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『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』  作者: 葉月奈津・男
R15版。暴力・性的ニュアンスありバージョン

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第4話 そして今 ~予定された死~ ①

 


 そして今、全校生徒合同のレイド戦が始まっている。

 総勢266人。

 最深部を目指す、という名目で。


「これ、絶対ふざけてるよね!?」

 女子の声が、怒りを含んで響いた。

 何かを放り投げる音がした。

 乾いた衝突音。


 軽い。

 中身がない。

 まるで、オレのように。


「なんだったの?」

 近くの女子が問いかける。


「ゴミよ。ゴミ!」

「内容は?」

 投げやりな返答に、再度確認が入る。


 ダンジョン内で手に入るものは、外から持ち込んだ物か、内部で得たドロップ品。

 憤慨するのは、期待を裏切られたときだ。

 つまり、役に立たないと判断された『何か』が、そこにあった。


「『虫傘』ですって。虫除けの傘よ!」

 地団太を踏む女子。

 肩透かしだったらしい。


「ふーん」

 確認女子も、興味を失ったようだ。

 不要なものを選び出しては、次々と投げていく。

 まるで、命の選別をするように。


 ここは、ダンジョン『カネヤマ・バグ・ドーム』の9階層にあるセーフティエリア。

 モンスターの出ない、休息の空間。

 教室二つ分ほどの広さに、1年B組と上級生の混合パーティが休憩していた。


 傷を癒し、体力を回復し、装備を整える。

 手に入れた物資を整理し、調薬に勤しむ。

 そんな光景が、そこかしこに広がっていた。


 戦場の合間に与えられた、短い『生』の猶予。

 それが、セーフティエリアの正体だった。


 パシン、コン、ドガッ。


『オレ』の周囲は、騒がしい。

 汚れた装備、壊れたアイテム、価値のないと判断された品々。

 それらが、頭上に落ち、目の前に積まれていく。


 無料のコインランドリー兼、ゴミステーション。

 ただし、『ゴミ』ではない。

 外へ持ち出せば、安価ながら売り物にはなる。


 それは、救済措置。

 高額品を得られない者への、わずかな分配。

 誰も『救い』とは思っていないが。


 だから、ここは『低価値物資集積所』。

 そう呼ぶべきだろう。

 そして、オレはその管理人。


 和傘が地面に突き刺さっている。

 不穏な光景だが、気にしてはならない。

 学校の備品ボックスへ収めれば、それは『共有物』となる。


 高額品は、管理できる者にしか所有権が認められない。

 管理できない者は、譲渡するしかない。

 それが、制度。

 それが、『予定調和』という名の、弱者を食い物にする仕組み。


「ねぇ? ちゃんとやってる?」

「や、やってます!」

 必死に返事をする。

 クラス全員分、そして誰のものかも分からない装備品の手入れ中だった。


「うるさっ! 声デカいよ!」

 別の女子のケリが、わき腹に入った。

 華奢な体だが、戦闘職。

 非戦闘員には、充分すぎる威力。


「ごへぇっ!」

 胸がつかえ、酸味がこみ上げる。

 耐えきれず、吐いた。


「きたねぇーよ!」

 誰かの声。

 土の付いた靴底で踏みつけられ、ぬるりとした液体が頬を這い、鼻腔に酸味が突き刺さる。

 嗚咽と共に、羞恥が喉を焼いた。


「とっとときれいにしろ!」

「く、【洗浄】」

 補助スキルで汚れは消える。

 だが、蹴りつけられた事実は消えない。


「まったく、これしか能がないんだからちゃんとしなさいよ」

「まったくだぜ」

「ほらほら、頑張れー。心の底から応援してるぞ」

「ギャハハハハハッ!」


 侮蔑が、降り注ぐ。


「そうそう。それ終わったら、私のアイテム磨きもよ?」

 一番威張っている女子が、当然のように仕事を増やす。


「一葉様のアイテムだからって、舐めたり股に挟んだりしないようにね!」

「うわっ、それはキモイ!」

「お前には使わせられないような高級品ばかりだからな!」


 口々に言いながら、去っていく。

 その足は、当然のように手を踏んでいく。


 足音が遠ざかる。

 笑い声も消える。


 保管庫の中に残ったのは、薬瓶と、オレだけだった。


 そして、静寂。


 それは、誰にも必要とされない者にだけ与えられる、特権だった。


 誰も監視していない。

 薬瓶は、そうそう汚れない。

 手を抜くこともできた。


 でも、オレは全部を拭いた。

 一つひとつ、丁寧に。

 まるで、選別するように。


 誰かのためじゃない。

 ただ、それで『自分がまだ人間である』と信じたかっただけだ。


 元の場所に戻したかは、定かではない。

 いや、戻した『つもり』だったのかもしれない。

 それでも、あの薬瓶は、ほんの少しだけ、オレの手の温度を覚えているかもしれない。



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