第4話 沈黙の返還
「ああ、やっぱりか」
ボソッと呟く。
なんとなくそんな気はしていたのだ。
今まで一度も成功したことの無い『ダンジョン最深部攻略』、これを今やる意味。
桁外れに強い『勇者』も、破邪のエキスパート『聖女』もいない。
なのに、誰一人疑問を待たずに従っていた異常。
唯一、他所と違うアドバンテージ。
他にない『才能』と考えたとき、筆頭・・・いや『唯一』がオレだ。
オレの『無限魔力』。
常日頃は魔法使いたちにいくらでも供給できる『歩く魔力補充器』。
それだけなら、たまに聞く能力だ。
それほど珍しくない。
ただ、オレのこの能力には他にない特徴がある。
【供給した魔力は、受領した側の意志で返還可能】。
つまり、オレから借りた奴らの意志で、いつでも返せるという特徴がある。
貸し借り可能であるがゆえに『無限』なのだ。
この能力だけなら、『便利』なだけだ。
無料で使えて目減りもしないMPポーションってこと。
だが、ここに一つ。
とあるアイテムが加わると話が変わってくる。
『爆裂玉』。
読んで字のごとく、爆発する玉だ。
周囲の魔力を吸収して、という注釈付きの。
魔法職のための『自爆アイテム』。
体内に残っている魔力を全て吸い尽くして、爆発力に換えるのだ。
とあるゲームの『メガ〇テ』だと思えばいい。
このままでは全滅ってところで、魔職一人を犠牲に生還を果たすという退避アイテム。
『ダンジョン』内での死亡であれば、吹き飛んでいても蘇生可能だからできる禁じ手。
もう、わかるだろ?
無限の魔力を持ったオレがここにいて、この玉があればどうなるか。
自爆するよねー。
「まさか、だよな」
諦めの呟きが漏れた。
魔力が、最大量を越えて、まだ上昇し続けている。
当然だ。
全校生徒265名全員が、オレの補充した魔力を返してきている。
返ってくるたび、『誰』の魔力が『どれくらい』返ってきているかが、脳裏に展開したままの『チャット画面』に出る仕様なのだ。
感覚的にはネットゲームに近いだろうか。
頭の中に画面があるイメージだ。
だから、わかる。
全員が、この時を狙って返してきている。
しかも、感謝ではなく、嘲笑う文言付きで。
『お返しするよー』
その文字と共に浮かんだのは、笑顔でポーションを渡してきたあの子の顔だった。
『派手に逝け』
それは、いつも荷物を持ってくれていたあいつの言葉だった。
オレは、何を信じていたんだろうな。
『役に立ててね—』
『wwwwwwwwww』
ここまでの道中で、『必要か』と何度も思った魔法の行使。
割とまともだと思っていた連中の、妙な優しさ。
オレが持つべき荷物を、自分たちで運ぶと言っていた理由。
全ては、ここでオレを『生贄』にするため。
ここで、『爆弾』として使い潰すため、あるいはそれを『前提』とした事前準備のため、だったわけだ。
魔力が返ってくるたび、頭の中が焼けるように熱くなった。
それは、感謝ではなく、嘲笑の熱だった。
長期戦になった時の命綱。
そんな言葉に騙されて、こんな最前線まで来た自分の愚かさが嫌になる。
「あはははは! 悪く思わないでよね! ダンジョン攻略では人死にも出るのは承知でしょ? あなた一人の犠牲でみんな幸せになるんだから、安いものじゃない?」
「大丈夫だぞ。保険に入れてやったんだし、家族には多額の慰労金も入る。ダンジョン年金だってあるんだぞ!」
「お国の定めたありがたーい制度よね。私たちの懐は痛まないから気にしなくていいわよっ!」
「そういうわけだから、安心して死ね!」
レイドの仲間たちから、ポンポンとありがたい励ましが飛んでくる。
「・・・・・・」
なんか、予想通り過ぎて、逆に落ち着いてしまったオレは、ひと通り全員の顔を眺めた。
うん。
誰一人として泣いていない。
罪悪感もなさそうだ。
このまま『ダンジョン攻略』が成って、地上に戻れば一躍時の人。
金が。
名誉が。
女や男が。
それこそ、選り取り見取り。
期待感しかない顔で見てきている。
誰も彼も、『コスパのいい戦闘』だとしか思っていない。
わからないわけではない。
どうしようもないとき、いわゆるスタンピートなんてことが起きたときには犠牲ありきで作戦が組まれることもないわけではないからだ。
『探索者』を志すに際して、そこはしつこいほど念を押され、命を落としたとしても自己責任だとの誓約書も書いた。
だけど・・・。
どうしようもない突発的災害と、自分たちの利益のためだけにする『ダンジョン攻略』は同列にしていいことか?
ぜったい違うだろ!
まして、本人に何の説明もなく突然に、だ。
せめて、死に向かうための心の準備くらいさせろよ。
ゲスどもが!
◇
ここで一つ質問です。
先に示した通り、オレは『予想していた』。
自分が『犠牲の羊』にされるんじゃあるまいか? と。
わかっていて、何もしないと思うか?
そこまで卑屈な腰抜けが、探索者になると?
答えは『否』だ。
ちゃんと、こうなった場合の行動プランを練ってきている。
変に余裕がある理由でもあった。
外れてほしいと祈ってはいたけれど、それが無駄だった。
なら、練ってきたプランを実行するまで!
「無駄だけど、一応やるだけやりますかね」
オレは、手持ちのアイテムを取り出した。
バックパックにこれでもかと詰め込まれていたものだ。
使用者の魔力を消費して威力を発揮するタイプの魔法道具である。
豊富な魔力を効率よく使おうと考えて、ドロップすると買ったり貰ったりして集めていたものだ。
少しでも、みんなの役に立とうって思ってのことだったんだがな。
「望み通り、死んでやる! 巻き込まれないといいな!」
死なば諸共。
自爆に巻き込む気満々で、挑む。
「はっ! そんなノロマいねーし!」
オレがワンチャン勝つ、なんて誰も思っていない。
もう大半が上階へ向かっている。
ボスの居る階層前には、どういう理由からか知らんが安全な階層があった。
とりあえず、そこへ逃げようということだろう。
『ダンジョンマスター』を倒せる爆発でも、階層が違えば安全。
そう考えているのだ。
各階層で、どれだけ派手な魔法使っても崩れたとか聞かないからな。
「無理、だろうなぁ」
溜息を吐いて・・・戦闘開始だ!
◇
結果?
もちろん順当負けしたさ。
見事に死にましたよ?
二本の角で串刺し、からの自爆。
自爆によって、『ダンジョンマスター』は消し飛んだ。
見たわけじゃないけど、足元にあいつの角が落ちているからね。
ドロップアイテムがあるんだから間違いない。
で。
「さっすが、一葉ちゃんだね」
ウンウン頷いたよ。
最高位のヒーラーにして薬師。
その彼女が持つアイテムってなーんだ?
ヒント。
高価できれいな薬瓶に入っています!
ヒント2。
オレがこうして生きています!
服は着てないけど。
答え。
『エリクサー』です!
言わずと知れた蘇生薬である。
『ダンジョン』内に限り、どんな死に方をしても蘇生可能な薬だ。
もちろん、身体が細胞一つ残さず消滅していても効果を発揮する。
『薬』と呼んでいるが、一種のバックアップだ。
ダンジョン内にあるらしい、運営用システム。
これに、薬を使った者のデータを保存しておき、死亡時に復活させるというものだ。
ただで、アイテム磨きなんてするわけないでしょ?
こうなる気がしていたので、何本か掠め取ってました!
ポシェット一個分程度の『マジックバック』ぐらい持ってるっちゅうねん!
ほとんど『御守り袋』サイズの巾着だから誰も気が付かなかったようだけど!
大量の魔法道具出す間に取り出しておいたのさ!
「巻き込まれないといいな!」は、それを見られないようにするための追い出しだ。
誰もオレを助けてはくれなかった。
でも、オレはオレを見捨てていない。
ついでにもう一つ。
レイド戦に参加中の彼等には残念なお知らせがある。
死ぬとわかって戦闘に挑む直前。
オレはレイドから降りていた。
パーティも解除。
完全ソロだったわけですわ!
どうせ、死ぬんだ。
パーティ効果とかどうでもよかったからね!
どういうことか?
『ダンジョンマスター』討伐で得られる経験値を総取りしてやったんだな、これが!
当然だろう?
倒したのはオレだ。
それも、オレの魔力でだ。
レベルが上がる上がる。
こうしいる間にも、脳内では『レベルが上がりました』のシステムチャットがスクロールし続けている。
これまで無駄だからと、経験値の分け前を貰えていなかった。
それが一気に解消されていく。
そんな中、チラホラと個人チャットに書き込みがあった。
現在、チャット機能がフルになっているのでシステムと併存している。
「なんだろ?」
死んだはずの人間に今更何か用なのか?
もしかして、一人くらいはオレのことを心配してくれる人がいた?
淡い期待を胸に戸脇駆馬・・・カルマはチャット機能を個人チャットのみに絞った。
『『ダンジョンマスター』の討伐おめでとうございます』
「って、『システム』じゃん!」
個人チャットの通知も『システム』チャットだった。
ダンジョン内の事象を解説してくれる存在である。
世界中にあるすべてのダンジョンに存在している中立の人工人格。
案内役のようなものと考えられている。
ダンジョン内で探索者たちのシステム上の手続きなどを行い、記録する機能だ。
さっき説明した『エリクサー』での記録保存と復元を司っている存在でもある。
あとは、『階層到達』時などには到達したことを証明する称号をくれるのもシステムだ。
ゲーム内のワールドアナウンスと考えればわかりやすいだろう。
『『ダンジョンマスター』の討伐により、『首座簒奪者』の称号が与えられます。また、これにより当ダンジョンは無主となりました。『ダンジョンマスター』の地位移行が認められます。『ダンジョンマスター』への就任依頼を受領しますか?』
「・・・はい?」
なんだ、それ?
いや、意味は分かるよ?
『ダンジョンマスター』がいなくなったから代わりにやれ、と?
そう言っているんだよな?
『ダンジョンマスター』倒すと、そんなことになるんだ?
知らんかったよ。
なにせ、ダンジョンマスターの討伐に成功した例なんて聞いたことないからね。
最深部にたどり着けていないのがほとんどなのだ。
たどり着けたダンジョンでも、相手の強さで失敗が続いている。
うちの校長が、必死に今回のレイドを推し進めたのも『世界初』が欲しかったからだ。
でも、それって面白そうじゃない?
「えっと。ちなみにだけど、オレが『ダンジョンマスター』にならなかったらどうなる?」
『『主無き迷宮の統治者』の称号へと変更され。ダンジョンは無主のまま存在することになります』
「『ダンジョンマスター』になるのと、統治者になるのの違いは?」
『統治者の場合、モンスターから攻撃されることはなくなりますが、ダンジョンそのものへの変更は行えません』
モンスターを統べて治めることはできるが、それだけなのが『統治者』か。
それなら、『ダンジョンマスター』の方がいいよね。
でも?
『ダンジョンマスター』って人間もなれるんだ?」
『もちろんです。討伐者に権利があります』
へぇ・・・。
「それって、人間を辞めるってことでは?」
一度死んだ。
いまさら未練はないが、そこは確認したい。
『種族変更は可能ではありますが、必要なものではありません』
種族変更可能ってどういうことだろ?
疑問は残るが、この話オレには好都合だ。
このまま地上に戻った場合の立ち位置がどうなるかは予想できる。
絶対にいいことなんてない。
実を言えば、生き残る算段はしていたが、その後どうするかは考えていなかった。
考えようがなかった、だな。
正確には。
彼等がどういう形で『計画を実行』するのかも不明だった。
その方法次第では、『エリクサーがあれば死者0でイケるんだよ(ニコ)』で戻る案も、一応だがあったのだ。
『世界初』で盛り上がっているうちにどこか別の学校への編入をってのが一番無難な『生還のためのシナリオ』だった。
まさか、こうまで蔑ろにされるとは。
これなら、『ダンジョンマスター』になるというのは飛びつきたいほどの好条件。
拒否なんてない。
オレは、もう人間じゃなくなるのかもしれない。
でも、あの教室で誰も来なかった三日間より、ずっと『生きてる』気がした。
なら、もう悩むことはない。




