第15話 殺すのは簡単だけど(悩む ~命の使い道~
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63階層の空間内。
『蠅』と『蜂』で作った『大百足』のシルエットによる幻影戦術は1時間でバレた。
我ながらよく引き延ばしたと感心する。
そうなると、向こうもバカじゃない。
手立てを講じられてしまう。
風と水の複合技で叩き落された。
嵐で地面に叩きつけられる羽虫の最期。
無残。
まぁ、『マナポイント』は儲かったからいいんだけどね。
おかげで、『ダンジョンレベル』は30に達した。
混乱している間に『メガネウロ』でさらった人間も30人くらいいる。
捕らえたその場で、元気に楽しく『保母さんや保父さん』をしている者たちも同じくらいいるだろう。
『保母さんと保父さん』と、それ用の『介護者』をいいバランスで配置するのには苦労させられた。
だか、おかげで『ソウルポイント』と『マナポイント』を効率よく得られている。
『人間』を『糧』として育った『虫』たちもすでに三世代目が『巣立ち』間近だ。
二世代目は『システム』が言っていたようにステータスが高くなっている。
三世代目は、さらに進化していると期待したい。
そんな感じなので、元気なのは100人を切った。
そのうちの魔職はかなり魔力切れ寸前。
近接職も走り回ったせいで、ちょっと足取りが重い。
朝食を喰い損ねたやつもたくさんいるみたいだし。
弱らせることには成功したと言えるだろう。
ここからどう攻めるか?
敵はこの間に、バラバラだった戦力を結集して、簡易的ではあるが防衛拠点とも言うべき野戦陣地を構築。
守りを固めている。
でも・・・。
「ハッキリ言って殺すのは簡単なんだよなぁ」
『こう(虫に皇)害』。
トノサマバッタの大群による災害のことだ。
それを再現すればいい。
通常サイズでいいから飢えたトノサマバッタを万単位で発生させてぶつければ、トノサマバッタの群れが地面を覆い、探索者たちは身動きが取れなくなる。
あるいは、戦線を維持できなくなる。
『探索者』だから、少しは耐えるかもしれないが結果は変わらないだろう。
物量作戦というのは馬鹿にできないのだ。
もちろん、これは階層全体がただの空間として存在しているこの場だから採れる手段だ。
ダンジョンの通路やルームのような狭いところでは、魔法の弾幕を張られて無効化されかねない。
それでも時間をかければ勝てる。
だから、殺すのは簡単だ。
問題は、どれだけ効率よく『使い切る』かだ
ただ、この方法だとたぶん『ダンジョンポイント』を稼がないまま全滅させてしまう。
それでは、主力に勝てない。
「楽はできないってことだな」
命を奪うのは一瞬。
でも、使い切るには、少しだけ工夫がいる。
それは、旧校舎で誰にも見られることのない『オレ』が知る、『やりくり』だった。
「『蠅』と『蜂』の残りを一纏めにして、紡錘陣へ」
3三次元ウィンドウに簡易の戦力図を展開させ、指示を出す。
「真中へ正面から突っ込め!」
できた紡錘陣を正攻法で叩きつける。
すぐさま魔法の迎撃がきた。
ただし、今度は乱雑さがない。
必要なところに必要なだけ、効率的な弾幕が張られている。
このままでは、おそらく数を増やしても同じだろう。
敵は主力の帰還を待っての長期戦を選択している。
それでも、続行だ!
「30階層までの全モンスターを63階層へ移して、波状攻撃!」
こちらの戦力は、意志を持たない『量産可能な兵器』。
損耗は、ただの数字に過ぎない。
物量で押す!
ただし、相手の防御が瓦解しない程度で。
「そのために、レベル帯を低めにしているんだ。もち堪えてくれよ?」
死者を出さず、敵の戦力を削ぐ。
それが狙いだ。
「頑張ってね。『百合根友梨』先輩!」
ウィンドウウィンドウ越しに、防戦の指揮を執る後方支援部隊部隊長さんにエールを送った。
◇百合根友梨視点◇
戦況は劣勢だ。
原因は、やはりあれだろう。
『大百足が出た』。
そう報告があり、咄嗟に戦力を送り出した直後。
全長が10メートルはある『芋虫』数匹の突撃を受けたこと。
20階層あたりで、通路を塞いで突進してくるモンスターだ。
デカいだけで、防御力は弱く攻撃力はない。
倒すのに手間はかからなかった。
ただし、その突撃で野営地を分断されたことが響いている。
芋虫が通ったあとに、カマキリが送り込まれていたのだ。
『アイアンマンティス』。
中層域で出てくる殺傷力の高いモンスターである。
前面に構えた二本の巨大な鎌。
3メートルと高身長なのに、速度もある。
厄介な相手だ。
それが一方向ではなく、半円を描いて散っていた。
それはつまり、範囲が広いということ。
救援に走るにはリスクが高すぎる。
戦力の集結が妨げられた格好だ。
そのせいで、約半数が『安否不明』である。
次々に送り込まれてくるモンスターの迎撃に追われて、捜索隊も出せない。
把握できている者たちだけで戦線を維持する。
これに勤めるだけで手いっぱいだ。
カマキリがいるのとは反対側。
もう一つの半円には、『蟻』がいた。
『アイアンアント』。
低層の主力である。
強いかと問われれば、『弱い』と言える相手だ。
ただし、こいつらが脅威となるのは『数』である。
通路においては、一度に何十という団体で現れる。
過去のデータによると1ユニットが80編成だとの記録もあった敵だ。
即座に殲滅できればいい、できなかった場合には付近にいるほかの団体が駆けつけて来て挟み撃ちの憂き目にあう。
そんな相手が、この広い空間では一列に並び『面』で押し寄せてきている。
また、地味に効いてくるのが強酸の体液だ。
斬れる敵ではあるが、斬れば斬るほど武器が劣化していく。
その性質と数から、魔法による殲滅が推奨されている敵。
なのに。
「魔法が弾かれてる!」
前線から報告が上がってくる。
わかっている!
見えているんだから!
魔法を弾いているのは『蟻』ではない。
30階層で出現する『ゴールド・パグ』。
コガネムシだ。
あの、キラキラな背中が魔法を弾く性質を持っている。
中層に入った途端に苦労させられる『魔法封じ』のモンスターだ。
数が頼りの『歩兵』に、遠距離攻撃を無効化する『重装歩兵』が加わった印象。
何が起きたかはわからないけど、明らかに昨日までとは性質が違っている。
なんというか、NPCや敵キャラと戦っていたら、ある時を境にPvP(プレーヤー対プレーヤーの対人戦)に巻き込まれた感覚。
明らかに、モンスターが戦術を立てて攻めてきている。
『ダンジョンマスター』が倒されたから?
何かが変わった可能性はある。
より好戦的に、より効率的に。
「ね。ねぇ? 捜索隊って言うか救助隊はまだ出ないの?」
戦況の考察をしているところに、邪魔か入った。
明らかに雲行きが怪しいのに、状況を見もしないで好きなことを言う。
同学年のはずだが、状況を見ようとしない稚拙な女だ。
「すぐに出せるわ」
怒鳴りつけそうになったのをやめ、柔らかく答えた。
「ほんと?!」
疑わし気に睨んで来るから、こっちはさらに深い笑みになる。
「頑張ってね?」
「は?」
「そんなに言うんですもの。行ってくれるわよね? 救助に」
そんなに救助隊を出して欲しいなら、お前が行け。
「な、なに、言って・・・」
「見ての通りみんな出払っていて、手の空いているのはあなたぐらいなの。行ってくれるのでしょう?」
出すのが当たり前みたいな顔してたんだから、自分で出ろ。
「手・・・・手なんて空いてるわけないわ! ポーションはいくらあってもいいはずよ」
薬作りで忙しいの!
安否不明者を探すリスクよりも、陣の中での調薬作業を採ったらしい。
誰か助けたい人がいたんでしょうに、自分の身を助ける方を優先させたのだ。
きれいごとを並べても、結局はそんなもの。
理解はできないけれど、それも選択。
でも、それが本音。
「なんとか、主力が戻るまでは持ちこたえてみせるわよ」
勝とうとはしない。
生き延びればそれでいい。
最低限、私だけでも。
百合根友梨は悲愴な決意を胸に、防衛戦の指揮を執る。
誰かの名前が、喉の奥で引っかかっていた。
でも、呼ぶことはできなかった。
指揮官としての矜持が、それを許さなかったから。
評価いただけると続編を書く意欲に直結します




