第18話 末路② ~声なき襲撃者~
5/9
「そういう、コトね。私たちは、その辺りを駆け下りてきたから、知らずに罠を回避できていたんだわ」
戦士が、そう話をまとめた。
いくつもの階層を初見で踏破して、駆け下りてきた自分たちを思い起こす。
『ダンジョン』の観察を入念に行ったとはとても言い難い。
気付かないうちに見過ごしたギミックが他にもありそうだ。
そこで思い起こす。
他の階層ボスは?
『なにもいない』ボス部屋はあといくつあった?
57、59、61。
計算上は、あと三つあるはず。
そう考えたとき、理由はわからないが全員同時に姿勢を変えた。
本能だっただろうか?
鍛えられた『探索者』の聴覚が何かを聞き取った?
勘?
ともかく、一点に6対の視線が向けられた。
黒い地面が広がっている。
焦げている?
違う。
炎の魔術は別の場所。
しかも、まだ燃えている。
「な、なに、あれ?」
黒い地面から目を逸らせないまま、誰かが呟いた。
声が掠れて震えも帯びている。
疑問符をつけてはみたものの、すでに答えは知っていた。
認める勇気が出なかっただけだ。
黒い地面は、揺れていた。
それは、風でも、魔力でもない。
無数の脚が、同時に動いていた。
一匹一匹は、ただのG。
だが、集まれば──それは『意思を持った黒い波』だった。
そして、『カサッ』という小さな音とともに移動を開始した。
カサ……カサカサ……サワ……サワサワ……。
乾いた音が、地面を這う。
壁を這う。
空気を這う。
ザワリ。
6人の周囲で、空気が泡立つ。
パチ……パチパチ……。
何かがぶつかっている音。
何かが跳ねている音。
何かが、『こちらへ向かっている』音。
Gだった。
一匹いてもパニックは避けきれないGがいる。
黒いじゅうたんを形作るほど大量に!
カサカサカサカサカサカサカサカサ……!
波となって迫ってくる。
その音は、足音ではなかった。
『脚音』だった。
「う、うわぅぁぁぁぁぁぁ!!」
悲鳴を上げつつも戦士職の条件反射。
前に出て剣を抜いた戦士。
一歩踏み出す直前、戦士は小さく息を吸い込んだ。
その音が、最後の覚悟のように響いた。
その姿が、一瞬で黒いモノの集団に吞み込まれる。
「ひっひぃいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」
服の中に入ったのだろう。
布の内側から、何かが這う音がした。
シャリ……シャリ……サワ……サワ……。
それは、布と肌の間を滑る音。
無数の脚が、同時に動く音。
喉も裂けよとばかりに叫び続ける戦士の服が、不自然に膨らみ、波打った。
まるで、中に別の生き物が棲みついているかのように。
「やめてっ、やめてやめてやめてやめてやめてぇぇぇぇぇぇぇ!!」
叫びは、懇願だった。
だが、誰にも止められなかった。
服の隙間から、黒い影が一匹、二匹と這い出してくる。
口の端から、耳の穴から、指の隙間から。
それでも、戦士の体は動いていた。
痙攣のように、跳ね、震え、のたうつ。
それは、『自分の皮膚の下で何かが動いている』という感覚に、 脳が耐えきれなくなった証だった。
「に、逃げるぞ!」
正視に堪えない現実。
剣士が声を上げた。
誰も異議は唱えなかった。
剣士を先頭にダンジョン通路へと逃げ込む。
戦士は・・・捨て置かれた。
誰も、振り返らなかった。
振り返れなかった。
だが──
評価いただけると続編を書く意欲に直結します




