第39話 63階層の戦い 決着編 ~最後の一撃~ 前編
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戦いの帰趨は決した──そう思ったのも束の間。
人間側は、しぶとく戦線を持ち直していた。
「ああ。谷垣涼香か」
筋肉質な大剣使い。
戦術面では脆いが、彼女には災害級のスキルがある。
『扇動者』。
劣勢下で混乱した味方を強制的にバーサーカー化させる凶悪な能力。
使用禁止とされていたが、今は誰も止められない。
誘導された者は、いわゆるバーサーカー状態となり戦力が上がる半面、物を考えられなくなってただひたすら暴れることになる。
あまりに強力であるため、使用を禁止されたスキルだが・・・。
「クソ! バカにできんな」
ものすごい勢いで、モンスターがやられていく。
誘導された者たちは、もはや人間ではなかった。
右腕が吹き飛んだ剣士が、血を撒き散らしながら左腕だけで剣を振るう。
いや、剣が折れた後は、そのまま拳で殴りかかっていた。
魔法を誤爆し、両腕を失った女魔法使いがいる。
オニヤンマにのど元を狙われながら、逆に口を開けて噛みつこうとしていた。
叫び声も、悲鳴もない。
あるのは、ただ『殺す』という衝動だけ。
それは、もはや戦術ではなかった。
ただの暴力。
ただの執念。
だが、それが強い。
モンスターたちが、次々と押し潰されていく。
「・・・狂ってやがる」
それでも、止められない。
いや、止める者がもういないのだ。
あとは少しずつ削るだけ。
そんな消化試合になるかと思っていたのに、しのがれてしまいそうだ。
つまり、戦力が途切れそうってこと。
作ればいいって言えば、そうなのだがここはレベルアップを優先したい。
新たに『戦力』を作るとなると『ダンジョンポイント』の消費が大きすぎるのだ。
「もう一度、レベルアップだ」
『無限魔力』のゴリ押しで、50へと到達させる。
魔力生産器が増えているおかげで、蓄積はそこそこあった。
そこへ上乗せすれば・・・。
「『ダンジョンレベル』が50となりました。レベル50までのモンスターを作成可能です。また、このレベル帯のモンスターの配置位置を変更できます』
システムの声が頭に響く中、50階層までの全モンスターを63階層へ再配置。
戦線へ投入する。
それだけではない。
50階層以降となれば、63階層まで13階層。
自力で移動させても、それまでの距離だ。
「50から62までの全モンスターに63階層への移動を指示する!」
配置変更での召喚ではなく、階段を使っての物理移動だ。
50までのモンスターがやられたら、即戦線に出せるよう63階層入り口周辺で待機させておく。
50階層までのモンスター。
主力は『ヒラタクワガタ』、『コカブトムシ』、『カナブン』、『オオスズメバチ』となる。
全体的に機動重視の軽量タイプが揃っている布陣だ。
これで引っ搔き回して、さらなる戦力の抜き取りを行う。
もう一息で、敵陣地の『人間』は50を切る。
そうなれば、最後の戦力である50から62までのモンスターで片付けられるはずだ。
魔力も体力も、もうそろそろ底をつくだろう。
50から62までのモンスターは、『カブトムシ』、『オオクワガタ』、『アゲハチョウ』。
そして、最終戦力62階層ボスの『大百足』と重量級が揃っている。
畳み掛けられるはずだ。
だが、カルマは気づく。
「アゲハチョウなんていたか?」
トンボはときおり見かけることもあったが、チョウの類は見たことがない。
システムが答える。
『いましたよ。63階層のボスですから。職務放棄していただけで』
『いましたよ。63階層のボスですから。職務放棄していただけで』
システムさんがなんてことないように教えてくれた。
いや、それ『いた』って言わないだろ?!
「そもそも、職務放棄ってなに?! モンスターだよね?!」
『ダンジョン』——盤上——のコマに自我があるとでもいうのか?!
そう思って気付く、そういえばこの『システム』もたいがい人間臭い。
『ダンジョンのサブマスターです。モンスター扱いですが、思考力を持っています』
サブマスもいたのかー。
「先代の『ダンマス』が作っていたのか」
『いいえ。ダンジョン起動時にデフォルトでマスターとサブマスターは一体ずつ付属されています。どちらかが、どちらかを作るという関係性ではありません』
作られたわけではないと。
なら、敵討ちとかされたりはしないかな。
『起動』とか『付属』という単語は、気が付かないふりで流した。
「呼べるかな? 一度話しておきたいんだけど?」
『呼べます』
評価いただけると続編を書く意欲に直結します




