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『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』  作者: 葉月奈津・男
マイルド(全年齢)版

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第38話 妖怪制作④ ~つんぷく達磨(曽根崎志乃)~ 忘れられた玩具の記憶

1/2

 


「お!」

 よさげな素材を見つけて、カルマは駆け寄った。


 朱が交わる水の中。

 水面に体の中心を浮かせた女がいる。


 周囲からも流れ込み。

 深みが形成されている。

 彼女は『つん、ぷく。つん、ぷく』と浮き沈みしている。



「曽根崎志乃先輩ではありませんか!」

 長く伸びた漆黒の髪を引いて水から揚げた。

 あったはずのものが無くなっているせいだろうか、引き上げると『赤い袴』などは池の中に沈んでしまった。

 赤く染まった白小袖が、彼女の尊厳を辛うじて守っている。


 だが、問題はない。

 カルマが見ているのは彼女の体ではない。

 そこに刻まれた記憶と可能性。

 人間でなくなった『素材』があるだけだ。


「取り込んで手足を再・・・生はしなくていいや。このままダルマさんにしよう!」


 曽根崎志乃。

 闇と土の属性魔法を使う中級探索者だ。

 よく知っている間柄でもある。

 だけど・・・。


「なんで?」

 カルマは首を傾げた。

 主力メンバーのはずだった。


「ドロップアイテムの回収だけだからよ」

 しらゆきが教えてくれる。


「ボス戦がないなら、いらないでしょって残ったの。彼女、力の不要使用嫌いだから」

 フフッと吐息だけで笑う。

 すこし、寒々しい。


 彼女なら言いそうなことだ。

 そんな風に『妖怪』たちは頷いている。

 カルマには信じられなかったが。


 なぜなら、ことあるごとに『術をかけられていた』立場だから。


 ◆ダンジョン42階層の追憶◆


「立っていると疲れるでしょう? 座ってもよろしくてよ」

 くるしゅうないわ。

 柔らかくも涼し気な言葉をかけられる。


 42階層の広めのルームでのことだ。

 いわゆる『中級ボス』の部屋で、部屋主は討伐済み。

 次のリポップまでは10時間はある。

 地面から突き出た柱状石群の美しさが映える、当面安全な場所だ。


「・・・・・・」

 何度か聞いた言葉。


 カルマは座った。

 空気を呼んで、正座だ。


「あらあら、なにも正座することはありませんのよ」

 この状況なら正座だろうとは、カルマなりの選択だった。

 だが、そこまでは求められていなかったようだ。


「座禅よ、座禅でお願いしますわ」

 あぐらをかけということか、いや、けっかふざ?

 音しか知らない。あぐらでいいだろう。


「座りましたわね? もう立つには及びませんわ」


 シャン!

 鈴が鳴り、呪文——『祝詞』が紡がれる。


「・・・・・・」

 足が動かなくなった。


「立てないと、歩けませんでしょう? 飛ぶとよろしいわ」

 その言葉で、控えていた彼女の信徒が二人前へ出た。


「あなたの腕を飛行機の翼にして差し上げます。水平に腕を上げてごらんなさいな?」

 信徒たちが、カルマの腕を水平に伸ばさせる。


 シャン!

 そうして、腕も動かなくなった。

 カルマはデバフをかけられたのだ。


 曾根崎志乃は加護と呪いを操るバッファー。

 敵に能力減退と状態異常、味方に能力向上と状態異常軽減をもたらす。

 戦況を有利なものとする役目を期待されている。


「ほら、何とか言ってごらんなさいな?」

 シャン!


「志乃さまのお言いつけだ。なんか言ってみてくれよ?」

「無視はだめだぞ!」

 信徒がカルマの左右に立って言う。


「・・・・・・」

 カルマは答えない。

 沈黙が口を押えている。


 目は自由だ。

 見えている。

 耳も聞こえていた。

 つまり、意識もある。


 ただ、それ以外の身体機能は動きを著しく抑えられていた。

 空気が砂風呂の砂になったかのように、ずっしりとカルマを包んでいる。


 腕は地面と平行に左右へ伸ばされ、足は胡坐をかいている。

 その状態で全身の自由を阻害されている。

 当然に口も開かないから無視というのは言いがかりだ。


 もちろん、全員分かっている。

 わかっていての問いかけ、そして難癖だった。


「それでも答えないか」

「よし、飛ばしてやろう! 気分が上がれば口も軽くなるさ」

 答えられないと知っていて、答えないことを責めらている。


 そして、飛ぶとは何か?

 言葉通りの意味だ。


 左右に広げた腕を二人で肩にかけ、カルマを持ちた。

 人間の身体構造上、無駄に負荷のかかる体勢をカルマは強いられる。

 人間の腕は、水平状態だと筋肉に負荷がかかりすぎるのだ。

 それを、呪いで固定されているのをいいことに持ち上げて好き勝手に移動させられた。


「おお! 障害物だ!」

「いかん! よけろ!」

 広めの空間に突き出ている柱状石群の一つに向かって、二人が走る。


 カルマが当たるようにして。

 そして、順当に衝突した。


 カルマは動かない。

 声もない。

 ただ、衝撃は有効だ。

 痛みを受ける自由までは奪われていなかった。


「――—、――――」

 声が聞こえた。

 神々しさのある澄んだ響き。


 きっと加護の方だ。

 信徒2人への。


「投げてごらんなさいな。飛べるかどうか見てみましょう」

 見てみるまでもないことが提案された。


 そして、試みられる。

 カルマ飛行機は当然に墜落した。


「飛ばないようですわね。飛ばない翼は、ただの飾りだ、ですわね。いらないのではないかしら? たたんでよろしくてよ」

 腕のデバフが解かれた。


 たたむといい・・・腕を組めということだ。

 カルマは胸の前で腕を組んだ。


 シャラーン!

 鈴の音がして、再び腕が固定される。


「さっきは悪かったな」

「遊ぼうぜ?」

 墜落を詫びて、二人がかりでカルマを高いところへと乗せた。

 なにかを入れていたらしい50×50×50の木箱が五つ積まれた上だった。


「ようし、『カルマ落とし』だ!」

「民芸品かよ!」

 ギャハハハ笑いながら、二人がアイテムボックスから柄の長いハンマーを取り出した。


 彼は、ただの飾りとして積まれた。

 笑いのための道具として、舞台に置かれた


「楽しそうね」

 志乃がクスクスと笑う。

 鈴が転がるように。


 その笑いは、祝詞のように響いた。

 誰かの尊厳を祓うための鈴の音だった。



 カルマの上に笑い声が降る。

 カルマは転がっていた。

 いいかげんに積まれた木箱で、うまく行くはずもない。

 2つ目がうまく抜けなかったのだ。


 カルマはそのまま、帰る直前まで放置されることになる。

 忘れられた玩具のように。


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