっと、終点か。」

「いや、始まりの部屋だ。」

 入ると、中央に椅子がいくつかある。

「好きな椅子に座って楽にしてくれ。」

 ハウルスクはそう言うと、部屋の隅に行き、そこにある端末を操作する。

「いいか。」

「ああ」

 何がいいのか解らぬまま返事をする。




 部屋の明かりが消えた。

 漆黒の闇の中、目が慣れ始めるとその部屋が満天の星ぼしで満たされていた。

 左右上下、足元にさえ星空──宇宙があった。静寂が支配する。

「ああ」

 ため息ともつかない声が漏れる。

 昔から星空が好きだった。

 宇宙飛行士になりたかった。

 書類審査と経済的理由で入れなかった。

 そのまま、星の海に委ねるようにリラックスする。

(動いている?)

 視点が移動している。

 ある恒星系に近づくとさらにその惑星へ。

 原始的な生活をしている人類が見える。

 早送りに発展進化していく。

 次の場面で人が倒れている。

 あちらこちらで爆発が起こる。戦争だ。

 また場面が、原始時代に戻る。そして発展。また人が倒れていく。

 疫病か──いや、生物兵器らしい。

 再び原始。今度は死なない。その代わり人々の顔には生気がない。子供が見当たらない。

 そして原始。今度はほかの惑星からの侵略者に支配され搾取されている。

 次は星ごと爆発。次も、次も。

「やめてくれ!何でこんなものを俺に見せる。」

 人の遺伝子には滅びがプログラミングされているかのようだ。

 目の前に文字が浮かぶ。

『どうする?』

「何ができるって言うんだ。」

『何のために生まれてきた。滅びを選ぶためか?』

「これになるって決まっているわけじゃない。」

『これはどうだ』

 文字が消え、暗くなる。

 笑い声、風の音、鳥のさえずり。音だけで暗いままなのに、ほっとする。

「人は立ち直れる。過ちを正すことができる。人だけが自分以外の物を守る意思を持てる。」

 ビント=アームはいつしか大声で弁解していた。

「確かに今、神の怒りを受けても弁解の余地はないかもしれない。人は二面を常に持っている。善き心の方を発露させれば、人は明るい未来に進めると思う。」

『では、やって見せろ。人がより自らを救えるように。』




 はっと気がつくとハウルスクが顔を覗き込んでいた。

「大丈夫か?」

「ああ。」

「飲むか?」

「ありがとう。」

 喉がカラカラだ。

「大声で人類の弁護を買って出ていたようだったぞ」

 ハウルスクが面白そうに言う。

「たかが、三次元立体映像だ。『神』じゃない。」

「わかっていた。だけど恐ろしかった。」

「そうだな。俺も恐ろしくなったさ。」

「やはり見たことがあるのか。」

「始めの時な。」

「手伝えと。」

「より存続ができる道へ行けるように。」

「君、ハウルスクもそのためにこの仕事をしているのか?」

「俺たちはルミナスという。・・・俺はこの星の人間ではない。」

「はあ?」

 間の抜けた声がでる。

「ガジュール人だ。外見はこの星の人間に極めて酷似しているため、この星に派遣された。

「嘘なら、もっとマシな嘘をついてくれ。」

「ガジュール星は今は生物のいない星になってしまっている。自ら汚染し放棄せざるを得なくなった。」

 声が低く、小さくなっていく。

「移住をしたものの、そこでも資源を奪い合い殺しあった。がジュール人の生き残りはもうわずかだ。ルミナスには俺ひとりだ。俺は自分が立っている星を生き物のいない世界するつもりはない。星にとって人が有害ならば、容赦しない。」

 本気なのだろう。

「この星がようならないためにて伝えってことか。」

「まあな。」

「神にでもなったつもりか?」

「神?神がいったい何をしてくれると言うんだ?」


「自分たちの思う通りに歴史を動かそうとしているのではないか。」

 ハウルスクは苦笑する。

「思う通りになるなら、苦労はしない。せいぜいより多くの生物が生存できる方向へと目を向けさせるように、旗振りするくらいさ。・・・直接介入することはほとんどない。」

 ここへ至るまでの道のりを思い出す。この星よりはるかに進んだ技術。この力が暴走しないとどうして言える?

「だが・・・神を名乗れば簡単じゃないか。」

「本当にそう思うか?」

「それだけの“力”はあるのだろう?」

「ある。」

 ハウルスクはさらりと言う。

「じゃ、何故しない。」

「さあな。・・・手伝う資格と資質があれば答えが出るだろうさ。・・・・かえっていいぞ。」

「帰れぇ?」

「今この場で返答ができるのか?まあ、おれは即答だったが。」

 そう言われれば

「・・・そうだな。混乱はしている。・・・一つ聞いてもいいか?」

「答えられるものならな。」

「何故、俺だったんだ?」

「クイーンが君を適格者と認めた。」

「彼女はルミナスの重要人物なのか?」

「クイーンは『コア』だ。」

「『コア』?」

「そうだ。」

「つまり、彼女がトップなのか。」

「後は君が決めてからだ。」

 目の前がぼやけて声が遠くなっていく。


 目があくと、そこは見知った自分の部屋の天井だった。

「あれは・・・夢・・・か?」

 冷蔵庫に行き、冷たいミネラル・ウォーターを出して、飲む。

 冷たさが心地よい。

 体には異常はない。

 ペットボトルをもったまま、ベッドに腰掛けるとサイドボードを見る。

 そこには、あのカードがある。

「夢じゃないか・・・」


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