第17話 カエル女の憂鬱◇仁科悠視点
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『ダンジョンマスター』——『ダンマス』カルマが戦闘を指揮している。
3Dウィンドウで、まるでゲームでもしているように。
その横で、私もゲームをしている。
都市開発ゲームだ。
ダンジョンの片隅に設定された『巣』。
これの運営をして効率よく生産するのが目的。
なにを生産するのかって?
決まっている。
新世代の『虫』たち。
そして、『魔力』だ。
『巣』は六角形を基本に構成されている。
簡単に言えば『蜂の巣』だ。
機能性抜群のカプセルホテル。
それが『巣』だ。
大きな台座に、人ひとりがすっぽり入るくらいの間仕切りがある。
くらいの、ではないわね。
実際、人が入るのだから。
人とは言うが、実際は少し小さめだ。
身体は不要カ所のない最小限の状態に整えられ、巣の構造に合わせて収められている。
『巣』の構造に適合した人間が、間仕切りにぴったりとフィットしている。
嵌め込まれていると言っても、密閉感はさほどないと思う。
体の前面は解放されているのだ。
魔力の吸収やモンスターの成長に支障がないよう設計されていた。
その代わり、一部を粘着力のあるもので巣と一体化するほどに安定させている。
暴れないようにと、常に『誰か』が押さえているというのは効率が悪い。
『虫』たちの自由な生活にも支障が出る。
よって、『人間』たちを『巣』に安定的に常駐できるようにした。
大丈夫。
不便はない。
食事は常に運ばれてくる。
おっきなトンボや蜂さんが運び込んできた『栄養物』を受け取り、黒い体の『シデムシ』さんによっ供給され、不要なものは丁寧に処理される。
すべてが循環する設計になっている。
この配置なら、魔力の回収効率は最高。
虫たちも快適に育つし、資源の損耗も最小限。
ほんと、よくできてる。
『ダンジョン』の機能を大分使い慣れてきているのではないだろうか?
排泄物の処理もお任せだ。
親切な『シデムシ』さんがちゃんと拭き取ってくれる。
これは、生まれた『子供』たちの成長支援用の栄養物に当てられるので、一切ムダがない。
ああ。適合させるのに際して取り除いた部分は『栄養物』に、固くて扱いにくいモノは丁寧に砕いて『子供』たちの栄養だ。
虫たちにとっても、カルシウムは成長に重要らしい。
単体の『巣』のときにいた『回復役』も、今は『間仕切り』の中だ。
回復は『再生虫』がしてくれる。
死んでないからか私のように支配権を奪われたりもせず、ただただ魔力の塊が移動した痕を癒してもらうだけだ。
私の場合。
心肺停止の期間が長すぎて、脳にも支障が出ていたのだろうと言われた。
損傷した脳を『再生虫』が補助しているから、こんななのだろうというわけ。
そういうことかーって納得しちゃったわよ。
この調子だと、次世代の羽化も近い。
巣の拡張も考えなきゃね。
もっとたくさん、育てられるように。
って、そんなことはカルマがもう考えているんでしょうけど。
『人型資源』が増えるかどうかは、彼が決めることだから。
私はウィンドウ越しにモンスターたちを管理し、巣の維持を行っていた。
それは、奇妙な充実感を伴う作業だった。
思うところがあるとすれば、跳ねることも、笑うことも、もう命令だってこと。
でも、『命』を扱うことへの憂鬱だけは、まだ自分のものだった
それは、 かつて誰かを守りたかった『私』の、数えるほどに少なくなった灯りだった。
「あれ?」
そんな中、私は、ふと気が付いた。
寄生下にあるモノたちが静かになっていた。
幼虫が巣立ったわけじゃない。
まだ元気に彼女らの寄生された者の中で、静かに成長を続けている。
痒いはずだ。
なのに動かない。
「どしたの?」
モンスターの再配置を終えたカルマがのぞき込んできたので説明する。
「それは・・・おかしいな?」
◇カルマ視点◇
どうしたんだろう?
疑問に思ったのだが、『システム』さんが素っ気なく答えを教えてくれた。
『魂を使い切ったのですよ』
それが答えだ。
苦痛や精神的ショックを与えるとことで魂を破断。
この欠片を『ダンジョン』は『ソウルポイント』として収集している。
この『魂の破断』によって魂が限界まで摩耗してしまっているというのだ。
魂が『白化』した状態なのだと。
感情も感覚もなくなり、漂白されている。
だから、もう苦しむことがないのだ。
『わかりやすく言うなら、転生時と同じです。死によって天へ還った魂が浄化され、まっさらになって再び地上に還る。その状態です』
『システム』が説明を続けてくれる。
『ただ、普通はそれでも『人』として生きた経験があるため高確率で『人』に転生します。救いがたい悪人の場合は粉々に砕かれて、破片一つ一つが動植物になったりもします。ですが、『白化』すると、確率はまるっきり0になる』
『人』は無理で、動植物にすらなれない。
なら、どうなる?
『微生物からやり直しです』
おお、生物としての原初からリスタートか。
「次に生まれて来るときは真人間になるんだよ」
こちらも無垢な心で語りかけた。
いつになるか知らんけど。
「あれ? この状態でも生きられる?」
『普通なら不可能ですね。ですが、この場に限定するなら問題ありません。『ソウルポイント』はもう取れませんが、『マナポイント』は取り続けることが可能です』
「なら、このままだな」
魔力供給の機能は残るのだ。
それなら、役に立ってくれるだろう。
それはそうとして。
『転生時と同じ』か。
「詳しいんだね?」
転生に。
「いいえ!」
なんか激しく否定された。
感情的になった?
「でも詳しいよね?」
「お答えできません」
今度は取り澄まして流された。
追及はムダらしい。
今は諦めよう。
白くなった魂は、もう誰かの名前を思い出すことはない。
それは、かつて誰かに呼ばれた声が、静かに消えていくということだ。
ともかく、機能に支障はないわけだ。
白くなった魂は、もう苦しまない=『ソウルポイント』は手に入らない。
でも、『マナポイント』は今後も手に入る。
機能を残しているものならば活用する。
それが、ダンジョンの流儀だ。
評価いただけると続編を書く意欲に直結します




