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『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』  作者: 葉月奈津・男
R15版。暴力・性的ニュアンスありバージョン

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第5話 そして今 ~予定された死~ ②

 


 唐突だが、『オレ』は、女性陣──特に魔職──に嫌われている。

 理由は、唯一役に立つスキルのせいだった。


『無限魔力』。

 魔力回復が異常に早い。

 通常7分かかる回復が、オレは3秒。

 魔力量も、平均より上。

 だが、魔法適性はない。


 譲渡は可能。

 皮膚と皮膚が接していれば、という条件付きで。


 制服は魔力干渉を遮断する。

 だから、素肌が必要。

 腹から腰にかけて──医者か恋人でなければ触れない場所。


 でも、オレは『道具』だった。

 誰も、ためらわない。


「ちょっと、どいて」

「あー、冷たい。気持ち悪っ」


 指先が肌をなぞるたび、オレの中の何かが削れていく。

 それでも、笑わなきゃいけない。

『気持ち悪い』と言われないように。

 かえって「気持ち悪い」と言われるが、無表情よりはましだそうでなので、笑う。


 蹴られても、笑う。

 殴られても、笑う。

 たまに流血していることがあっても、笑うのだ。


 自然回復では時間がかかる。。

 ポーションは高い。

 だから、オレの元へ来る。


 嫌々ながら。

 暴言と暴力を添えて。


 もちろん、優しい者もいる。

 声をかけてくれる者も。

 荷物を代わりに運んでくれる者も。


 でも、気は抜けない。

 女子との接触が多いから、男子にも嫌われている。


 洗濯を押し付けられ、小突かれる。

 それが日常。


 以前は、遠慮があった。

 保護者にチクられると面倒だから。


 だが、保護者が笑った。

 殴られている息子を見て。


「あらあら、男の子なんだから、これくらい平気でしょ?」


 その瞬間、オレは理解した。

 この世界に、オレの味方はいない。


 それで、遠慮は消えた。

 地獄が、始まった。


 ◇


 夕方。

 もうお決まりとなった習慣で、『オレ』はある場所へと足を運ぶ。

 それは、誰にも強制されていない。

 けれど、誰もが当然のように『待っている』。


「あー、ちょっと待って一葉」

「なに?」

「お風呂行く前に、あいつんとこ行かないと」

「あー、そうね。せっかく洗った体に、あいつの手垢がつくとかありえないわ」


 わざわざ、『オレ』の目の前で始まる小芝居。

 定期公演とでもいうべきか、時間も決まっているルーティーンだ。

 演技は雑だが、観客は『オレ』ひとりで充分らしい。


「ほら、触れることを許してあげる。魔力の補充って理由がなかったら、絶対にできないことよ? 泣いて感謝するがいいわ!」


 その言葉は、命令ではなかった。

 でも、拒否する選択肢はなかった。

『魔力供給』という名目が、すべてを正当化していた。


『無限魔力』。

 それは、オレにとって『繰り返される搾取』だった。

 魔力量はある。

 回復も早い。

 でも、使えない。

 オレの魔力は、誰かのためにしか存在できない。


 制服は魔力干渉を遮断する。

 だから、素肌が必要。

 腹から腰にかけて──医者か恋人でなければ触れない場所。


 バスタオル一枚の向こうにある肌は、触れてはいけないはずの場所だった。

 けれど、触れなければならなかった。

 それが『役割』だった。


 手を伸ばすたび、喉がひりついた。

 羞恥ではない。

 恐怖でもない。

 それは、自分が『人間ではない』と証明される瞬間だった。


「あ、起たされたりすると一葉様の品が落ちて困るから、予防しないと」


 ──ドン。


 衝撃が、下腹部を貫いた。

 痛みよりも先に、羞恥が脳を焼いた。


 誰かが笑った。

 誰かが見ていた。

 誰かが、『それ』を当然のように受け入れていた。


「ちょ、それ暴発してない?」

「うはっ! よかったなクズ男。手間が省けて」


 その言葉が、何よりも痛かった。

『手間』とは、オレの尊厳だった。

 それが省かれたことを、笑われた。


 魔力を流す手は、震えていた。

 でも、誰もその震えに気づかない。

 誰も、気づこうとしない。


 この手は、かつて母に撫でられた手だった。

 熱を感じ、ぬくもりを返すことができた手だった。


 今、その手が触れているのは、誰かの腰。

 魔力が流れる。

 でも、温度は伝わらない。


 オレの手は、もう『道具』の一部になっていた。


 それでも、『オレ』は『生きている』と言えるのだろうか。

 それとも、ただ『動いている』だけなのか。

 誰かのために、誰かの都合で、誰かの命を支えるだけの、ただの器として。



 ◇現在◇



 そして──今。

『オレ』は、死に瀕していた。


 目の前には、『カネヤマ・バグ・ドーム』の最深部ボス。

 通称『ダンジョンマスター』。

 二本の角を持つ、巨大なカブトムシのようなモンスター。

 南国の甲虫を三メートルに拡大し、二足歩行にしたような異形。


 それが、全校生徒総出のレイド戦の討伐対象だった。


 だが──現場にいる25人の主力メンバーは、誰一人として前に出ない。

 遠巻きに、静かに、避難を始めている。


 その足取りは、まるで『予定通り』のようだった。

 誰も叫ばない。

 誰も止めない。

 誰も、目を合わせない。


『オレ』が死ぬことは、最初から決まっていた。

 それは、誰もが知っていた『手順』だった。

 犠牲者が出ることは、計算済み。

 名前が伏せられているだけで。


『誰かが死ぬ』のではない。

『お前が死ぬ』と、最初から決まっていた。


 オレは、最前列に立っていた。

 誰かがそう配置したわけじゃない。

 でも、気づけば、そこにいた。

 まるで、舞台のセンターに立たされたピエロのように。

 台本もなく、突然スポットライトが当てられた役者のように。



 そして、ついに導火線に火が付いた。

 爆発は避けられない。


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