Episode:3 違和感
街の中を早歩きで進みつつ、僕はエヴァの前を歩く。
「早いよールイン!」
「エヴァが遅いんだろ」
エヴァの声に、僕はそう話しながら人の間を縫うようにすり抜けた。
七日後に控えた祭りの準備と、実技試験で人が多い。
このままでは学校に辿り着けるかも怪しい。
「エヴァ......!」
僕は振り返り、歩くのが遅いエヴァを見つめる......はずだった。
人混みに紛れてエヴァを見失った。
もちろん、エヴァは一人で学校に辿り着ける、放っておけばいい。通常なら......。
だが、今は祭りの準備に実技試験、ありとあらゆる職業、多種多様な種族が訪問し、入り乱れるこの状況であれば、見捨てるわけには行かなかった。
「......あー、クソッ」
僕は人混みの中に体を捻じ入れ、エヴァの名前を呼びながら彼女を探す。
青い髪の人間などあまりいない、簡単に見つけられる。
「人が多いな......」
僕は歯を食いしばりながら人混みを掻き分ける、すると、抜けたのだ。
スポンッと音を立てながら抜けるように、僕の体は人混みから弾き出された。
「やっとぬけた......エヴァは......っ!」
僕は人混みを一瞥し、視線を前に向けると、真っ黒い何かにぶつかる。
「あぁ、すまない。大丈夫かい?」
「すいません、ありがとうございます」
倒れそうになった僕を、支え、肩を叩く。
年老いて枯れた声、やけに耳に残る声だ。
僕は顔をあげ、正体を確かめる。
そこにいたのは、賢者と呼ぶに相応しい老婆の姿があった。
髪は白く、胸まである髪。
足元はおぼつかない上、杖を扱っていた。
目元には布を巻き付けていて、視界を遮っているようにも見える。
杖を持っているのは、盲目だからだろうか。
「怪我はないかい?」
「大丈夫です。僕もよそ見をしていました。すいません」
僕はそう話しながら少し頭を下げる。
見えていても、見えていなくても......。
「礼儀正しい子だねぇ......。念の為、怪我が無いか確かめるから」
老婆はそう話し、僕の額に手を当てる。
額がじんわりと温かくなり、少しばかり心地よかった。
「私がもっと早く気がついていればねぇ」
老婆は申し訳なさそうに呟いた。
その声色には謝罪の念でなく、寂しさなども籠っているような気がした。
「いえ、僕も悪いですから」
そう話すと、老婆の口元が少し緩む。
「うん、異常はないみたいだ。ごめんね、私は急いでいるから」
そういって老婆はフラフラと人混みに紛れていく。
僕も踵を返し、エヴァを捜索しようとしたところ、背後から老婆の声が響いた。
僕はその声に振り返り、返事をする。
雑踏の中、老婆の声だけが強く響く。
「申し訳ないねぇ......ルイン」
聞き間違えるはずがない、老婆の声で間違いない。
姿が見えなくなった老婆に対し、僕は頭を下げる。
そして振り返り、一歩足を踏み出した瞬間、違和感に足を止めた。
......僕はいつ、名前を教えただろうか?
鼓動が早くなるのを感じながら、焦りを紛らわせるように歩き出す。
エヴァを見つけ出さなくては。




