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『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』  作者: 葉月奈津・男
マイルド(全年齢)版

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第25話 妖怪制作① ~雪女~

5/5

 


 ペーストするデータは決定した。

 どんな妖怪を作るのか?


「とりあえず、山形って言うか雪国で『妖怪』と言えば決まってるよな?」

 絶対に外せないトップランナーがいる。


『雪女』。

 妖怪のことなんて知らない、興味ない。

 そんな人でも知らないとは言わないだろう。


 必要なのは当然だけど冷気を扱う能力。

 氷系の魔法が得意な魔職がいいだろう。

 当然に女生徒だ。


 百合根友梨先輩である。

 実際、悪口の部類だったけど『雪女』という二つ名を貰っていたし。


 場所は『指揮所』。

 彼女のものらしい血痕が乾き始めている。


 遺体はない。

 というか、死んではいない。


 魔職だからね。

 あとは、わかるよな?


 なので、本体はないわけだがデータはある。

 参照は可能だった。


「どれ、まずは肉体の構築。そして、人格の強調と能力抽出だ」

 ポチッとな。


 記憶の解析をスタートした。

 彼女の最期の記憶が流れ始める。


 ◆百合根友梨視点◆


 上から見下ろしている。

 頑張ったよね。

 でも、もう生きる気力がない。


 彼氏がクラスメイトの女子と抱き合って、あまつさえキスをしていた。

 戦闘のさなかだ。

 気持ちが盛り上がっていたのだろう。


 嫉妬心。

 きっとそうなんだろうと思う。


 何も考えないまま指揮所を飛び降りた。

 なにをしたかったのかはもうわからない。


 自分が何かをするより早く、彼氏はいなくなった。

 カマキリに胸を斜めに切り裂かれていた。

 そして、もう一人も腰から輪切りにされている。


 助けるつもりだったのかどうなのか。

 私は傷口を凍らせていた。


 そのおかげ?

 いや、そのせいで彼女は死ななかった。

 少なくとも数分は。


 私は見ていた。

 内臓をはみ出させて引き摺りながら這う彼女を。


 ムゴイシーンだ。

 なのに、私の顔には冷たい笑みが浮いていた。

 自覚できていた。


 心が冷たく凍てついていく。

 嫉妬に駆られて裏切った彼に詰め寄ることも、人の彼氏に色目を使った女をなじることもできていない。


 茫然と突っ立っていたところを襲われた。

 何もできないまま肩を噛み砕かれた。

 脚先の爪が肌に食い込んでいる。


 逃げるのはもう無理だ。

 でも、もういいか。


 生きて帰る理由、なくなっちゃった。

 地上の惨劇を無感動に眺めて、目を閉じた。


 ◆


「いいね!」

 お誂え向きの記憶。


 しかも新鮮だ。

 これを使おう。


 そして、もう一つ。

 まだ存在している『虫』のカタログから、一匹の虫を出す。


『雪虫』。

 雪国では雪の到来を告げる虫。

 ・・・まぁ、山形では見ないけどね。

 彼女、百合根友梨ちゃんの彼氏の魂を入れて作成。


 もちろん入れるだけ、行動は『雪虫』が支配する。

 人としての記憶も感情もあるのに、『虫』の中の牢獄に捕らわれている状態。

 苦痛と絶望で魂を削るがいいさ。


 生前、女生徒を少なくとも二人。

 弄んでリア充を楽しんだんだろ?


 せいぜい苦しむがいいよ。

 昔の自分の悔しさを、少しだけ込めてみた。

 オレ以外には充分に素敵な女性だった。

 それなのに、他の子に目移りするとか許されない!


 ふわふわの白い蝋に包まれて、まるで空から舞い降りた雪の精霊みたい。

 なんてことを言っていた女子もいる。

 生物の授業中にね。


 中に男子の魂が入ってると知ったら、なんていうのかね?

 聞いてみたい気もするが、まぁいいさ。


 さぁ、この虫とセットで作り出そう。

 心を凍らせた雪女を。



「完成だ」

 目の前に立ち上がった『雪女』を眺めて満足の吐息を吐く。

 部屋の空気が、ほんの少しだけ冷えた気がした。

 まるで彼女の吐息が、空間に染み込んだように。


 素晴らしい出来だった。

 外観には『百合根友梨』ちゃんが残っている。


 だけど、本人では決してない。

 中身はモンス(モンスター)だ。



 名前(: 氷室 しらゆき(ひむろ・しらゆき)

 冷気を閉じ込める『氷室』と、雪の純粋さを象徴する『しらゆき』。それは、彼女の凍った心にふさわしい名だった


 衣装:学校指定のブレザー制服(リボンは赤)+氷の結晶模様が刺繍されたスカート。

 腰にはストラップの振りをした白いふさふさ、『雪虫』がくっついている。


 ただし、これは平時。

 ダンジョン配置中はオーソドックスな『雪女』スタイル。


 衣装:白い着物に霜の模様、そして手から放たれる氷の結晶。

 まさに雪女の覚醒!


 髪は銀白色で、毛先が霧のように揺れる。

 瞳は淡い水色で、見る者の心を凍らせるような静けさを醸し出す。


 うんうん。

 睨まれたら『ゾクッ』てくるに違いない雰囲気がある。


 この子、静かな恐怖と美しさを持ってて、ダンジョンの“静寂の教室”とかに配置したらめちゃくちゃ雰囲気出るよね!


 ◆友梨(雪女変貌中)視点◆


 長いようで、短かった。

 あなたがいなくなってから、私は雪になった。

 冷たくて、静かで、誰にも触れられない存在に。


 でもね、あなたはずっとここにいるのね。

 この小さな虫の姿で、私の腰にぶら下がって、 何も言わず、何も求めず。

 ただ・・・舞うのだわ。


 誰かが私に優しくすると、あなたは羽ばたく。

 まるで嫉妬してるみたいに。


 でも私は、それが嬉しい。

 だって、あなたがまだ私を見てくれてる気がしたから。

 私の醜い嫉妬心を許してもらえそうだから。


 誰にも心を許さず、誰にも笑わず、。

 私はただ、あなたの沈黙に寄り添っていたい。


 だから、今日。

 雪が降る。

 あなたの羽音が、聞こえる限りずっと。


 ・・・もう、戻れない。


 あなたは、随分無口になったのね。

 あんなに、暑苦しく愛を囁いていた人なのに。

 ああだけど、それは私にだけではなかった。


 でも、ありがとう。

 私を雪にしてくれて。

 私を、あなたの冬にしてくれて。


 こんにちは、雪虫。

 初めまして、私の冬。



 あれは・・・そう。

 春の日、あなたが窓辺で寝ていた。

 陽の光が髪に差して、まるで夢の中みたいだった。


 私は、ただ見ていただけ。

 声をかける勇気もなくて。

 でも、あなたが目を覚まして、笑ってくれた。


「お姫様の視線にはキスと同じくらい素敵な効果があるんだね」って。

 その言葉が、私の中に残った。


 でも・・・その春は、もう来ない。


 あの日、あなたがいなくなって、 私は雪になった。

 誰にも触れられないように。

 誰にも奪われないように。


 ・・・でもね。

 この指先が、まだあなたの温もりを覚えてる。


 だから私、まだ人間だった頃の夢を見てしまうの。

 春の匂い。 教室のざわめき。 あなたの声。

 全部、雪の下に埋めたはずなのに。


 ・・・ねえ、もしもう一度春が来たら、 私は、あなたに名前を呼ばれたい。

 雪じゃなくて—— 私自身の名前で。


 ◆


「春はもう来ないけどね」

 完成した『雪女』にそう告げた。


 キレイなモノローグで美化するのは自由だが、現実を見てほしい。

 妖怪に、それもモンスターに作り替えられた。

 新しい自分っていう現実を。


「・・・でも、雪の中で夢を見るのは、悪くないだろ?」

「・・・はい。マスター」


 楚々とした仕草で膝を折って、首を垂れる『雪女』。


「よろしくな!」

 歓迎した。



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