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『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』  作者: 葉月奈津・男
マイルド(全年齢)版

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第6話 レイド主力メンバーの動き~経験値ゼロの英雄たち~

5話投稿します

 


「な、なぁ。おかしくね?」

 男がスマホを握り締め、眉間にしわを寄せる。


 最深部の一つ手前、セーフティーゾーンまで退避してきた主力メンバー。

 その中の一人が、自分のステータスを見て不安を口にしている。

 脳内の『ゲーム画面』ではなく、さらに詳細で客観的な情報へアクセスしていた。


「経験値振り込まれてねーんだけど?」

 普通に考えて『ダンジョンマスター』を倒したなら、莫大な経験値が入るはずだ。

 いかに266人に及ぶ大レイドとはいえ配当0はあり得ない。


「本当だ、全然入ってないよ!」

「倒せなかったのか?」

「いや。そんなはずはない。この階層でも爆発の振動を感じたって、居残り組が言ってた。それだけの爆発で倒せないとは考えづらい」

 経験値が入らないのはおかしいってことで、仲間たちの見解は一致している。


 ならばなぜ?

 その答えは、一人の女性の声で出た。


「あいつ! 死ぬ直前にレイドからもパーティからも脱退してる!」

「はぁ?!」

 何人もの声が重なった。

 戦闘直前での脱退とかありえない!


「なんでそんなことがわかるの?!」

「システムチャットのログを遡ったの! あいつが無駄な抵抗始めたあたりで脱退が宣告されて受理されてる!」

 ダンジョン攻略状況を確認するためのアプリが内蔵されたスマホを手に、怨嗟の声が上がった。


「あ、あんの野郎!」

「仕返しのつもりか?!」

 スマホを覗き込み、必要な情報を読み込んだ男たちも騒ぎ出した。


 自爆を強いた自分たちへの意趣返し。

 最後の反抗だったのだろう事は理解できたのだ。

 レイドとパーティから脱退してソロになれば、他の者には経験値が入らなくなると見越してのことだと。

 状況を理解して憤る。


 彼等は気が付いていないが、遡るタイムインデックスをもう少し後までずらせば駆馬の生還のアナウンスも発見できたはずだ。


 だが、爆発の警告アラートがログを埋め尽くしていた。

 だから彼らは、カルマの生還を知らせる一文を、見逃した。


「生贄の羊の分際でぇぇぇぇぇ!」

「最後の最期で裏切るか!」

「クソが!」

 怒りをあらわにするが、カルマにとっては、それこそ「お前らが言うな」だということに自覚はない。


「チッ。最後っ屁か。まぁいいさ。『ダンジョンマスター』討伐は成功したんだ。あとは、ドロップアイテム持って帰るだけで英雄だぜ?」

 主力メンバーのリーダーがニヤリと口の端を上げる。


「そう、だな」

「経験値は惜しいが、致命的なものでもない」

「倒したって事実と、それを証明するものがあれば、まぁいいわ」

 他のメンツもゆっくりと冷静さを取り戻していく。


 とにもかくにも、作戦は成功しているのだ。

 経験値の取りっぱぐれは悔しいが、当の相手は死んでいる。

 切り替えよう、そう考えられた。


「明日、朝一で向かう。各種アイテムの補充を済ませて寝ろ!」

「「「「「「おう!」」」」」」



 そうして、翌日。

 主力24人。

 先駆け36人。

 後詰38人。

 併せて、98人が64階層に再アタックを開始した。


 残りの167人は居残りだ。

 もとより中級以下の者たちで、ここまで来たのは途中の階層での採取や荷物運びのためだった。

 現地調達のアイテムで薬品生成を行ったり魔道具を作ったり、鍛冶スキルで装備品のメンテナンスをする者、バフ付きの料理を作れる者などが大勢を占めている。

 それと、裏の事情として『戸脇駆馬』に魔力を補充させ、返せる人間を多くするための策でもある。



 居残り組のうち、少数の見送りを受けて主力が64階層へ降りていく。


 その先を進むのは、主力より先に接敵・駆逐する露払い部隊の『先駆け』だ。

 反対に、本隊より遅れて進むのは、主力の後方でモンスターを掃討しておく『後詰』部隊となる。

 何かトラブルがあって撤退となった時、後ろにモンスターが残っていると挟み撃ちに遭いかねないからの用心だった。


 彼等はカルマに対する態度は最悪だったが、それ以外では有能でまともな人間なのだ。

 ちゃんとするべきことはする頭と行動力がある。


 ◇


「接敵。『ミヤマクワガタ』!」

 『先駆け』は6人ずつの6パーティで構成されている。


 その一つが敵と遭遇した。

 『ミヤマクワガタ』だ。

 正式な名前が他にあるのだが、見た目で表現されている。

 相手の特徴が伝われば、それでいい。


「ああ、おミヤさんか」

 メイジの男が、鼻で笑った。


 体長3メートル。

 漆黒の『ミヤマクワガタ』が飛んできていた。


 迫力がある。

 昨日は不意を突かれて驚かされたし、慌てさせられた相手だ。

 しかし・・・。


「炎よ! フレアランス!」

 落ち着いた様子で魔法が撃ち出される。

 『ミヤマクワガタ』が炎に包まれた。


「はっ! 初見じゃなきゃ、焦りもしねぇわ!」

 もう一度鼻で笑う。

 この魔法を当てれば、一撃で消えるとわかっているのだ。 


 ジャキン!

 金属の刃がこすれるような音がした。


「え?」

 呆然としたメイジ男子が、視線を下に向ける。


 炎に包まれた『ミヤマクワガタ』の頭部があった。

 もちろん、全身もだ。

 ダメージは受けているが、致命傷になっているとは見えない。


「え?」

 頭部が、自分の腹に接触している。

 『ミヤマクワガタ』には大きな顎があるはずなのに。


「ゴフッ!」

 口から血が溢れ出す。


 キイキイキイキイ。

 『ミヤマクワガタ』から『カミキリムシ』のような威嚇音が響いて頭が振られた。


 メイジ男子の体がずれる。

 下半身はそのままに、腰から上がスライドした。

 『ミヤマクワガタ』の大顎で、腰がズラされていたのだ。


「あ、た、たすけ・・・」

 大顎に乗ったままの上半身から、手を伸ばして仲間に助けを求める。

 下半身はすでに、床で沈黙している。

 返ってきた答えは。


「「フレアランス!」」

 二方向から飛んでくる魔法だった。


 これが手足だったら、また別の対応をしてもらえたかもしれない。

 しかし、腰はダメだった。


 ほぼ即死状態と言っていい。

 救命は不可能。

 そう判断しての、敵ごと焼却処分だ。


「え? ウソっ!」

 それでもなお、『ミヤマクワガタ』は生きていた。

 合わせて三つ分の魔法で焼かれながら、二つのうちのひとつを放った女メイジAに襲い掛かった。


「熱い! あ、や、やだっ!」

 魔法の炎が上がり続けている『ミヤマクワガタ』が抱き着いていた。

 本来、自分の魔法で傷つくことはないが、他者の魔法二つも混ざっている。

 炎が燃え移ろうとしていた。


「ウォーターボール!」

 もう一人の女メイジBが水の魔法を撃ち出す。


「ぶべっ!」

 隣り合ってのこと、至近距離からの攻撃を受けて燃えていた女が飛ばされた。


 ボキッ!

 いやな音がして、女メイジAの首が、変な曲がり方をした。

 首が、ありえない方向を向いている。

 目を見開いたたまま、何も映していなかった。


「ぁ」

 明らかに命が欠けた顔で床に転がる女メイジA。

 その様子に女メイジBが青褪めた。


「狼狽えるな!」

 リーダーが声をかける。


「ダンジョンでの意図しない殺傷は、『事故』だ。罪に問われることはない!」

 『探索者』をしていれば、いつ起きてもおかしくない事故に過ぎない。

 気にするなということだ。


 蘇生は・・・できなかった。

 『エリクサー』は貴重だ。


 校内で作り出せるのは高位ヒーラーにして薬師の『岩清水一葉』だけ。

 作成に必要なアイテムや魔力も尋常なものではない。

 数本しかないと言われているし、保管は一葉自身だけが行っている。


 『先駆け』を担う彼等にさえ、譲られてはいないのだ。

 実は、校外に高値で売り払われていたりするのだが、校内でそれを知っている者は片手で数える程度しかいない。


「それよりも、見ろ!」

 リーダーが指さしたのは、三度の火魔法ではびくともしなかった『ミヤマクワガタ』が、無残に潰れている様だった。


「昨日は火で一撃だった。今日は三発でも倒れない。これは、属性が反転している可能性がある。この先、敵は全て初見のつもりで対応しろ!」

 彼等は無能な輩ではない。

 事実を受け止め、対応策を考える頭があった。

 即座に状況を理解して対応して見せる。


 それは、昨日までのデータを捨てて、改めてデータを取り直すということである。

 すでに踏破したはずの階層ではなくなり、初めて通る階層を進むことになる。


 昨日までの自信が、今日の迷宮に拒まれた。

 それだけで、彼らの足取りは重くなった。

 まるで、迷宮が彼らの罪を数えているかのように。


 昨日の足跡が、今日の罠になっていた。

 迷宮は、彼らの罪を忘れていなかった。

 それは、カルマの沈黙から響く、ダンジョンの声だった。


 真っ青な顔の女メイジBを支えるように囲んで、7人に減ったパーティが進む。

 その頭上を『トンボ』が、静かに旋回していた。

 誰の背中を狙っているのかは、まだ誰も知らない。


 ◇


「やれやれ、ゴミのポイ捨てはよくないよ?」

 ウィンドウ越しに一連の騒ぎを見ていたカルマは首を振った。


「そう思うだろ?」

 掌の上で蠢く無数の虫に囁いた。

『虫』がカサカサと音を立てて応えた。

 活躍の場を貰えることが、嬉しいらしい。



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