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少女と憂愁

作者: 文月 海月
掲載日:2026/01/26

身の回りのものがゆっくり故障していくんじゃなくて、ドンガラガッシャンと滑稽な音を立てて壊れてしまえばと思う。


 たとえば、私が今乗っている電車が銀河鉄道みたいに飛び始めて、何かの間違いであのビルに衝突しないかな。


 手にしているスマホをへし折ってやりたい。

 電車を降りる時に、耳につけているイヤホンをホームに投げ捨ててやったらさぞ痛快で最悪な気分なんだろうな。


 馬鹿な考えだってことは分かってるよ。でも気が付くと、こんなことばかり考えてしまう。

 今朝もずっとこの調子でいると、駅にはすぐ着いた。私は急いで電車を降りる。

 

 目に入ってくるもの、聞こえる音、ぜんぶが煩わしい。都会の雨みたいに、私が感じるもの全てが汚れてみえる。


 ホームの階段を昇っていると、すれ違う人がみんな私をちらりと見る、わけではないけれど、何人かの人間が私を見て私の顔を見て、何か得したみたいな顔で横を通り過ぎた。


 知らぬ間に私の身体のどこかに特売シールでも貼ってあるのかしら。


 あーあ、素直に学校に行きたくないなって思っちゃう。純粋に生きていたくないなって思ってしまう。


 こういう気持ちは決して表に出したりはしないけどね。


 だって一過性の不調だもの。心の重さも。身体の重さも。

 壁のシミみたいなものだ。放っておけばじきに忘れる。どうでもよくなる。


 そんなものに一時いっときでも振り回されているのだと思うと癪だけど、これも今更な話だから黙っておく。


 でももし私がこの気持ちを素直にぶちまけたら、周りはどんな顔をするのだろう。

 たまに想像する。


 お母さんは呆れて笑うだろう。お父さんは苦虫をすりつぶしたような顔をするに違いない。

 ミズキは「気分転換にカラオケ行くか」とか「恋人作れ!」とか言うのかな。


 そういうことじゃないのに。私はこの気持ちの紛らわせ方じゃなくて、この気持ちを綺麗さっぱり掃除する方法を知りたいのに。


 こういうこと学校で教えてくれたっていいのにね。私の知りたいことの一つくらい教えてよ。そしたら貴方たちが教えたいこと、全部聞きますよ!


 外に出ると、冷たい風にびくっとなった。

 私はマフラーに顔を埋める。

 春になればこの気持ちは醒めてくれるのかな。あるいは学校に着いたら。家に帰ったら。明日になったら――一生ってことはないだろう。


 だから私は下を向いて歩き出す。じっと寒さに耐え、一歩前に踏み出す。他のみんなと同じように。

 そうして今日も街に溶けていく。

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