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『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』  作者: 葉月奈津・男
R15版。暴力・性的ニュアンスありバージョン

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第27話 往路から末路へ ◇とある四人パーティの話◇ ②

4/7

 


 〈影の薄い男子C——ウノの場合〉


 ウノの背中には、黒くてスマートな虫が乗っていた。

 体長180センチ。

 人間のような輪郭を持ち、異様なほど整った顔立ち。


 イケメンの『キセイバチ』だった。

 キセイとは――寄生のこと。


 彼らは、他の生き物に卵を産みつける。

 それは、彼らにとって『命を託す』神聖な行為。


 今、その儀式が、ウノの背で始まろうとしていた。


 肉体的な損傷は、ほとんどない。

 あったとしても、必要最低限のものだった。

『器』としての機能を損なわないように。


 背中に乗ったキセイバチは、細い腰の先にある腹部を静かに湾曲させ、針を構える。


 その動きは、まるで祈りの舞のようだった。

 冷たく、静かで、どこか美しい。


 ウノは、その動きに共鳴するように、心を委ねていた。

 拒絶の言葉は、もう届かない。


「これは違う」

 そう思った。

 でも、その声は、遠く、波の向こうで揺れているだけだった。


「ふっ、ふんぐぅっ」


 身体と意識が痺れ、ウノの目は虚ろになっていく。

 背中に走る感覚は、痛みではなく、熱にも似た『何か』だった。


 意識の奥に、誰かの顔が浮かびかけた。

 けれど、それは最後まで思い出されることなく、静かに沈んでいった。


 これから彼の目に映るのは――キセイバチの子供たち。


 自分の中で育ち、羽化し、飛び立っていく命たち。


 虚ろな瞳が見つめるのは、命の誕生という神聖な未来なのか。

 それとも、自分がその『拠り所』として選ばれたという事実なのか。


 わからない。

 でも、結果はもう変わらない。


 ウノは思う。


 ――ぼくは、誰かのために生きている。

 それが、誰かの子供でも、虫でも。

 ぼくは、必要とされている。


 それだけで、笑える気がした。


 ◇観察者◇


「協力的だな。ありがたいよ」


 カルマは、画面越しにCの姿を見つめながら、まるで舞台の照明を調整するように、指先で設定を微調整していた。


 ダンジョンレベル18で作成可能なモンスター。

『飼い殺しキセイバチ』の特殊能力だ。


 作成には、大量の『ダンジョンポイント』が必要だった。

 だが、それに見合う『演出効果』がある。


 幸福感を錯覚させる特殊な液体を注入し、対象を『協力者』として導く。

 自ら望んで従う者。

 自ら笑って支配される者。


 搦め手系のモンスターであり、直接の戦闘力は高くない。

 だが、この状態の仲間を目の当たりにした探索者の精神への影響は、計り知れない。


「あれが、幸せそうにしている」「あれが、笑っている」「あれが、必要とされている」


 その『静かな異常』が、次の悲鳴をより鮮明にする。


 いずれ、ウノはキセイバチの子供たちの、優しい世話係となるだろう。

『食事』の準備も、『休息の場』の提供も、彼の役目となる。


 彼の一生は、そのために使われる。

 命を育む。

 意義のある、静かな役割として。


 カルマは、画面を見つめながら呟いた。


「幕間狂言的な静けさだったね。アクロバティックな舞台だけでは疲れるからな。」


 高く飛ぶ演出の前には、低い位置に演者を置くものだ。

 悲鳴がよく響くように。




 ―――思えば、オレはずっと『低い位置』にいた。

 誰にも見られなかった、あの旧校舎の隅で。


 飾り付けだけが揺れていた。

 誰も来なかった。

 誰も、オレを見なかった。


 今、オレは『見せる側』だ。

 誰かが見てしまうように。

 誰かが、忘れられなくなるように。


 ◇


 〈女子A——アイコの場合〉


 隣のテントで一人眠っていた彼女は、アオキの悲鳴で目を覚ました。


 服を整え、装備を身につけ、髪を軽くセットする。


 いつものこと。

 いつもの自分。


 その間に、アオキはすでに倒れていたし、イケダは座り込んでいた。


 ようやく覗いた仲間男子のテント。


 そこにいたのは――セイバチと、静かに寄り添うウノの姿だった。


 その光景が、彼女の『世界』を殴りつけた。


 アイコは尻もちをつき、動けなくなった。

 背中に衝撃が走り、肺が一瞬潰れたような感覚。


「ち、ちがう・・・ちがうぅぅ・・・これ、ちがう・・・!」


 声は震え、喉が裂けそうだった。

 でも、誰にも届かない。


 少し変わった価値観を持つ彼女だった。

『こうあるべき』という理想を、ずっと信じていた。


 だが、この光景には、彼女の思考も崩れていった。


 何が『違う』のか。

 どこが『受け入れられない』のか。


 わからない。

 わからなくなって、壊れた人形のように首を振り続ける。


 その動きは、まるで自分の頭を否定するようだった。


 誰かの名前を呼ぼうとした気がした。

 でも、声は出なかった。

 喉の奥に、何かが詰まっていた。


 それは、言葉ではなく、破片だった。

 自分の価値観が砕けた音が、耳の奥で鳴っていた。


 きっと、呼べる相手がいなかったのだ。

 彼女自身が、それを知っていたのだろう。


 彼女の価値観は、誰かを幸せにしたことがなかった。

 ただ、押しつけて、壊してしまっただけだった。


 それでも――誰か一人くらいは笑ってくれていると思いたかった。


 でも、それもきっと間違いだった。


 自分の価値観を押しつけること自体が、暴力だった。


 髪を整えるときに見た鏡が、ひび割れていた。

 その鏡が映していたのは、彼女の顔。


 でも、そこにいたのは『誰か』ではなかった。

 ただ、壊れた価値観だけが、形を持っていた。


 それは、彼女がずっと信じていた『自分』の形だった。

 そして今、それが『現実』に殴られて砕けた。



 でも、それはまだ『概念』上の出来事。


 『実体』は、これから、だった。



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