第2話 よく見るシーンに続く
『ダンジョン』の出現から20年。
今となっては『ダンジョン』は人類の生活に欠かせないものとなっている。
各種ドロップ品。
『ダンジョン』内からの植物系、薬品系、鉱物系の採取物。
そういったものが、科学と融合してより良いモノを生み出しているからだ。
そして、今でも始まりの頃の習慣で行われる『配信』が、最高の娯楽となっている。
その熱狂はしだいに大きく、熱くなり昨今ではオリンピックそっちのけで注目されるものとなっていた。
さすがにグロテスクな映像が出ることもあるため、『生配信』は禁止となっているが『ダンジョン』探索の後には、自分たちで編集した動画を配信するのが定番となっている。
投げ銭機能などもあり、探索の費用をこれで賄うような勝ち組もわずかだが存在する事態となっていた。
だからだろう。
『ダンジョン最深部を制覇する!』
などという世迷言を、校長が言い出したのは。
最初の無鉄砲な子供が地元山形の人間だったせいだ。
噓か真か、校長の息子がそうだったなんて話もある。
ともかく、世界規模で開催される『ダンジョン攻略祭』で『ダンジョン攻略』を宣言したいなどと言い出した。
それが数か月前のこと。
◆
校内はお祭り騒ぎだ。
どこまで本気なのか、校長が全世界同時に行われる探索者の祭典『ダンジョン祭』で、世界初の最下層攻略を果たすことを発表したのだ。
成功すれば世界初の快挙。
目立つことは確実。
全世界に学校名が認知される。
在校生はもちろん卒業生にも恩恵を得るだろうと思われた。
本校が探索を進めているダンジョンの最下層は64と比較的浅い。。
ダンジョンの階層は何らかの条件を満たすことで徐々に深くなっていく。
挑戦するなら今のうちだと考えたのだろう。
この思い付きを生徒たちは歓迎している。
成功すれば、歴史に名を残せるのだ。
将来の進路にも影響すると思えた。
やり遂げてみせると野望に燃えている。
どこにそんな根拠があるのかと、冷めた目をする者もいたが少数——ひとりだけ——だった。
皆が成功の可能性を熱く語り合う中、どの輪にも入らず——入れてもらえず——たったひとりで学校中の雑務をこなしていた。
『オレ』は常に裏方だった。
スポットライトが当たる位置に立つことはない。
いつでもスポットライトの横や舞台袖にいる。
そんな存在だ。
村人Aや『松の木』すらもさせてはもらえず、太鼓を叩くような演出にも関われない。
舞台に立つことは許されない。舞台袖にすら、立ち位置はない。
小道具を集めたり大道具を作るのに汗を掻いたり、それだけだ。
今も、全校生徒が祭りに向けて戦いのフォーメーションの打ち合わせをしたり、スキルの確認をしあったりする中で、ポーションの在庫確認を黙々と行っていた。
もちろん、一人で。
あとは、個人的なものだが、『戦闘用に調整された学生服』のメンテナンスも欠かせない。
各地のダンジョンから採取された『ダンジョン素材』で織られたそれは、見た目こそ制服だが、れっきとした防具となっている。
これに個々人で『部分鎧』などの補強を入れているのだ。
『オレ』は支給された『制服』だけだから楽だけどね。
「中二の時の学際よりはマシだろ?」
薄暗い保管庫内。
外からは愉しげな声が入って来る中で、『オレ』は呟きを落とした。
自分しか聞いていないと承知の上だ。
疑問符付きの呟きではあったが、それは自分に当てての問いかけだった。
『オレ』には最悪だった学際の思い出がある。
中学二年の時、突然の幸運に恵まれてレアアイテムを発見したことがあった。
その性質上、発見者にしか扱えないアイテムだったため、公開する栄誉を得た。
人生初の晴れ舞台。
『オレ』は学際での公開に全力で取り組んだ。
公開する場所を確保するために旧校舎を使わせてもらえるよう学校側と交渉もした。
本当は普通に本校舎に場所が欲しかったのだが、もう空きはないと言われてのことだ。
他の出し物の準備があるからと手伝ってくれないクラスメイトの分も、一人で頑張った。
教室の飾りつけをして、案内板を描き、わかりやすく楽しめる発表になるよう解説文も練りに練った。
噛んだりしないよう暗記するまで読み込みもした。
擦り切れた原稿を何度書き直したかわからないほどに。
そうして迎えた学園祭。
彼の用意したイベント会場への来場者は・・・0。
誰一人として見に来なかった。
『オレ』は学園祭開催中の学校で、誰も来ない旧校舎の教室にいた。
まんじりともせず受付の椅子に座って、来ることの無い見学者を待っていた。
誰も来ない理由を知っていたのだ。
案内板が見えないところにあったわけではない。
わかりにくかったわけでもない。
来訪者は皆、『オレ』の発表があると知っていた。
知っていて、それでもあえて来ないのだ。
今後の活躍に期待できない、ただ偶然にレアアイテムを手に入れただけの人間の発表など見る必要はない。
そう判断されていた。
『彼』は始めから注目を浴びることを許されていなかったのだ。
発表の場をくれたのは、晴れ舞台を踏ませてやろうというささやかな温情。
そして、本会場へは来ずに『一人で』楽しめという冷たい拒絶だった。
昼休みが終わる頃、廊下に足音が響いた。
オレは、息を止めた。
でも、足音は通り過ぎていった。
それが、二日目の午後だった。
「あの、誰も来ない教室で座っていた3日間よりつらいことなんて、地獄にだってありはしない。そうだろ?」
三日間、続けていた呟きが止まらない。
「そうだな」
自分の問いかけに自分が答えた。
旧校舎は窓から差し込む光が、埃を浮かび上がらせていた。
誰も踏まない床は、ずっと冷たかった
教室の時計は、もう止まっていた。
でも、それは動き出す時を待っているのかもしれない。
彼はきっと、今でもあの受付に座っている。
◆
レアアイテム=『空蝉』。
蝉の殻、その背に鏡が隠されている。
使用すると・・・・・・・・される。
『蝉』と『鏡』。
それぞれに意味はあったのだ。
『殻』ではなく『蝉』ではあったけれど。
鏡に触れたとき、空気が裂けた。
鏡の中で、オレは笑っていた。
笑わなくなったオレの顔で。
◆
そして今、全校生徒合同のレイド戦が始まっている。




