表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
七日後に神罰が落ちる。上層部は「下を切り捨てろ」と言った——私は全員を逃がす  作者: 蒼月よる


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/21

静かな翌朝

 静かな翌朝


 壊れたのは外縁倉庫と空荷桟橋が中心だった。下層西区画は浸水と壁崩れを出したが、夜のうちに多くを高台へ退避できたことで、人命損失は最小限に抑えられた。


 中央広場には再び群衆が集まる。

 前日と違うのは、問いの向きだ。


 異常はあったのか、ではない。

 誰が切り捨てを決めたのか、だ。


 イオナは壇上で資料束を開く。


「限定区画契約、導体搬入記録、欠落台帳控え、改ざん公文の対照。すべて公開します」


 聴聞席にはローデンが座っていた。顔色は変わらない。だが声の勢いは落ちている。


「私は港全体を守るために判断した」


 すぐに群衆の声が重なった。


「“全体”にうちの家は入ってないのか」

「子どもを先に捨てるのが管理か」


 監察局上席は同日中に職務停止。港湾行政官は辞任願を提出した。失脚は早かった。書類は一度公開されると、肩書きより重い。


 昼、詰所へ戻ったイオナは椅子に座る前に膝をついた。ガルムが無言で水を差し出す。


「倒れるのは終わってからにしろ」

「終わった?」

「当座はな」


 メラが扉を閉め、封筒を机へ置く。差出人欄は空白。


「今朝、北埠頭の観測塔に届いた。匿名だ」


 イオナは封を切った。紙片と簡易波形図。


 ――送信点は港外観測網。内通者は一人ではない。

 ――次は北方沿岸。準備しろ。


 波形図の端に、デルガ規格ではない観測符号がある。


「匿名ログの送信者、港の外にいる」


 ガルムが低く言う。


「助けたのは誰か。まだ顔を出す気はないらしい」


 イオナは紙を折り、胸ポケットへ入れた。


「なら、受け取るだけの街で終わらせない。次は返せる側になる」


 外では復旧の木槌音が響く。

 翌朝のデルガはまだ痛んでいる。

 それでも、もう眠ってはいなかった。


 公開聴聞の裏側で、最も忙しかったのは書記席だった。


 証拠束が次々に追加され、語彙の定義を揃えなければ議事録が破綻する。イオナは壇上で言葉を選びながら、書記へ向けて意図的に言い換えを入れた。


「緩衝被害区。つまり、先に捨てる区画という意味です」


 書記が筆を止め、少しだけ顔を上げる。

 その一拍で十分だった。言い換えは議事録に残る。


 ローデン側の弁明は数字の整合性で押してきた。

 イオナはそれに対し、欠落台帳の個票を順に読み上げる。


「世帯番号三一四、夜勤漁師二名、未成年一名」

「世帯番号三二七、寝たきり高齢者一名」


 数字は人を隠すためにも使えるし、戻すためにも使える。

 聴聞の場で必要なのは、後者だった。


 聴聞が終わる頃、群衆の声は怒号から要求へ変わっていた。


「次の計画は公開しろ」

「台帳を共有しろ」


 要求の形になると、行政は無視しづらい。

 イオナはその変化を見て、ようやく椅子に体重を預けた。


 勝ったのではない。

 先送りされていた最低限を、ようやく現在時刻へ戻しただけだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ