表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』  作者: 葉月奈津・男
R15版。暴力・性的ニュアンスありバージョン

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

25/44

第2話 前提となる話 ~【オレ】の生い立ち~

 


 オレは知っていた。

 母が、壊れていく音を、毎日聞いていた。

 それは、怒りでも憎しみでもない。

 世間に押し潰された人間が、最後に出す悲鳴だった。


 父が死んだとき、母はまだ若かった。

 妊娠を知った直後だった。

「最後の稼ぎに行ってくる」

 そう言って、父は潜った。

 そして、帰らなかった。


 遺族年金は出なかった。

 資格がなかった。

 すべて、父の両親のものになった。

 彼らは、オレを「知らない」と言った。


 母は、働いた。

 昼も夜も。

 でも、ダンジョン産業が広がる中で、『普通の仕事』は価値を失っていった。

「子供を育てるだけで偉い」

 なんて言葉は、誰も口にしなかった。


 オレは、スキルが弱かった。

 補助系ばかり。

 荷物持ち。

 それが限界だった。


 母は、笑った。

「役立たず」と言って。

 でも、その笑いは、自分自身に向けた刃だった。


 ある夜、喉が渇いて台所に行った。

 冷蔵庫の明かりの中で、母が膝を抱えていた。

 声は出さず、肩だけが震えていた。


 その姿は、誰にも助けられなかった人間の、最後の形だった。


 翌朝、母は笑っていた。

「役立たず」と、いつも通りに。

 でも、あの夜の光景は、胸の奥に沈んでいる。


 母は、オレを捨てなかった。

 でも、守ることもできなかった。

 だから、壊れた。

 壊れることで、守ったふりをした。


 オレには、学校があった。

 母には、家しかなかった。

 だから、泣けなかった。


 小学校に入れば、何かが変わると思っていた。

 でも、変わらなかった。


 運動会では、全体競技だけ。

 学園祭では、準備だけ。

 本番では、いなかったことにされた。


 中学に入っても、変わらなかった。

 教師にすら、無視されるようになった。


 中学に入っても芽が出ない者は、もう終わりだ。

 そういう空気が、あった。


 オレは、机だった。

 椅子だった。

 黒板だった。

 壊れたら、取り替えればいいだけの存在。


 高校に入っても、変わらなかった。

 座学は中の下。

 実技は評価すらされない。

 寝ていても、全力でやっても、同じだった。


 だから、オレは──クラスメイトの雑用をこなす『道具』だった。

 使い捨ての、ね。


 ・・・これが、オレの前提。

 だから、捨てられたとき、何も言えなかった。


 でも、今は違う。


「役立たず」

 それは、母がカルマに向けて言った言葉。

 でも、あの夜、冷蔵庫の明かりの中で震えていた母の背中は、まるで自分自身に向かって、そう言っているようだった。


 カルマはその言葉をずっと抱えてきた。

 でも今、最下層に落ちたことで、ようやく気づき始めてる。


 オレは、役立たずだった。

 でも、役に立つ『道具』にはなれた。

 だから、捨てられた。

 使い潰されることになった。


 でも──それは変わった。

 オレは、誰にも使われない。

 誰にも命令されない。


 オレは、オレのために動く。

 それが、『役立たず』の反逆だ。


 あの夜、母が見ていた壁の向こうに、今、オレは立っている。


 そのとき、あいつらをどうするかって?

 さぁ?

 ―――君ならどうする?


「一人ずつ、静かに処理をする・・・・他にあるか?」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ