第13話 往路① ~沈黙の中で~ 前編
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(回想シーン)
「おおっと、手が滑ったぜぇぇぇい!」
大根だって、もう少しマシな演技をする。
そう思ってしまうほど、あからさまな『事故』の演出だった。
ビクッ。
全身が硬直する。
この手の声が上がったなら、次に何が起きるか──オレは、もう知っている。
石ころか。
矢か。
棍棒か。
あるいは──
ドンッ!
「ぐっ?! アツ・・・!」
衝撃とともに、熱が肌を焼いた。
制服越しに伝わる火の魔法の熱。
ダンジョン素材の布が、じりじりと焦げる。
「おお! 大丈夫か?!」
魔法を撃ち込んできた当人が、わざとらしく駆け寄ってくる。
心配するふりで、バシバシと体を叩く。
火傷した肩を、背中を、容赦なく。
「ケガはないか?」
──わかりやすすぎる。
『ワザと』だった。
だが、文句は言えない。
ダンジョン内での『事故』は、責任を問えない。
証明できない限り、すべては『不可抗力』として処理される。
チラリと視線を向ける。
スマホを構えた奴らが、にやにやと録画していた。
もちろん、カルマに有利な映像にはならない。
「トロすぎる! もっと周囲に気を配らないとだめだぞ!」
叱責の声。
演出された『正義』の台詞。
スマホのマイクには、これだけがクリアに録音される。
加害者はヒーローに。
カルマは、無能な犠牲者に。
拙い茶番劇。
編集不要の、『見え透いた事故』。
そして、打撲になるほどの力で叩かれている。
素手で、腕の振りも大きくない。
映像からは、力加減を知るすべがない。
カルマが訴えたところで、「思い過ごしだ」「被害妄想だ」「証拠は?」で終わる。
耐える以外に、道はない。
「・・・」
言葉を返すこともせず、小さく頷く。
マイクに拾われないように。
記録に残らないように。
『従順な被害者』を演じる。
スマホを構えていた奴が、満足そうにうなずいた。
録画を止め、仲間に見せている。
すぐに、男たちはゲラゲラと、女たちはクスクスと笑い出す。
その声を聞きながら、カルマはポーションを飲んだ。
まだ、終わりではない。
「はい、毎度あり」
回復役の女子が、待ってましたとばかりにポーションを差し出す。
カルマは無言で受け取り、自分のスマホを取り出して操作した。
探索報酬から、回復費用を引き落とす。
──事故に見せかけて怪我をさせ、笑いものにし、金を巻き上げる。
それが、このパーティの恒例行事。
今回のレイドでも、当然のように始まった。
軽いスキップで去っていく背中を、カルマは見送るしかなかった。
その背中に、何かを投げつけたくなる衝動を、喉の奥で飲み込んだ。
『まだだ。まだ、終わっていない』
こぶしを握り締めて耐えた。
いや、受け流した。
無意識に。
慣れ切った反応として。
ダンジョン8階層での出来事。
このあと何度も繰り返される、『出来レース』の一回目だった。
評価いただけると続編を書く意欲に直結します




