Episode:4 学校
街の中が人で溢れかえる。
その中で一人の人間を探すのは、簡単なことではなかった。
青い髪の人間、目立つはずだが視界には映らない。
自身の身長が高ければ、もっと楽に探せただろうに。
人混みに目を凝らし、小さな目印でもないかと躍起になる。
ない......ない......ない、ないない!
賑わっている街の中では耳など役に立たない、人間より遥かに背の高い種族も入り乱れ、人が織りなす壁の向こうは見える領域じゃない。
十五歳の僕は、それを見通せるほどの身長はない。
直後、背後から耳に馴染みのある声が聞こえた。
「ルイン?」
僕は振り返り、正体を確かめる。
そこに立っていたのは確かに、見失ったはずの青髪の少女、エヴァだった。
エヴァは近くの店か、屋台かで買ったであろう食べ物を頬張りながら僕の前に立つ。
「エヴァ......」
「にゃにをふぉんなあふぇっえうの?」
エヴァは状況が掴めていないような表情で、咀嚼しながら話す。
「なんて?飲み込んでから話せよ」
僕がそう話すと、エヴァは少し咀嚼を早め、飲み込んで口を開いた。
「何をそんなに焦ってるの?」
エヴァのその言葉に、僕は肩を落とす。
彼女は確かに強い。
魔法は優秀で、校内じゃ指折りの魔術師だ。
だが、街中で魔法を放てるほどの非情さは持ち合わせていない。
だからこそ、人が溢れる今の状況は危険だと、エヴァは理解していない。
「何かあったのかと思ったぞ」
「何かって......?あ、食べる?」
「いらない」
僕の心配をよそに、エヴァは悪気ない表情で食べ物を渡してきた。
それが嬉しくもあり、少し腹立たしくもあった。
僕は冷たく吐き捨て、先に歩き出す。
エヴァは小走りでついてきた。
「早く行くぞ、遅刻する」
「まっへよー」
苛立ちを誤魔化すかのように、足を早め、学校を目指した。
数分経てば、立派な建物が見えてくる。
白を基調とし、金色の装飾、緑色のレンガを扱う大きな建造物。
校門から左側。
学校の敷地内にある純白の時計塔は、この街を代表するものの一つだろう。
「やっとついた」
僕は無意識にそう呟いていた。
エヴァの姿を探した代償か、気疲れをしてしまったような。
今になって疲れが一気に体にのしかかる。
「早く入ろ〜」
そんな僕の横を通り、エヴァは先を歩く。
僕はため息を漏らして、エヴァを追いかける。
玄関からはいり、土足で校内に入る。
校内にはすでに、人間、樹人、褐樹人、蜥蜴人、獣人、鍛人など、多種多様な種族が行き交っていた。
「人が多いな......」
僕はそう呟いて、廊下を見渡す。
端から端まで、廊下を横に見ても奥行きを見ても人で溢れかえっていた。
「実技試験の影響か......」
ありとあらゆる魔法に精通した樹人。
剣のみで魔法を叩く蜥蜴人。
交易を求める獣人。
武具を自慢し買わせる鍛人。
種族の欲が詰まった実技、魔法を競い、武具を競い、剣技を競い合う。
祭りと被ったこの日は、実技試験のみではない戦いが繰り広げられる。
教室にはいり、席につく。
廊下では人が通れないくらい溢れていた者たちも、教室までは入ってこないらしい。
祭りの日まではこの状況なのを考えると、ひどく憂鬱な気分になる。
「早く帰りたい」
小さくそう呟き、チャイムがなるのを待つ。
実技試験期間中、座学は一切ない。
魔法、剣術、槍術、ありとあらゆる戦術を磨くための期間に切り替わるからだ。
直後、重い金属を叩くような音が始まりを告げる。
実技試験が......始まった。




