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『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』  作者: 葉月奈津・男
マイルド(全年齢)版

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第18話 63階層の死闘 後編 ~空からの断罪~

3/5

 


 モンスターのレベル帯は変わったが、やる事は変わらない。

 40階層までのモンスターを送り出して『人間』たちを攻め立てるのだ。


 40階層までの主体となるモンスターは『トノサマバッタ』、『オニヤンマ』、『コクワガタ』、『カミキリムシ』となる。

 『トノサマバッタ』などはまんま『オンブバッタ』の上位互換だ。


 基本ステータスが上昇していることで、個別の破壊力が高くなる。

 これは、どのモンスターにも当てはまるものだ。

 戦闘力が一段高くなった。


「階層が変わった?」

 と、偵察用『トンボ』が百合根先輩の呟きを拾った。


「間違いないわね」

 戦闘中のモンスターを観察して、大きく頷いている。


「みんな! 敵は40階層より下の雑魚よ! 落ち着いて対応して!」

 間違ってはいない。


 深層まで一人の犠牲もなく来れたのだ。

 冷静に戦えば勝てない相手ではない。


「理由はわからないけど、弱い奴らから順にじゃないと出せないんだわ。この戦い、勝てるわよ!」

 仲間を鼓舞する女指揮官。

 絵になるほど美しい。


 しかも、指摘が的確だ。

 百合根先輩に、モンスターのレベル帯に気付れた。


 踏ん張りどころ!

 そう気を張った横顔が凛々しすぎる。


 ・・・中身はともかく。


 ◇抗戦(百合根友梨視点)◇


「階層が変わった?」

 口にした瞬間、違和感が確信に変わる。

 魔法の反応速度、モンスターの動き、攻撃の重さ——すべてが、今までと違う。

 これは、間違いない。


「みんな! 敵は40階層より下の雑魚よ!」

 声が響いた瞬間、仲間たちの動きが整う。


 冷静に見てみれば、ここへ来るまでに相手してきたモンスターだ。

 冷静になりさえすれば、対処法もわかっている。


 問題なく動けていた。

 その様子に、胸の奥が静かに熱を帯びる。


 ——見えてる。

 ——理解できてる。

 ——導けている。


 これが、私の役割。

 これが、私の戦場。

 主力からは外れてしまったけれど、『ココ』も重要な役割には違いない。

 果たし切って見せる!


「勝てるわよ!」

 その言葉に、迷いはなかった。

 敵の強さも、仲間の不安も、全部見えている。

 だから、勝てる。

 私がいる限り。



 一瞬だけ、視線が逸れた。

 見るつもりなんてなかった。

 でも、目に入ってしまった。


 ——彼が、誰かと抱き合っていた。

 その誰かは、私じゃなかった。


 声が出なかった。

 心が、音もなく沈んだ。

 ほんの一瞬。


 その隙を、空が裂いた。

 鋭い影が降りてくる。

 魔法が間に合わない。

 鋭さを持った影が、肩を切り裂いた。


 ——しまった。

 どうして、あんなものを見てしまった?

 どうして、あの瞬間に心を揺らした?


 自分が許せない。


 戦場で、指揮官であるはずの私が。

 感情に流されて人間になってしまった。


 でも、もういい。

 感情なんて、いらない。

 熱なんて、邪魔だ。


 私は、冷たくなる。

 そうすれば、誰にも揺らされない。


 心が、音もなく沈んだ。

 それは、名前を呼べなかった痛みだった。


 ああ、でも、それも——もう意味はない。

 空が遠い。

 地面が遠い。


 そして、戦場が遠くなる。



 ◇カルマ視点◇


 百合根先輩の檄を受けて、反撃が始まった。

 手を付けていなかった使い捨て魔法道具による、物量戦にシフトしてきたのだ。

 それでも、こちらだって戦力は上がっている。


 『トノサマバッタ』の跳躍は地面にクレーターを刻み、

『コクワガタ』は硬質な体で突進し、挟撃による拘束を仕掛ける。

『カミキリムシ』は属性魔法を撥ね返し、魔職を翻弄する。


 それでも、本来ならばそう苦戦するものでもなかっただろう。

 百合根先輩が指摘した通りだ。

 『人間』たちがちゃんと連携できていれば、『コクワガタ』には魔職が、『カミキリムシ』には近接職が。

 それぞれに相手どればいいだけのこと。


 だが、その連携は音を立てて崩れ始めている。


「って、百合根先輩いないじゃん?!」

 指揮所に姿がない。

 探すと、空から急降下した『オニヤンマ』に捕らえられていた。


 魔法をものともせず、鋭い顎が肩を切り裂いている。

 爪と顎で拘束され、逃れるのは困難だ。


 空間の広さと高さが災いしていた。

 指揮所は、空からの攻撃に対して無防備なのだ。

 まるで、生贄のように晒されていた。


「もう立て直せないだろう」


 誰かが叫んだ。

 でも、声は届かない。

 あの教室でも、誰かの声は、ずっと届かなかった。


 魔法が放たれた。

 けれど、狙いは定まらない。

 旧校舎では、なにを目指すべきか何も見えていなかった。


 剣が振るわれた。

 けれど、連携はもうない。

 あの教室に携える手は存在していなかった。


 モンスターが跳ねる。

 地面が割れる。

 でも、誰も見ていない。

 旧校舎の戸脇駆馬と同様に。


 指示がない。

 だから、誰も動けない。


 それでも、戦いは続いている。

 虫型モンスターは確かに倒され続けていた。

 同時に、『人間側』の損耗も激しい。


 一人、一人、また一人。

 名前が消えていく。


 風が吹いた。

 冷たい。

 静かだ。


 そして、戦場は止まった。

 激闘の夏が過ぎ、冬が始まろうとしている。



 もはや、63階層の戦い。

 その帰趨は、決した。



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