第35話 63階層の死闘 前編 ~殺すより、使い切れ~ ②
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飛んでいくのは焦げ茶色と緑の五角形。
秋が深まると各家庭で対応に苦慮しがちなアレ。
『カメムシ』。
2メートルまでいかない全長だが、角ばっているせいでゴツク見える。
何より、デカくなったアイツらが、臭い液を放出する。
あの臭い、精神攻撃としては最高クラスだよね。
コスパもいいし。
風が吹けばなくなるから環境も壊さない。
6匹しかいないが、その影響はすさまじい。
女子を中心に戦闘どころではなくなって逃げだす者まで出ていた。
あちらこちらで食べ物を戻して、地面にぶちまけている女子もいる。
かわいそうに。
食べ物が、な。
その間にも、うちの蜘蛛さんが、それはもう忙しく働いてくれている。
そうやって、混乱しているところへ。
満を持して投入するのは、ある意味最強の刺客。
『アメリカシロヒトリ』。
俗に『アメシロ』で知られる蛾の幼虫だ。
夏の終わりなどに大量発生して、周辺の葉を根こそぎ食べ尽くす。
その際、白い糸を吐くため、木が網をかけたように白くなることから山形県など一部地域では『アミシロ』なんて言ったりする害虫である。
毛がモフモフしていて毛虫のように毒針があると思われがちだが、実は無毒。
ただし、それは『リアル』の虫ならばの話。
ここにいるのはモンスターだ。
ちゃんと神経毒を仕込んであったよ。
えらいね!
先代『ダンジョンマスター』。
こいつらを8匹、戦場へと投入した。
白い糸がまとまりになって、霧のように噴き上がった。
視界を奪われ、動きも鈍らせられる。
風の魔法で防ごうとしているが、見た目の割に質量があるようで、飛ばしきれていない。
女子の髪や服、男子にも、次々にまとわりついていく。
それで業を煮やしたのだろう。
埒が明かない、と魔職女が火の魔法を使った。
これは効果があった。
何人かが火の影響で混乱している。
あの糸は燃えやすかったらしい。
髪や服に張り付いていて、うっとうしそうに剥がそうとしていた者たちが燃えた。
火の魔法を使った魔法使いは責められ、戦線の統制を乱す要因となっている。
魔法を使った魔職女がど面にはいつくばっている。
『転んだ』らしい。
仲間同士の助け合い、支え合いが美しいね。
感激のあまり涙で見えなくなりそうだ。
「まあ、統制は乱れたけど、『ソウルポイント』は増えたから合格かな」
ご褒美に何か上げようかしらね?
いい感じ。
そう思ったのだが、臭いと音で危機感が盛り上がりでもしたのだろう。
目を血走らせた女子数人が、やけくそ感丸出しでカメムシを葬り去るのが見える。
その勢いのままに、アメシロ先生までもが焼き殺された。
糸を焼かないよう肉薄されて、本体を焼き捨てられたのだ。
殺される前に放出した『網』が、いい感じに死角を作ってくれている。
蜘蛛さんたちは、未だ健在で活躍中だ。
追い詰めすぎたか?
そう思わなくもないが、おかげで『ソウルポイント』が爆上がりしている。
音と臭いで相当に苦しんでくれたのだ。
だから、後悔はしていない。
気が付けば、アリさんも全滅していた。
コガネさんとテントウムシさんも半減している。
そういえば、セミも鳴いていない。
よく見ると、男子のタンク職を中心に、防御陣地を出ている者たちがいた。
バッタのプレス攻撃で、「守ってばかりいてはもたない」そう判断したものと思われる。
百合根先輩、さすがです!
冷静で大胆な判断だ。
「うんうん。がんばってるね!」
えらいぞ!
無理をしている分、『ソウルポイント』の上りが増えている。
「えらいから、ご褒美上げよう!」
ポチッとな!
タンク職を狙って、5体の隠し『玉』を送り出した。
黒光りする表面。
硬質な背中を丸めた『球体』。
『ムシ』とついているのに実は甲殻類。
・・・って、言いつつ『虫』の定義は昆虫を含めた『小さい生き物』全般なので『虫』がテーマの『ダンジョン』でも出ておかしくはない。
・・・全長がメートル越えとなるものを『虫』と言っていいのかって疑問は、『無視』する方向で!
その全長3メートル。
丸まっているので直系は2メートルもない。
そんなのが転がってきたら、人間はどうなるか?
「あははっ、人間が虫けらのようだ・・・っと。言ってみたかったんだよな。このセリフ」
うん。きれいに撥ね飛ばされていったよ。
思わず、笑ってしまったさ。
旧校舎には、そもそも人がいないからな。
言いたくても、言えなかった。
もちろん、撥ね飛ばされた者は『メガネウロ』さんが空中でキャッチして運んでいる。
そして、そうでなかった者はどうなっているかと言うと・・・。
マンガか?!
ツッコミたくなるほど見事に、人のシルエットを残している。
巨体に押され、地面に形を残したのだ。
地面が柔らかくてよかったね!
ちょっといろいろ損耗もあるけど大丈夫!
死んでなければ生きられるから!
どちらにしろ、みんな『転職』することは変わらない。
だから、大丈夫!
他にもいろいろと損耗激しい者たちがいる。
だけど、それはもうどうでもいいことだ。
椅子の足が一本折れたなら、全部折って座椅子にする。
その心意気でいれば万事問題ない。
とはいっても、やはり勝ちきれはしない。
配置したモンスターの主力が壊滅した。
大活躍した『蜘蛛』さんもいなくなってしまった。
引き換えで奪った敵戦力は30を下回る程度。
本格的な戦闘開始時が100だったことを考えると、4分の一は削れた計算だ。
悪くない。
だが、戦力を失ったのも事実。
残りの雑魚を突っ込ませて時間を稼ぐ。
ここで、オレは小休止をとるからだ。
『ドレインモスキート』を呼んで、オレに『エナジードレイン』を使わせる。
『無限魔力』を利用しない手はないからな。
定期的に吸収させていた。
「お。いけるね」
『ダンジョンポイント』が必要数に達した。
『『ダンジョンレベル』が40となりました。レベル40までのモンスターを作成可能です。また、このレベル帯のモンスターの配置位置を変更できます』
システムが嬉しい報告をくれた。
30階層までのモンスターは、今の戦闘でほぼほぼ壊滅している。
新たに40階層までのモンスターを出せるのはありがたい。
「さぁ。つーづけーるよー!」
今度は、もっと『深い』ところから呼ぼう。
もっと、濃くて、重くて、えげつないやつを。
だって、せっかくの舞台だもの。
幕が上がったなら、最後まで踊ってもらわなきゃ。
戦闘に集中していく。
ポイント集めの事務は、助手に丸投げしよう。
評価いただけると続編を書く意欲に直結します




