「余命」と「生命保険」! 聖女チセリの、魔族に対する悪魔的すぎる説教
前回のあらすじ。
枯れ果てた大地を復活させようと考えていたら魔族(レベル5)の大群が襲ってきた。
人間とはいえレベル20以上の民衆が、おなかをすかせているとはいえ魔族にフルボッコにされる始末。
私はといえば、漆黒の杖を呼び出し善戦はしてるも、現在拗ねていて使い物にならなくて困っているところ。
「そんなわけで、どうしようかのぅ。法衣を脱ぎ捨てればこんな雑魚一瞬で片付けられるが」
チラリと老人を見るが、期待の眼差ししか浴びない。
試しに無詠唱で闇の力を開放したが法衣が邪魔をしているのか何も起きない。やはり杖がなければ魔法は使えないようだ。
ちなみにだが、杖があろうがなかろうが関係なくね? って思った君のために説明しておこう。
「ラクエルよ。私の話を聞け」
私は杖を本来の姿に戻す。
杖がぽふんって煙を出して人間の姿に変化した。
「嫌よ。私は絶対に戦わないからね!」
プンプンしている黒髪の少女が文句を言う。
「従者じゃ。チセリ様の従者じゃ。聖なる杖に変化していたというのか」
距離があるのに老人の声が聞こえる。よほど地声がでかいのか。
「ねぇ、チセリ。あのジジイ、あんたのこと聖女とか言ってるけど似合わねー! ってか何そのドレス。ダッサー!」
指をさしてケラケラ笑うラクエル。
「やかましい。これを見よ」
レベル視認スキルをラクエルにも見えるようにする。
「レベル17って何それ。雑魚じゃん!」
「ちなみにラクエルのレベルは。10って、私以下じゃ」
私はため息をつくと、
「そう言われたらさっきの一撃で魔力を結構使ったかも」
あの老人を見よ。
「レベル80って! なんでレベルの低い私たちを最前線で戦わせて自分は泣いてるのよ。人間って頭おかしいの?」
「そうじゃ。おそらく私たちを試しているのじゃろうな。ついさっき魔王を私一人で倒してこいって言われてどうしようかと思ったわ」
「人間ってひ弱な生き物かと思ってたけど考え改めるわ」
「ウム。今後言葉は選んでしゃべった方が良いぞ。で、今は同族であるレベル5の魔族たちを打ち破らなければ私たちはあのレベル80の老人ほか、レベルの高い人間ども数百名を相手にしなければならぬ」
「まじで踏み絵じゃん」
「だがこの法衣のせいで私は魔法が使えない。だからラクエルの力に頼るしかないのじゃ。わかってくれ」
私は頭を下げると、
「仕方ないわね。チセリとも長い付き合いだし今回だけは許してあげる」
ラクエルはニヤリと笑うと、空中に浮かぶ魔族たちに、
「爆裂魔法トライアングルメテオ!」
空中で大爆発が起きると、一瞬のうちに魔族たちが消し飛ぶ。
「ラクエル。久々に爆裂魔法を見たが、さすがじゃな」
「おかげで魔力は空っぽよ。杖の姿のままだと省エネだけど威力弱いし」
「じゃが相手もあと一体じゃ」
奥にいた魔族は私たちの前に降り立つ。
「あなたが聖女チセリと従者」
独り言のようにつぶやく魔族。
「従者って何よ! 私にはラクエルって名前が」
「よせラクエル。奴のレベルを見よ」
「レベル573って、どこのゲームメーカーなのよ!」
「今はそんなのどうでも良い。正直人間どもを根絶やしにした方が楽じゃったな」
「今から寝返ろうよ!」
「寝返れたとして私たちではレベル80の老人にはかなうまい。もう詰みじゃ」
「あぁ、儚い杖人生だった。もっと毎日磨いてふかふかのタオルで拭いてくれる主人に拾われたかった」
「私だって毎日大切にしてたじゃろう」
「あんた毎回部屋の隅に乱暴にぶん投げてたじゃない! しまいにはへし折ろうとまで!」
「ひどいなラクエルの人生!」
「あんたよ! あんた!」
そんなやりとりをしていた私たちに、魔族は
「引退間近とはいえ高位魔族を前にこの余裕。さすが魔王様と戦える唯一の人間だ」
「よせ。弱い物いじめは良くないぞ! 悪魔大元帥にそう教わらなかったか!?」
「余命数日と医者に言われたが最後に神は俺を見捨てなかった! ここで貴様らを殺せれば残した家族に財産が残せる!」
「雑魚相手に残された余命使うな! むしろ生命保険に入れ! 対聖女や対勇者保険があったはずじゃ!」
「うるさい! 人間が魔族社会の知った口を聞くな!」
余命間もない魔族は霧のブレスを吐き出す。
「麻痺のブレスか。ラクエルよ。私の影に隠れるのじゃ」
「言われなくてもそうするよ!」
元ラスボスとしての耐性か、この忌々しいドレスのおかげかはわからないが、私たちに麻痺は効かなかった。
「クッ、俺の必殺スキルをこうも簡単に打ち破るとは! さすがは聖女チセリ。妻よ、子供たちよ。不甲斐ない父を許してくれ。ぐふっ!」
なんか血を吐いて勝手に倒れた。
「父ちゃん!」「あなた!」
どこからか似たような魔族が倒れた彼に駆けつける。熊かおまえらは。
「聖女チセリ。いつかお前を殺す!」
睨んでくる。多分息子だろう。
レベルを視察すると198。いつかでなく今すぐ殺されてしまいそうだ。
ただ、これはなんとなくだが、
「さがれ。ゴミが」
息子魔族を押し除けて絶命した魔族の元へ歩み寄る。
もし私の考えが間違いなければ、これができるはず。
私は自らの両手を握り、天を仰ぐ。
「聖なる魂よ。祝福を与えん。蘇生」
空から後光が差し死んだ魔族を照らす。
「ん。俺は死んだはずでは」
目をあける魔族。そして抱きつく家族。
「かつて憎たらしいレミットの隠し魔法なんか使いたくなかったが、見よう見まねで上手くいくものよ」
「何故俺を助けた?」
同族を出来れば倒したくない。とは老人の前では言えなかったので、
「命あるもの平等じゃ。人であれ魔族であれ。な」
父魔族は少し悩んでから、
「決めた。俺は魔王軍を抜ける。これからは聖女チセリ、いや、チセリ様のためにいただいた命を使う」
いや、帰ってくれるだけでいいんだけど。
ついてこられたら、このあとの言い訳がキツくなるではないか。
「ならば、ゴーショーグンよ。この枯れ果てた大地に水路を開き、復活させよ。そしてこの街の守護者となれ。家族もそれで良いか?」
「チセリ様には感謝してもしきれませんゆえ、お言葉に従います」
「新しい名前、そして将軍の地位」
あ、ごめん。名前知らなかったから適当に呼んだ。てか、将軍の位を与えたわけではない。正直、この後のことばかり考えていた。
こうして、魔族の来襲の危機は解決した。このあとしなければならない、人間たちへの絶命させた魔族の蘇生の言い訳を必死に考えていたのであった。
次回に続く。




