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君に寄り添う六日間、世界が消える一日  作者: 鬼子
序章:平和な日々

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4/10

Episode:3 違和感

 街の中を早歩きで進みつつ、僕はエヴァの前を歩く。


「早いよールイン!」


「エヴァが遅いんだろ」


 エヴァの声に、僕はそう話しながら人の間を縫うようにすり抜けた。

 七日後に控えた祭りの準備と、実技試験で人が多い。

 このままでは学校に辿り着けるかも怪しい。


「エヴァ......!」


 僕は振り返り、歩くのが遅いエヴァを見つめる......はずだった。

 人混みに紛れてエヴァを見失った。

 もちろん、エヴァは一人で学校に辿り着ける、放っておけばいい。通常なら......。

 だが、今は祭りの準備に実技試験、ありとあらゆる職業、多種多様な種族が訪問し、入り乱れるこの状況であれば、見捨てるわけには行かなかった。


「......あー、クソッ」


 僕は人混みの中に体を捻じ入れ、エヴァの名前を呼びながら彼女を探す。

 青い髪の人間などあまりいない、簡単に見つけられる。

 

「人が多いな......」


 僕は歯を食いしばりながら人混みを掻き分ける、すると、抜けたのだ。

 スポンッと音を立てながら抜けるように、僕の体は人混みから弾き出された。


「やっとぬけた......エヴァは......っ!」


 僕は人混みを一瞥し、視線を前に向けると、真っ黒い何かにぶつかる。


「あぁ、すまない。大丈夫かい?」


「すいません、ありがとうございます」


 倒れそうになった僕を、支え、肩を叩く。

 

 年老いて枯れた声、やけに耳に残る声だ。

 僕は顔をあげ、正体を確かめる。

 そこにいたのは、賢者と呼ぶに相応しい老婆の姿があった。


 髪は白く、胸まである髪。

 足元はおぼつかない上、杖を扱っていた。

 目元には布を巻き付けていて、視界を遮っているようにも見える。

 杖を持っているのは、盲目だからだろうか。


「怪我はないかい?」


「大丈夫です。僕もよそ見をしていました。すいません」


 僕はそう話しながら少し頭を下げる。

 見えていても、見えていなくても......。


「礼儀正しい子だねぇ......。念の為、怪我が無いか確かめるから」


 老婆はそう話し、僕の額に手を当てる。

 額がじんわりと温かくなり、少しばかり心地よかった。


「私がもっと早く気がついていればねぇ」


 老婆は申し訳なさそうに呟いた。

 その声色には謝罪の念でなく、寂しさなども籠っているような気がした。


「いえ、僕も悪いですから」


 そう話すと、老婆の口元が少し緩む。


「うん、異常はないみたいだ。ごめんね、私は急いでいるから」


 そういって老婆はフラフラと人混みに紛れていく。

 僕も踵を返し、エヴァを捜索しようとしたところ、背後から老婆の声が響いた。

 僕はその声に振り返り、返事をする。


 雑踏の中、老婆の声だけが強く響く。


「申し訳ないねぇ......ルイン」


 聞き間違えるはずがない、老婆の声で間違いない。


 姿が見えなくなった老婆に対し、僕は頭を下げる。

 そして振り返り、一歩足を踏み出した瞬間、違和感に足を止めた。


 ......僕はいつ、名前を教えただろうか?


 鼓動が早くなるのを感じながら、焦りを紛らわせるように歩き出す。

 エヴァを見つけ出さなくては。

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