第5話 『ダンジョンマスター』
『ダンジョンマスター就任を受けますか?』
足元に魔法陣が輝いた。
頭の中で『システム』の声が最終アンサーを求めてくる。
画面に「就任しますか?」の文字が浮かんだとき、背後の空気が、静かに震えた。
まるで、迷宮そのものが、オレを見ていた。
「引き受けます」
しっかりと答えた。
覚悟を決める。
『ダンジョンマスターの引継ぎが行われます』
「う、あっ」
足元に魔法陣が輝いた瞬間、空気が震えた。
迷宮が、オレを見ていた。
そして、静かに頷いたような気がした。
『ダンジョンを再構築・・・失敗しました。再構築には『ダンジョンの再誕者』の称号が必要です。条件を満たしてから再度お試しください。また、異物の排除も併せて行ってください』
条件?
異物?
疑問に思ったが、異物に関してはすぐに分かった。
何のことはない。
人間たちのことだ。
ダンジョン内にあって、ダンジョン外の存在と言えば『探索者』たちに決まっている。
数は265。
目の前に展開した3次元モニターで確認できた。
素晴らしいことに誰一人死なずに逃げ伸びたらしい。
いまは・・・なるほど。
セーフティエリアにいる。
一度態勢を整えようってことだ。
「システム、現状でオレにできることは?」
条件が満たされていなくて、再構築できないというのはわかった。
この条件については確認が必要だろうが、いま今というものではない。
とりあえず、後回しだ。
まずは、またすぐに来るだろう『探索者』対策が重要だ。
『オレのオリジナルダンジョン』にはできないのだろうが、現在のダンジョンでなら何かできるんじゃないか?
『配置モンスターの変更、ドロップアイテムの変更、トラップの変更、宝箱の変更、なら行えます』
「変更の方法は?」
『ダンジョン内に蓄えた魔力を消費して行うことになります』
返答と同時に、目の前に三次元ウィンドウが出現した。ダンジョンの全体像と配置モンスターの位置、トラップの位置、宝箱の位置が示されている。
下側にはダンジョンのステータスもある。
【ダンジョンステータス】
・レベル:1
・階層数:64
・系統:『蟲』
・耐久度:5000
・蓄積魔力:73000
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「ふむ・・・わからない。けど、今は迷ってる暇はない」
とりあえず、レベル1はわかる。
マスターが変わったばかりだから1なんだろう。
階層の64は再構築されていないから、今までと変わっていないってこと。
系統『蟲』も、出てくるモンスターの種類がって意味だとわかる。
だが、他の数値は水準がわからんから高いか低いか全くわからん。
「えーと。レベル1なんだし、耐久五千は最低値ってことで間違いないな?」
これは推測できる。
『その通りです』
やはりか。
「73000は高すぎないか?」
『レベルが下がったため、以前のダンジョンで使用していて使えなくなったものを魔力変換した結果となります。現在のレベルですと、毎時80の上昇しか見込めません』
そういうことか!
わかりやすくて助かる。
いや、言葉通りだとすると少ない気がするな。
変換時のロスがえげつなかった?
それとも・・・。
「あー、そっか。そもそも変換されたものが少ないんだ」
ほとんどのモノが現行のダンジョンで使用されたままなのだろう。
「その魔力を使って各種交換ができるわけだな?」
『厳密には『ダンジョンポイント』を使って交換をすることになります』
「『ダンジョンポイント』?」
『魔力を意味する『マナポイント』100で1ポイントの『ダンジョンポイント』を得られます。この『ダンジョンポイント』を貯め・消費することで『ダンジョン』内の各種変更が可能となります』
「つまり、まずは『マナポイント』を集めなければならない。集めたマナポイントで『ダンジョンポイント』を手に入れて、改造を加えていく・・・でいいのか?」
『その通りです。また、『ダンジョンポイント』は『ダンジョン』のレベルアップにも必須のものとなります。レベルが上がれば、より強いモンスターの制作・配置もできるでしょう。『ダンジョン』の構成も変えられます』
「・・・逆に言えば、レベルが上がらないと弱いモンスターしか作れない?」
『はい。レベル1であれば、レベル1のモンスターしか作れません』
「え? ちょ、待て!」
慌てた。
「じゃ、今このダンジョンにはレベル1のモンスターしかいないのか?」
丸裸ってことじゃん?!
『いいえ。現行のリポップ分は先のダンジョンの仕様のまま行われます。これから倒される分につきましては、レベルを上げないと作成も再配置もできなくなります』
「ぐッ」
つまり、今の戦力が無くなるまでに『ダンジョンレベル』を上げないと、オレもこのダンジョンも詰むってことだ。
「これはのんびりしてられない。競争だ。完全に」
『探索者』共の最精鋭が、ここに雪崩れ込んでくるまでにレベルを上げて迎え撃つ体制を整えなくてはならない。
奴らの到達が早いか、ダンジョンレベルのアップが早いかのチキンレースだ。
うかうかしていられない!
「出せるモンスターは『蟲』だけか?」
虫しか出ないダンジョンだった、系統の『蟲』というのがこれだろう。
だとすれば、そうなのではないか?
『その通りです。カタログをご覧になりますか?』
予想通りだ。
でも、カタログ?
「見せてくれ」
カタログは3Dウィンドウという形で現れた。
目の前にウィンドウが現れて、そこに一覧が現れている。
『虫』にカテゴライズする『生き物』とその特徴を列挙したものだ。
ただし、『レベル1』のものとなる。
作成に必要な『ダンジョンポイント』数ごとにまとめられている。
予算ごとに商品が記載されている『ギフトカタログ』のような形だ。
一番目に出ているのは『蟻』。
サイズはフリー設定で、大きければ大きいほど消費ポイント数が増える。
巨大化すれば、まるで戦車のような質量になるってことだが、そのためには『ポイント』が必要た。
これは、各種ステータスも同様だ。
高めに設定すると、比例して消費も増える。
能力の追加や外形などのアレンジも可能のようだ。
もちろん、そのためには追加で『マナポイント』が必要になる。
これはなるはやで『マナポイント』を増やさないといけないな。
「魔力上昇は一時間80ってことだけど、それ以外に手に入れる方法は?」
あるのか?
『異物たちが魔法を使った際、余剰分を吸収できます。不発だった場合や、ターゲットに当たらなかった場合もです』
いわゆる『無駄撃ち』をさせれば、こちら側に吸収できると。
方針は決まった。
ともかく、魔法を撃たせるのだ。
マナポイントを蓄えて、ダンジョンのレベルアップをする。
「いや、待て!」
『マナポイント』100で『ダンジョンポイント』1。
ということは、730ダンジョンポイントあるってことだ。
「レベルを上げるのに必要なポイント数は?」
『レベル5までは、1レベルにつき30。5から10は50。10から20は100。20からは5刻みで、レベル数×50ずつ加算されて行きます』
「よし。レベルを10まで上げてくれ!」
レベル5までで、150。
5から10で、250。
合わせて400ポイントを消費する。
残り330は今後のために確保だ。
20以降の消費魔力がえげつなさ過ぎるが、それをここで言ってもどうにもならない。
どうにかして増やすしかない。
さて?
『虫』しか出せない状況で、あいつらをどうやって終わらせる?
「とりあえず、主力とは戦えない。ムダに戦力を消耗するだけだ」
一度攻略されているんだから、そうなる。
新規の強力な助っ人は作れない。
ずっと君臨していた『ダンジョンマスター』は倒してしまい、今はオレしかいない。
まともに戦ったら即死亡だ。
「主力は足止めする。絶対に。ここで時間を稼ぐ」
それ以外の選択肢はない。
奴らが再突入するまでに、こちらがレベルを上げて『未知』を作る。
これが、唯一の勝ち筋だ
主力メンバーは必ず、ここへ戻ってくる。
上の階層へ戻ったのは、オレの爆発を避けるためというだけでなく最深部64階層をボス部屋まで攻略することで少なからず消耗していたからだ。
今夜再準備して、朝一でここへ向かう。
理由は足元にあるドロップアイテムだ。
これを持って帰らないと、『討伐』宣言ができないからな。
初の『ダンジョンマスター』討伐の快挙を手に入れるため、オレを犠牲にしたのだ。
ここはちゃんと取りに来てもらわないと困る。
「『システム』。現在の64階層配置モンスターに変更を加えてくれ」
大半がリポップ中だろうが、それでいい。
どうせ主力が動くのは明日以降なのだから。
いちいち手入力は時間の無駄。
ここはシステムさんにお願いしよう。
『変更内容を提示してください』
「64階層を三段階に分ける。で、序盤のモンスターは得意属性と弱点属性を入れ替え。中盤は、現状のまま。終盤は完全なランダム。という変更だ」
モンスターそのものを変更するにはポイントが足りないが、ステータスのチェンジはコストなしでできる。
そこは確認済みだ。
奴らは迷う。
時間は、こちらの武器になる
一度倒した敵、通ったことのあるルート。
きっちりモンスターの特徴と、マッピングはしているはず・・・て言うかしているのは確認している。
あいつら、性格はクズだが無能ではないのだ。
オレへの待遇以外は模範的な『探索者』で真っ当な人間。
だからこそ、余計に憎らしい。
悪辣さを承知で軽んじ、蔑んでいたのだとわかるから。
『変更完了しました』
「よし。続いて、敵戦力を削る戦略を考えるぞ」
主力を避けて、他の奴らでポイントアップだ!
◇
朝が来た。
空気が張り詰め、光が剣のように差し込む。
レイド本隊が64階層へと再び突入していく。
彼らは、勝利の余韻を引きずっていた。
でも、迷宮はもう、彼らの知っている場所ではなかった。
本気と書いてマジの死闘。
『オレ』はもう、誰のためでもない。
自分の意思で、この戦いを始める。
その幕が、静かに切って落とされた。
あいつらが戻ってくる。
オレを捨てたまま、勝利だけを拾いに。
「何人、たどり着けるかな?」
オレは待つだけでいい。
それで、答えは出る。




