第16話 末路① ~皮膚の上に~
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「敵襲以外で起こすって」
「なに?」
仮眠中を起こされた弓兵の双子姉妹が、不機嫌そうだ。
三白眼で睨まれる。
「男子の様子を見てきてほしいの。静かすぎて気味が悪いのよ」
クイックイッと親指を振る戦士。
「ふーん」
「へぇー」
気のない感じに声を出す二人だが、その目は輝き、口元がニヤついた。
「っ」
二人以外が引いた。
心理的にだけでなく、物理的にも半歩下がっている。
「いいんだ?」
「あなたたちも来ていいよ?」
楽しそうに誘ってくるが、他の4人は頑なに首を振る。
実はこの姉妹。
とんでもなく男好きで有名だった。
誘ってくる男がいれば、とりあえずついていくってぐらいに軽い。
噂では、男子生徒の8割と『遊んだ』ことがあるとか。
女子も2割くらい『遊んでいる』とか言われている。
こういう長期遠征中は一応我慢するが、安全な場所では羽目を外すことがあるとかないとか。
さすがに今回は他の女子も多いので遠慮していたのだが、その『他の女子』が男のテントに行けというのなら「いいんだよね?」と言っているのだ。
「と、とりあえず、問題があるかどうかだけは確認して知らせて。そのあとのことは、任せるから!」
懸念は払しょくさせてほしい。
それ以外は知らない!
4人はその二つを必死に強調した。
他の女子に、自分たちもこの姉妹と同類と見られることだけは避けねばならない。
「わーったよ。任せな、全員うちらで喜ばせるし楽しむから」
「12人、一人6人かぁ。ふふ」
手をひらひらさせ、足取り軽く、テントへと向かった。
・・・そして。
テントの前で、二人は顔を見合わせた。
笑っている。
でも、その笑みは、どこか空回りしていた。
「じゃ、いっちょ行ってきますか」
「お邪魔しまーす♡」
軽いノリで、テントの布をめくる。
──その瞬間。
「・・・あれ?」
「・・・うそ」
言葉が、喉で止まった。
中は、静かだった。
あまりにも、静かすぎた。
寝袋が並んでいる。
その中に、12人分の体がある。
だが──
「・・・動いてない」
「ねぇ、ちょっと・・・これ・・・」
姉妹の声が、震え始める。
一人がそっと手を伸ばし、最も近くの寝袋に触れる。
その瞬間、ぬるりとした感触が指先を濡らした。
「・・・え?」
手を引き抜く。
指先に絡みついたのは、黒く光る液体と、細かい何かの脚。
「なにこれ・・・」
寝袋の中から、カサ……カサ……と音がした。
それは、呼吸ではなかった。
蠢きだった。
・・・毛布をめくった瞬間、 むわっとした熱気と、酸味を帯びた異臭が鼻を突いた。
「うっ・・・なにこれ・・・」
寝袋の中には、確かに人の形があった。
だが、肌が見えない。
茶色い、ざらついた何かが、びっしりと覆っていた。
よく見ると、それは──
虫だった。
ノミ。
ダニ。
シラミ。
それぞれが米粒よりも小さい。
だが、それが何千、何万と重なり合って、 まるで『皮膚の代わり』のように張り付いていた。
「ひっ・・・!」
目の周りを、蠢く粒。
耳の穴に、潜り込む影。
口の端から、何かが這い出して、また戻っていく。
そのたびに、ぬちゃ、ぬちゃっと音がした。
「や、やばい・・・これ・・・」
肌の上を這う感触。
無数の脚が、同時に動く音が、ざわざわと空気を震わせていた。
それは、まるで──迷宮そのものが、呼吸しているような音だった。
「──っ!」
テントの外に飛び出す姉妹。
「ぎぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁっっっっっっ」
「うげぇえぇぇぇぇぇ!」
悲鳴が上がった。
「ひ、火を!」
「早く!」
一目散に走ってくるふたりが、凄まじい表情で迫った。
「え?」
迫られた魔法使いが、呆然とする。
「モンスターにやられてるの!」
「火で焼き払って!」
「「「「?!」」」」
動揺が走る。
「も、モンスターって、でも何かが壊れたとかは見えないけど?」
動揺しながらも、見たところ平穏そうだと戦士が答える。
他の三人も賛意を示した。
「ちっちゃい奴よ!」
剣で斬り合うような大物ではないと説明される。
「た、たぶんだけど、ノミとかダニとかそういうのが全身に集ってた!」
数がめっちゃ多いのだとも説明された。
・・・っ・・・・。
4人の喉が引きつった。
悲鳴を上げたくなったが、恐ろしすぎて悲鳴も出なかったのだ。
「で、でも。た、たすけないと」
それでも、回復役の職業倫理が言葉を吐き出す。
「ムリ! あんなのもう手遅れだわ!」
「もう意識もない状態。肌が見えないほどの虫だったのよ!」
いやらしく起こそうとして、毛布だけでなく服もズラしてしまったらしい。
・・・要は服を脱がしてまさぐろうとしたわけだ。
そうしたら、肌が茶色く波打っていた。
肌が茶色く波打っていた。
よく見ると、皮膚の上に皮膚が重なっているように見えた。
それは、虫だった。
皮膚の代わりに、虫がびっしりと張り付いていた。
目も、口も、耳の穴すらも。
すべて、虫で埋め尽くされていた。
よく見ると、無数の脚が蠢いていた。
肌が見えないほどの虫の群れに襲われていた。
それはまるで、命の膜が張り付いているようだった。
二人が交互に、そう証言した。
それは命の波だった。
小さく強くもない。
ただし万を超えるだろう虫たちが吸い付き、血を吸っている。
小さな足音が、沈黙の底を揺らしていた。
まるで、迷宮が『息をしている』ようだった。
あれはもう、どうにもならない――
評価いただけると続編を書く意欲に直結します




