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第5章 静かな温度差
アシュフォード邸の応接間には、いつものように穏やかな沈黙が流れていた。
クライヴは書類に目を通しながら、ちらりと隣をうかがう。
リリアは紅茶を口にし、静かに本を読んでいる。
何気ない時間――けれど、彼にとってはどんな舞踏会よりも緊張するひとときだった。
「リリア嬢は、本当に変わりませんね」
「そうかしら? わたくし、少しは大人になったつもりよ」
「……いい意味で、です」
クライヴが視線を逸らす。
(彼女は、どうしてこんなに平然としていられるんだ)
恋を失った彼に寄り添い、支え、笑ってくれた。
けれどその笑顔の裏に、自分への気持ちの変化など微塵も感じられない。
「ねえ、クライヴ様」
「……はい?」
「最近、よく視線を感じますの」
「そ、それは……」
「ふふ。いいえ、構いません。観察はお互い様ですもの」
リリアは楽しげに微笑んだ。
クライヴはただ小さく息をついた。
その様子を、部屋の隅で見ていたメイドのエルナがそっと紅茶を置く。
「お嬢様。もう少し優しくしてあげたらどうです?」
「優しくしているつもりよ。友情の範囲で、ね」
「……そういうところす」
エルナはため息をつく。
(まったく……楽しんでる場合じゃないのに)
リリアは楽しそうに笑った。
“愛されないこと”を、まるで小さな遊びのように受け止めているようだった。
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