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第6章 告白は紅茶の香りとともに

雨上がりの午後。

アシュフォード邸の窓辺には、柔らかな光が差し込んでいた。


リリアは、メイドのエルナが用意した紅茶を受け取りながら微笑む。

カップから立ちのぼる香りは穏やかで、静かな時間に溶け込むようだった。


「お嬢様、クライヴ様がいらっしゃいました」

エルナの声に、リリアは本を閉じる。

「通して」


クライヴは少し息を弾ませながら入ってきた。

普段より落ち着かない様子で、紅茶の香りに包まれた空間に立ち尽くす。


「どうされたの? そんな顔をして」

「……リリア嬢。少し、お話がしたくて」


その声の調子に、エルナが一瞬だけ眉を上げる。

だが、すぐに静かに頭を下げて部屋を出ていった。


ふたりきりになった部屋。

カップに注がれた紅茶が、静かに湯気を立てている。


「……このままでは、いけないと思ったんです」

「なにが?」

「ぼくは、もう“友情”ではいられません」


その言葉に、リリアは小さく目を瞬かせる。

やがて、唇の端をゆるやかに上げた。


「まあ。やっと気づいたのね」

「リリア嬢……?」

「あなたの視線、ずっとわかっていましたもの。

 でも、今さら“気づいた”と言われても、どう返せばいいのかしら」


クライヴの喉がかすかに鳴る。

「ぼくは……あなたが、好きです」


その言葉は、紅茶の香りよりも淡く、けれど確かに届いた。


リリアは少しだけカップを傾け、静かに紅茶を口にする。

「それは困りましたわ」

「……どうしてです?」

「友情の方が、居心地がいいの。

 恋になると、どうしてもどちらかが傷つくもの」


「それでも……ぼくは」

「ダメよ」


リリアはやわらかく言葉を遮った。

その声音には、優しさと距離の両方があった。


「今は、まだ早いわ。

 わたくし、あなたの気持ちに応えられるほど子どもじゃないの。

 でも、大人にもなりきれていないのよ」


彼女は立ち上がり、窓辺へ歩み寄る。

光を受けた髪が、薄金色にきらめいた。


「だから、もう少しこのままでいいでしょう?

 “友情”のまま、紅茶を一緒に飲める関係で」


クライヴは何も言えなかった。

ただ、頷くことしかできない。


リリアは小さく笑みを浮かべた。

その笑顔は、やわらかく、どこまでも穏やかだった。


エルナが静かに扉を開け、クライヴの分の紅茶を注ぐ。

「おふたりとも、冷めないうちにどうぞ」


その横で、リリアは目を閉じたままつぶやく。

「恋よりも、今はこの香りが好きなの」


紅茶の湯気が、ふたりのあいだを静かに溶かしていった。


***

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