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『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』  作者: 葉月奈津・男
マイルド(全年齢)版

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第10話  安全日ってのはただの幻想 ~魂の値段~

 


「うわぁぁぁ」

 混乱している。


 63階層のセーフティエリアだ。

 カルマに送り込まれた『全階層共通監視用トンボ』

 普通の大きさの『トンボ型モンスター』からのライヴ映像だった。


 最深64階層へ進む際のボス、『大百足』。

 倒したのは昨日の夕方だった。

 リポップは24時間ごとで、現在は昼。

 あと6時間は出現しない計算だ。


 そう思い込んでいたうえに、ここはセーフティエリア。

 なのに現れた『大百足』のシルエットが悲鳴を誘う、誘う。


 オレたち『探索者』がセーフティエリアと呼んでいた場所。

 実は『安全圏』などではなかった。


『ダンジョン』の慈悲。

 そんな解釈がされていたし、そう教えられた。

 だが、違う。


『レベルが上がって階層を増やした時、なにも設定しなかったか設定するのを忘れて放置していた空間ですね』

 それが『システム』の説明。

 偶然に空いている空間ってだけだったのだ。


 であれば、今からモンスターを設置して悪い道理はない。

 それを実行した。


「フレアランス!」

「アースニードル!」

「アイスバレッド!」


 いくつもの魔法が飛ぶ。

 悲鳴は上がったが、昨日一度倒している敵なのだ。

 慌てたのは一瞬だった。


 物理攻撃が効かない相手。

 昨日倒した時も魔法の連打だった。



「おお。儲かるね」

 魔法が撃ち込まれるたび、『マナポイント』のゲージが上がっていく。


 その代償として消えているのは・・・『蠅』と『蜂』だ。

 5階層の『ベルフライ』と6階層の『キラーヴィー』だ。

 ダンジョンレベル5と6で作成可能なモンスターである。

 レベルを上げておいてよかった!


 群れで行動する彼らに、『大百足』のシルエットを作らせて攻撃を誘っているところだ。

 体長30センチで、防御力や攻撃力の低い彼等のコストは『1000匹』を最小セットとして1セットにつき50ポイントだ。

 大魔法一発で300ポイント手に入るうえに、予想外の戦闘で連携が乱れ魔法も乱雑に撃ち込まれている。


 ガンガンと魔力が溜まっていた。

 費用対効果が驚くほどいい。


 被害も出ているが、減った分はすかさず補充している。

 それでも魔力ゲージは増え続けだ。

 なにしろ、1000匹で50しか使わないからな。


 ちなみに、本物の『大百足』は一匹作るのに1000ポイント必要だそうだ。

 とてもじゃないが手が出やしない。

 しかも、作れたとして最悪何人か逃がしてしまうかもしれない。

 確実に一人一人『終わらせてやる』ためには小技で切り崩すのが得策だ。

 


『ピンポーン!』

 脳内で、何かの注意喚起の音が鳴った。

 マルチ画面で戦況を確認している中でのことだ。


「なんだ?」

 『『ソウルポイント』が100入りました』

「・・・まだなんかあったのか」

 全部は把握できていなかったんだと頭を抱えそうになった。


「『ソウルポイント』ってなに?」

 『『異物』の恐怖や苦痛、刺激を受けての劇的な反応により、発生するポイントです』

『異物』ってのは人間だったよな?

 それが怖がったり、痛がったりするとポイントになる?


「人間が苦しむと何か起きるのか?」

 『苦痛や恐怖の度合いに応じて、魂が削られます。この欠片の量が、ポイント数で示される。これが『ソウルポイント』となります』

 魂か。

 まんまだな。


「そのポイントは何に使える?」

 『『ダンジョンレベル』の上昇と称号の取得によって、特殊能力を持つ『レアモンスター』制作機能が解放されます。この材料として使います』

 それはつまり?


「簡単に潰しちゃダメってことだな」

 活かさず殺さず、ヘビの生殺しがよいと。

 ポイ活、大事!


 『レアモンスター』とやらについては保留だ。

 レベル依存なんだし、まだ先の話だろうからな。


 ちなみに、システムに確認してもらったところ、『ソウルポイント』100は入り口の見張りをしていた男どもに『ダニ』、『ノミ』、『シラミ』をけしかけたことに由来するものだったことがわかった。

 全身から血を失っていく苦痛と、『ゆっくり』とした『終わり』の時間。

 それがポイントに還元されていたのだ。


 どうやらこの『ソウルポイント』は、実際の取得から確認されるまでに数時間のずれがあるらしい。

『マナポイント』は5分程度だし、『ダンジョンポイント』は即時なのに。

 魂の欠片ということだから、取り込んだり数値化したりに手間がかかるのかもしれない。


 それはともかく、魂の欠片がポイントになる。

 つまり、誰かの『痛み』が、オレの『資源』になるってことだ。



「リサイクルした甲斐があったね?」

「ふざけないでくれる?」

 同意を求めたら、首に包帯を巻いた女が、不機嫌を隠しもしないで言い返してきた。

 ついさっき巨大トンボの『メガネウロ』に運んできてもらった女メイジAだ。


 カエル座りで待機しているのだが・・・。

 身になにも付けていないも同然だった。


 身に着けていたものはほとんど焼け落ち、彼女は地面に座り込んでいた。

 残された装備は使い物にならず、衛生的にも問題があった。

 服や装備が黒焦げだったのだ。



 ほんの少し前、大量の『マナポイント』を得た。

 なので、ダンジョンレベルを20まで上げたのだが、これで作成可能になったモンスターに『再生虫』というのがいた。

 仲間のモンスターに寄生して、宿主がダメージを負うと回復させるという補助モンスターだ。なんと破損した体の修復もしてくれる優れもの。


 この虫を発見したすぐ後に、彼女が死んで捨て置かれていた。

 なので、拾って寄生させてみたわけ。

 ダンジョンの掃除屋たる埋葬虫『シデムシ』が埋めようとしているのを振り払ってね。

 『再生虫』とは言うが、同じ虫系の仲間にしか意味がないのかもと思ったんだが、人間にも寄生可能だった。


 そしたら・・・なんか蛙飛びで移動し始めたのだよ。

 一応、人間としての記憶は残っている・・・参照できる?・・・らしいので反抗的な言動はするんだけど。

 蛙飛びで移動したり、カエル座りしていたりする姿を見ると憎めないよね。


 ちなみに、彼女が身につけていたものでマントだけは無傷だったのでオレがもらった。

 さすがに、ずっとストリートキングでいるのはツラい。

 オレは裸族じゃないのだ。


 マント一枚を羽織っただけの、妙に落ち着かない格好だ。

 だが、今はそれで十分だった。


 あと彼女。

 言動は反抗的だけど、命令には絶対服従らしい。


 『『異物』を蘇生できていますが、コントロールは寄生したモンスターがしているからです。『ダンジョン』内のモンスターは『ダンジョンマスター』の手足ですから』

「あ、ちゃんと生き返っているんだね」

 人の記憶を継承したってことではなく、本人がちゃんといるのだ。


 ただ、彼女の体は、焼き付いた記憶のように、迷宮に縫い止められている。

 肉体の維持にモンスターが使われているからだ。


 人間の意志は自由、体は制限付き。

 そういうことだ。


 だからなのだろう。

 命令に従うたび、彼女の瞳がほんの少し曇る。

 その曇りの奥で、かつて誰かに名前を呼ばれた記憶が、かすかに揺れていた。

 それが、彼女の『痛み』なのだとオレは理解できた。


 意識は残っていても、体は『ダンジョンの意思』に従う。

 それが、支配者の手足として造られたモンスターの宿命。

 この論理が適応される。


 『高レベルだったおかげで、脳死にまで至っていなかったものと思われます』

「普通の人間なら手遅れになるところだけど、高レベルの『探索者』だから蘇生できたというわけか」

 納得の理由が説明された。


「これ、他の人間にもやれるんだろうか?」

 ふと、疑問が口をついて出た。


『システム』の説明通りなら、『魂』を逃さずに捕らえ手元に置いておくだけで『ソウルポイント』が増えていくということ。

 今後死亡する者がたくさんいるはずだが、その魂は回収するべきってことだ。


 痛みが資源になる。

 魂が数字になる。


 それは、痛みの証明か。

 それとも、罰の記録か。

 オレは、まだ答えを知らない。


 ただ、あの旧校舎で誰にも見られなかった『オレ』が、今は誰かの痛みを数えている。

 それが、正しいことなのかは、まだわからない。


 ただ、オレは少しだけ笑えた。

 少しだけ、寒気もした。

 あの旧校舎で、誰も来なかった三日間の空気に、少し似ている。


 胸の奥の憎悪が、少しだけ冷えたかもしれない。

 もうちょっとだけ、冷静になれるかな。


『死亡していることが条件ですね。死亡により、『ダンジョン』へ取り込まれる工程に入っていたから、寄生させることができたのです』

「あ、なるほど。『ダンジョン』への同化現象か」

 ダンジョン内で死亡した人間が、ダンジョンに消化吸収される作用はよく知られている。


 日本ではあまり多くないが、『アンデッド』が主敵の『ダンジョン』では、死んだ『探索者』がそのままモンスター化して仲間を襲うこともあるとか。

 この吸収に入りかけていた死体だから、モンスターの寄生もできたし、意識の保持もできているってことだ。


「できることの幅が広がるなぁ」

 もちろん、限界はある。

 だが、『死』が終わりではないと知った今、選択肢は無限に広がっていた。


 魂は数字になった。

 それは、痛みの値札。

 あるいは、見捨てられた罰のシート。


 迷宮は、何も答えなかった。

 ただ、静かに魂を数えていた。

 迷宮は、誰の名も呼ばず、ただ痛みの数だけを記録している。


 あの旧校舎の空気は、今の迷宮とよく似てる。

 誰も来ない。誰も見ない。

 でも、オレはそこにいた。


 飾り付けは全部一人でやった。

 折り紙の花も、模造紙のポスターも、誰にも見られないまま壁に貼った。


 もしかしたら、誰か一人くらい来るかもって思ってた。

 でも、廊下の向こうから聞こえたのは笑い声すらない、沈黙だった。


 あの時、誰もオレの存在を数えなかった。

 今はオレが、誰かの痛みを数えてる。

 それが復讐なのか、救いなのかは、まだわからない。


 だけど、あの旧校舎の沈黙は、まだ、ここに残っている。



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