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『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』  作者: 葉月奈津・男
マイルド(全年齢)版

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第8話 末路① ~無視された者たち~

5話投稿です

 


 64階層を進む主力の様子を確認し終えたカルマは、すかさず63階層に居座る者たちの排除に動いた。

 排除とはいうが、命を奪ってしまえばいいともいかない。

『ダンジョンレベル』を上げなくてはならないのだ。


 まずは、騒ぎを起こして『マナポイント』を貯めたい。

 そのためには工夫が必要となる。


 ◇


「退屈ね」

 女性戦士が、頬杖をついて呟いた。


 だだっ広い空間である63階層。

 安全地帯にありながら、しっかりと組まれた野営陣地の片隅だ。

 手近の石に座り、上へと向かって伸びる穴を見ている。

 肘は膝にあり、とてもお行儀がいいとは言えない。


「必要なことでしょ」

 女性剣士が、長剣の刀身を拭う傍ら、面倒そうに答えた。


 彼女たちは『見張り』だった。

 63階層の入り口に拠点を構え、万一にも上の階層からモンスターが下りてこないか警戒するのが役目である。


 『入口の』見張りは全員で18。

 4人パーティが2組、5人パーティが2組だ。


 彼女たちは女性ばかり四人でパーティを組んでいる。

 残りのメンバーは回復役と魔法使いだ。


 その二人は、後方で瞑想中。

 他の見張りは仮眠中だった。

 6時間ごとのローテーションで役目に従事している。


 この見張りが、カルマのしようとしていることには邪魔だった。

 62階層からのモンスターの出入りを監視されるわけにはいかないのだ。



 さて、ここで再び質問をしよう。

 この『ダンジョン』は『蟲』系統を表題としている。


 『蟲』すなわち『虫』の持つ『コワさ』とは何か?


 むろん、これにはいろいろとある。

 固い外骨格だったり、強靭な筋組織だったり。

 空を飛び、地を這い、水の中でも生息する環境適応力もしかりだ。


 しかし、ここでいう『コワさ』で言えば、それらはすべて的外れである。


 『虫』の本来あるべき『コワさ』とは・・・。

 その小ささと、なによりも『数の暴虐』である。


 わかりやすい例を挙げればスズメバチの大群だろう。

 数百、数千の群れが一斉に周囲を取り囲んできたとき、人間になにができる?


 なにかに隠れるか?

 わずか数センチの隙間でもあれば入ってこれるのに?


 車に逃げ込んだとしても、エンジン部の下から入り込まれればエアコンの吹き出し口から顔を出すぞ?

 家の部屋まで逃げ切るか?

 あんなに早く飛べるものを振り払って走る脚力があるとでも?

 逃げ込めたとしてもエアコンや換気扇の隙間から必ず侵入してくるぞ?


 戦う?

 相手からは一刺しされれば終わりで、こちらは全部倒さない限り安全ではないのに?


 『虫』の『コワさ』それは、『小ささと数』。

 ここでも、それはいかんなく発揮されることとなる。



「ねぇ、なんか変じゃない?」

 疑問を呈したのは、瞑想から戻った回復役だった。

 視線が『見張り』の男性陣用テントに向けられている。


「どこがよ? 静かでいいじゃない?」

 不思議そうに魔法使いが首を傾げた。


「え?」

「あら?」

 途端に、戦士と剣士が顔を見合わせた。


「確かに」

「変ね」

 頷き合う。


「な、何がよ?」

 自分だけが『変』と思っていないと知り、魔法使いがおどおどとする。


「いびきが」

「はぎしりが」

「聞こえてこないのよ」

 戦士、剣士、回復役が眉をひそめてテントを凝視した。


「ああ」

 そういえば、と頬に手を当てる魔法使い。


 見張り18人中12人が男子だ。

 12人も仮眠をとっているにしては静かすぎる。


 とはいえ・・・。


「男子が寝てるテントを覗く?」

 回復役が、困ったように問いを投げる。


 気になるのは確かだ。

 解決法も簡単。

 だけど、それをやるのには抵抗がある。


「・・・あの子ら、にやらせましょう」

 少し考えた戦士が、親指で反対側、女子用のテントを示した。


 ああ。

 全員が、声を合わせて頷いた。



「敵襲以外で起こすって」

「なに?」

 仮眠中を起こされた弓兵の双子姉妹が、不機嫌そうだ。

 三白眼で睨まれる。


「男子の様子を見てきてほしいの。静かすぎて気味が悪いのよ」

 クイックイッと親指を振る戦士。


「ふーん」

「へぇー」

 気のない感じに声を出す二人だが、その目は輝き、口元がニヤついた。


「っ」

 二人以外が引いた。

 心理的にだけでなく、物理的にも半歩下がっている。


「いいんだ?」

「あなたたちも来ていいよ?」

 楽しそうに誘ってくるが、他の4人は頑なに首を振る。


 実はこの姉妹。

 とんでもなく男好きで有名だった。

 誘ってくる男がいれば、とりあえずついていくってぐらいに軽い。


 噂では、男子生徒の8割と『分かり合い』過ぎているとか。

 女子も2割くらい『親身』だとか言われている。


 こういう長期遠征中は一応我慢するが、安全な場所では羽目を外すことがあるとかないとか。

 さすがに今回は他の女子も多いので遠慮していたのだが、その『他の女子』が男のテントに行けというのなら「いいんだよね?」と言っているのだ。


「と、とりあえず、問題があるかどうかだけは確認して知らせて。そのあとのことは、任せるから!」

 懸念は払しょくさせてほしい。


 それ以外は知らない!

 4人はその二つを必死に強調した。

 他の女子に、自分たちもこの姉妹と同類と見られることだけは避けねばならない。


「わーったよ。任せな、全員うちらで喜ばせるし楽しむから」

「12人、一人6人かぁ。ふふ」

 手をひらひらさせ、足取り軽く、テントへと向かった。


 ・・・そして。


「ぎぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁっっっっっっ」

「うげぇえぇぇぇぇぇ!」

 悲鳴が上がった。


「ひ、火を!」

「早く!」

 一目散に走ってくるふたりが、凄まじい表情で迫った。


「え?」

 迫られた魔法使いが、呆然とする。


「モンスターにやられてるの!」

「火で焼き払って!」

「「「「?!」」」」

 動揺が走る。


「も、モンスターって、でも何かが壊れたとかは見えないけど?」

 動揺しながらも、見たところ平穏そうだと戦士が答える。

 他の三人も賛意を示した。


「ちっちゃい奴よ!」

 剣で斬り合うような大物ではないと説明される。


「た、たぶんだけど、ノミとかダニとかそういうのが全身に集ってた!」

 数がめっちゃ多いのだとも説明された。


 ・・・っ・・・・。

 4人の喉が引きつった。

 悲鳴を上げたくなったが、恐ろしすぎて悲鳴も出なかったのだ。


「で、でも。た、たすけないと」

 それでも、回復役の職業倫理が言葉を吐き出す。


「ムリ! あんなのもう手遅れだわ!」

「もう意識もない状態。肌が見えないほどの虫だったのよ!」

 やさしく起こそうとして、毛布だけでなく服もズラしてしまったらしい。


 そうしたら、肌が茶色く波打っていた。

 よく見ると、無数の脚が蠢いていた。

 まるで命の膜が張り付いているようだった。

 二人が交互に、そう証言した。


 それは命の波だった。

 小さな足音が、沈黙の底を揺らしていた。

 まるで、迷宮が『息をしている』ようだった。


「吸い尽くして、バラけたら対処できなくなる!」

「まだ男子に吸いついているうちに焼き払わないと被害倍増よ?!」

 剣で切り払える相手ではない。

 寝ているうちに集られたら、今回がそうであるように声も出せないまま『終わる』。


 半端ない危機感が語られた。

 強くデカいモンスターも恐ろしいが、気が付かないうちに集まってくる小さい虫はもっと怖い。

 二人の危機感は、4人にも伝わる。


「こ、これは、しかたな——」

「私もそうおも——」

「被害を最小で食い止めるのには必要——」

 口々に賛同の声が出始めた矢先・・・。


「『ファイアウォール』!」

 叫びではなく、悲鳴だった。


 魔法使いの瞳は、炎よりも赤く染まっていた。

 炎の壁がテントを囲んで立ち上がる。


 見張りの時間が終われば、次に寝るのは自分たちだ。

 その寝床に、虫なんて一匹でもいてはならない!

 殺意高めの目が、『対象物』を見据えている。


 その脳裏には『システム』チャットがスクロールしている。

 いくつかレベルが上がり、称号も増えた。

 『階層主討伐者』の称号だ。

 それが三つ。


「た、倒せたわ。集っていたのは51、53、55の階層ボスで、『ノミ』、『ダニ』、『シラミ』だったみたい。あんな小さなのが、『ボス』だったなんて」

『階層主討伐者』の称号は文字通り、『階層主を討伐したもの』に与えられる称号だ。

 それが増えているという現実を見れば、そういうことになる。


「階層ボスって、50階層から一層おきで出てたやつ?」

「なんか中途半端だなって思ってた。空き部屋があるのとかとくに」

「違ったんだわ。本当は各層にボスがいたのよ」

「もしかして、ボス部屋。つまり次の層に行く手前で小休止を入れることを想定しての罠だった?」

 ボス部屋とはボスのいる部屋という意味だが、その奥には次の層へと続く階段なり通路、転移門がある。

 通常、ここはボスを討伐してからリポップまでの24時間はモンスターのいない安全な空間となるため、格好の野営場所とされる。


 もし、そういう場所で無防備に寝ているとき、この襲撃を受けていたら・・・。


 ぞっとする話だ。

 誰も言葉を発せず、ただ、自分の腕を抱きしめた。


 炎の残り香だけが、静かに空間を満たしている。

 その香りが、焼かれたのは虫だけではないことを静かに告げていた。


 ◇


 ウィンドウ越しに、カルマは静かに頷いた。

 ノミ、ダニ、シラミ。

 かつて『無視された者』たちが、今は『無視できない存在』になった。


 それが、迷宮の答えだった。



評価いただけると続編を書く意欲に直結します


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