第11話 レイド主力メンバーの動き~経験値ゼロの英雄たち~ ②
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◇63階層の現状◇
残りの167人は居残りだ。
もとより中級以下の者たちで、ここまで来たのは途中の階層での採取や荷物運びのためだった。
現地調達のアイテムで薬品生成を行ったり魔道具を作ったり、鍛冶スキルで装備品のメンテナンスをする者、バフ付きの料理を作れる者などが大勢を占めている。
それと、裏の事情として『戸脇駆馬』に魔力を補充させ、返せる人間を多くするための策でもある。
居残り組のうち、少数の見送りを受けて主力が64階層へ降りていく。
その先を進むのは、主力より先に接敵・駆逐する露払い部隊の『先駆け』だ。
反対に、本隊より遅れて進むのは、主力の後方でモンスターを掃討しておく『後詰』部隊となる。
何かトラブルがあって撤退となった時、後ろにモンスターが残っていると挟み撃ちに遭いかねないからの用心だった。
彼等はカルマに対する態度は最悪だったが、それ以外では有能でまともな人間なのだ。
ちゃんとするべきことはする頭と行動力がある。
だからこそ、恐ろしい。
彼らは、悪意ではなく『正しさ』で人を殺す。
それが、最も冷たい暴力だ。
カルマは、迷宮の主として、彼らを見下ろしていた。
彼らの動きは正確だ。
配置も、連携も、撤退の想定も完璧だった。
だが、彼らは一つだけ知らない。
この迷宮は、もう『正しさ』では動かない。
今は、『意志』で動いている。
◇先駆けAチーム◇
「接敵。『ミヤマクワガタ』!」
『先駆け』は6人ずつの6パーティで構成されている。
その一つが敵と遭遇した。
『ミヤマクワガタ』だ。
正式な名前が他にあるのだが、見た目で表現されている。
相手の特徴が伝われば、それでいい。
「ああ、おミヤさんか」
メイジの男が、鼻で笑った。
体長3メートル。
漆黒の『ミヤマクワガタ』が飛んできていた。
迫力がある。
昨日は不意を突かれて驚かされたし、慌てさせられた相手だ。
しかし・・・。
「炎よ! 【フレアランス】!」
落ち着いた様子で魔法が撃ち出される。
『ミヤマクワガタ』が炎に包まれた。
「はっ! 初見じゃなきゃ、焦りもしねぇわ!」
もう一度鼻で笑う。
この魔法を当てれば、一撃で消えるとわかっているのだ。
ジャキン!
金属の刃がこすれるような音がした。
空気が裂けるような、嫌な音だった。
「え?」
呆然としたメイジ男子が、視線を下に向ける。
炎に包まれた『ミヤマクワガタ』の頭部があった。
もちろん、全身もだ。
ダメージは受けているが、致命傷には程遠い。
「え?」
頭部が、自分の腹に接触している。
『ミヤマクワガタ』には、大きな顎があるはずなのに。
──その顎が、腹を貫いていた。
「ゴフッ!」
口から血が噴き出す。
赤黒い液体が、喉を焼きながら逆流する。
キイキイキイキイ。
『ミヤマクワガタ』から、『カミキリムシ』のような威嚇音が響く。
頭が振られた。
メイジ男子の体がずれる。
下半身はそのままに、腰から上がスライドした。
骨が砕け、筋肉が裂け、内臓が引きちぎられる音が、ぬるりと響いた。
「あ、た、たすけ──」
大顎に乗ったままの上半身から、手を伸ばして仲間に助けを求める。
指先が震えていた。
目は、まだ生きていた。
下半身はすでに、床で沈黙していた。
血だまりの中に沈み、腸がこぼれ、骨が見えていた。
返ってきた答えは──
「「【フレアランス】!」」
二方向から飛んでくる魔法だった。
炎が、彼と敵をまとめて包み込む。
──それが手足だったら、また別の対応をしてもらえたかもしれない。
しかし、腰はダメだった。
『胴が裂けたら、もう終わり』。
それが、探索者の常識だった。
ほぼ即死状態。
救命は不可能。
そう判断しての、敵ごと焼却処分。
「え? ウソっ!」
それでもなお、『ミヤマクワガタ』は生きていた。
合わせて三つ分の魔法で焼かれながら、二つのうちのひとつを放った女メイジAに襲い掛かった。
「熱い! あ、や、やだっ!」
炎の中で、黒い影が抱きついてくる。
顎が、肩を砕き、腕を裂く。
魔法の炎が、彼女の髪を焼き、皮膚を焦がす。
「ウォーターボール!」
もう一人の女メイジBが水の魔法を撃ち出す。
至近距離からの衝撃。
水圧が、骨を砕いた。
「ぶべっ!」
女メイジAが吹き飛ばされる。
ボキッ!
いやな音がして、首が、ありえない方向に曲がった。
見開いたままの目が、何も映していなかった。
口と鼻からは、血が流れている。
首の骨が、皮膚を突き破っていた。
「ぁ・・・」
命が欠けた顔で床に転がる女メイジA。
その様子に女メイジBが青褪めた。
数歩、よろける。
メンタルに致命的な一撃が入っていた。
評価いただけると続編を書く意欲に直結します




