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『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』  作者: 葉月奈津・男
マイルド(全年齢)版

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第13話 往路から末路へ ◇とある四人パーティの話◇ ③

3/5

 


 首を振り続けるだけでは、終わらなかった。

 彼女は、『価値がない』とはならなかった。


 ヴヴヴヴヴヴヴ――。

 背後で羽音が響いた。


「え・・・」

 脅威を察知して、思わず身をすくめる。

 体が浮き上がった。


 ・・・違う。

 体が浮いたのは事実だが、『自分で』飛び上がったわけではなかった。


「え、や、やだ・・・!」

 足をばたつかせるが、空中で揺れることはなかった。


 両腕が後ろに引かれる。

 誰かに掴まれている。

 足も、同じように。


 宙に浮いた身体は、意思に反して動かない。


 そのとき――


「な、なに・・・なに?」

 下からも、別の『何か』が近づいてきた。

 背中に乗るような形で、彼女の体に重みが加わる。


「ぐ、ぐぎっ・・・」

 下の『何か』が手を回し、頭を静かに押さえた。

 上と下から、動きを封じられる。


 身動きが取れない。

 完全な拘束――けれど、痛みはなかった。

 ただ、動けないという事実だけが、静かに彼女を包んでいた。


「え? ちょ、え? う、ウソっ! うそぉぉぉぉぉ!」


 下にいた『何か』が、長く伸びた腹部を反らし、先端を上へ向けた。

 それは、見た目にも不気味で、どこか本能的な恐怖を呼び起こす動きだった。


「な、なんで・・・」

 体の内側と外側の境界で、何かが揺れた気がした。


「ひっ・・・」

 嫌な予感がする。


 だが――


 痛みはなかった。

 体の表面に、ひんやりとした感触が走っただけだった。

 何かが当たり、そこから力が吸い取られていく。


「あ・・・なんだ。当ててるだけか」


 刺すとかではない。

 体を傷つけられるわけではないのだ。

 少しだけ、安堵する。


 ただ、先端は魔力の濃い部分。

『命』の近くに触れているようだった。


 何かが絡みつき、固定されている。

 だが、それ以上の動きはない。

 ジェットコースターに乗るときの安全ベルトのような拘束感だ。


 だけど、『何か』の狙いは『そこ』ではなく、もっと深い部分――お腹の奥の方。

 体の中の『命』・・・魔力を弄られる感覚。


「で、でも・・・これなら、まだ・・・」

 不快ではあるが、最悪ではない。

 だけど——


「あ・・・なにこれ・・・」


 意識が、霧の中に沈んでいく。

 体の奥から、何かが抜き取られていくような感覚。


「ま・・・まりょ、く・・・?」


 そう、吸われているのは魔力だった。

 けれど、それだけではない。

 自分という存在そのものが、少しずつ薄れていくような――そんな感覚だった。


『エナジードレイン』。 相手の魔力を吸収する技が使われていた。


「ふ、ふざけんな・・・あれって、非接触技だろうが!」


 本来は、離れた場所から魔力を吸収する遠距離系のスキル。

 こんなに密着した状態で使うなんて、聞いたことがない。

 だけど、その位置と雰囲気で気が付いた。


「した、ばら・・・? あ、アイツの逆・・・?」


 それは、カルマの『魔力補充』を『逆再生』したような形だった。


 ◇観察者(カルマ視点)◇


「はい、魔力補充員一名採用!」

 カルマがパチパチと手を叩く。


「どれくらい『魔力生成』してくれるか楽しみだな~!」


 多ければ嬉しいが、個体差はあるだろう。

 質の問題もある。


 何にせよ、自動で『マナポイント』が増える仕組みが構築された。


「補充してあげた分は返してもらったけど、利子はまだだからね」


 舞台演出的には、『余韻』と呼ぼうか?


 そう言って、カルマが送り込んだのは――魔力を吸収する『ドレインモスキート』。

 10階層のボス級モンスター。


 蚊の姿をしたモンスターだ。

 道具として扱われた記憶は、カルマの中で静かに沈んでいた。

 今、彼女が『魔力の供給源』として扱われる姿は――その記憶への、静かな返礼だった。


 かつては『名前』だった。

 今は『数字』だった。


 迷宮は、彼女の声を数えていた。


 ◇魔力補充員視点◇


「こ、の! クソがぁぁぁぁ!」

 無性に腹が立ち、A子は全力で暴れようとした。


 けれど、何も動かなかった。


「は?!」

 体が震え、全身が強張る。


「な・・・!」

 背後で羽音が響いた。


 振り返ることもできず、ひんやりとした振動が背中に走る。


 ソローッと視線を向けると、ずんぐりとした『黒バエ』から不穏な気配が、静かに彼女の背へと近づけられていた。

 楽観しようとする心の防壁の隙間から、冷たい予感が侵入してくる。


「や、やだ・・・なに、それ・・・やめて、お願い・・・」

 声は震え、目だけが必死に周囲を探す。


 だが、何もできなかった。


「な、なによ・・・なんなの?」


 不穏な気配は誰かの『希望』。

 次に伝える『願い』。

 だけど、彼女には『絶望』にもなりえる不穏さを伴っていた。


 それは武器ではない。

 美しく尊い。

 命の核のようなものが、静かに揺れている。


 それは、誰かの願いのかけらかもしれない。


「ま、まさか・・・」

 A子は震えながら、『現実』から目を背けて『真実』に目を凝らす。


「これは・・・妄想。そう! BLの妄想なの!」


 自分に言い聞かせるように呟き、意識を守ろうとする。




 数分後。


 彼女の呼吸は浅くなり、目は虚ろだった。

 まるで、寄せては返す波を眺めるような平穏。

 自然の営みを、自分も一部のように眺めるひと時だ。


 自然の一部となった自分を、夢の中で思い描いていた。

 夢の中では、誰もが笑っていた。

 それが現実じゃなくても、彼女には十分だった。


 体の奥で、何かが静かに満ちていく。

 それは、彼女の記憶を少しずつ押し流していた。


「そうよ。これ、きっと『意味』があるの」


 妄想の世界が、現実よりも優しく見え始めていた。


「私の中で、月が満ちて、波が動く。誰かの役に立つって、素敵でしょ?」


 彼女はそう言って、そっと目を閉じた。

 これから始まる『使命』に向けて、静かに休息を取るように。


 その瞼の裏で、世界が静かに始まろうとしていた。


 ◇観察者2(カルマ視点)◇


「作ってけしかけてはみたものの、人間に利用させるって、精神的ダメージ以外に意味あるのかな?」


『異物の魔力を利用できるため、追加コストなしでモンスターを生成可能です。ステータスも高めになります』


「・・・なるほど」

 カルマは静かに頷いた。


「それなら、積極的に利用したくなるよね」


『コストパフォーマンス的には優秀です』


「よし、その方向で進めよう。あ、それとシステムの『異物』って呼び方、変えてくれる?」


『名称変更は可能です。どう呼びますか?』


「魔力をくれて、ポイントもくれて、モンスターまで育ててくれる――『お客様』が妥当じゃない?」


『了承。今後、『異物』は『お客様』と呼称します』


「そうして。では、『お客様』のためにもう少し演出に凝ってみようか。満足のいく舞台にしないとね。『観客』としても「役者」としても、そして・・・『小道具』としても。かな?」


 ◇数時間後◇男子B視点◇


「ヒール」


 乾いた声が聞こえる。

 自分の声なのに、遠くから響いてくるようだった。


 手足は治っている。

 高級ポーションと回復魔法で、自分でくっつけた。


 目の前には、男子CとA子。

 二人とも、不要なものを処理され、巨大な虫に体を押さえられていた。


『蚊』と『ウスバカゲロウ』らしい。

 人間並みの大きさ。


 なにより――


「痒いっ、痒いっ、痒いんだよっ!」

「掻いて、掻いて、お願い!」


 ものすごく痒がっていた。

 そりゃそうだろうな。

 無感動に考える。


 最初は頼まれるまま、彼らの体をさすっていた。

 服の上からでは効果が薄く、魔力の乱れが皮膚のすぐ下で波打っていた。

 浮かび上がる残光が、縦横に走る。


 それは、魔力の乱れによって生じた『痕跡』あるいは『呪い』。

 暗く湿った場所で発生した魔力の塊が、体内を移動している。

 その動きが、耐えがたい痒みを引き起こしていた。


 だけど、大丈夫。

 痒みはもうじき収まる。


 魔力が形を変え、外へと放出されるから。

 そこまでが役目だから。


『ふたりをいやせ』


 地面に、普通サイズのハエが並んだ。

 俺への指示だ。


「ヒール」


 俺の役目は、彼らの魔力の乱れをリセットすること。

 魔力の塊が成長し、体外に出ると、次の『用意』が始まる。


 癒された体は、再び『利用可能な存在』として機能する。


「お願い・・・もう、終わらせて・・・」

「ひと思いに・・・」


 二人の声は、涙と絶望に濡れていた。

 でも、俺には選択肢がなかった。


 地面に並ぶ蠅が、文字のように並びを変える。

 まるで迷宮の筆記体。

 俺の運命は、そこに書かれていた。


『ふたりがいなくなれば、おまえも不要』


 俺は、リセットするためだけに存在していた。

 彼らがいなくなれば、俺も『資源』として扱われる。


「は、ハハッ・・・『リセット』か。『リセット』ってなんだっけ?」


『癒す』なら、かろうじて覚えている。


 でも、『リセット』って何だろう?


 元に戻す?

 戻した先に、何かが変わるのか?


 わからない。 わからなくていい。

 知る意味なんてない。

 わかっているのは、この『仕事』をしていれば、俺は俺でいられる。


『俺』って、なんだっけ?


 まぁ、いいや。

 だって――


「俺は痒くなんてない」

 そう言い聞かせながら、目を逸らす。


 命を失えば、痒みもない。

 彼も、彼女も痒いのは、生きているからだ。

 俺は、そのためにいる。


「頑張れ。心の底から応援してる」


 平坦な声で、エールを送り続けた。


 命を守るのが、俺の仕事だ。


 癒すことは、戻すこと。

 でも、戻った先に何があるのかは――考えない。


「頑張れ」


 それは、俺がかつて言われた言葉だった。


 でも今は――誰のために言っているのかも、わからない。


 ただ、その言葉だけが、俺の中で生きていた。


 ◇観察者3(カルマ視点)◇


「いいね。『マナポイント』も『ソウルポイント』も、ガンガン溜まってるよ!」


 カルマは満足げに手を叩いた。

 その瞳は、冷たく澄んでいた。


 まるで、あの教室の窓から見た雨のように――静かで、濡れて、誰にも気づかれないまま流れていく。


評価いただけると続編を書く意欲に直結します


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