第4章 沈黙の慰め
冬の風が王都を冷たく撫でていた。
屋敷の書斎に、暖炉の火がぱちぱちと音を立てている。
リリアはクライヴのために紅茶を淹れ、静かに差し出した。
「どうぞ。心が少しだけ温まりますわ」
クライヴはカップを受け取るが、手はまだわずかに震えていた。
失恋の夜から、もう数ヶ月が経つ。
それでも、彼の表情には影が残っている。
「……情けないですね、僕」
「情けなくなんてありません」
リリアは穏やかに微笑んだ。
「人を想うことができる人は、強い方ですわ」
クライヴは顔を上げ、ゆっくりと息を吐く。
「リリア嬢は、どうしてそんなに強いんですか」
「強くなんてありません。ただ、泣く時は一人で泣くようにしているだけです」
「……泣くんですか?」
「ええ。誰もいない夜に、少しだけ」
クライヴは何も言わない。
暖炉の火が、彼の瞳に反射して揺らめく。
リリアは紅茶をひと口飲み、穏やかに微笑んだ。
「ふふ。1つ友人の秘密を知りましたね。」
クライヴはその言葉に、わずかに眉を寄せた。
「……友人、ですか」
「ええ。友情は、恋より長く続きます。そう思いませんか?」
彼は何も答えず、ただリリアの横顔を見つめた。
暖炉の炎が彼女の髪に金色の光を落とす。
その横顔は、美しかった。
やがてクライヴは小さく呟いた。
「……でも、僕はあなたのことを、友人だけと思えないかもしれません」
リリアの手が、わずかに止まった。
けれど、すぐに微笑みを作る。
「……きっと、それはまだ痛みの名残ですわ」
「そうかもしれません。でも――」
「でも?」
クライヴは視線を落とし、静かに言った。
「それでも、今はあなたのそばにいたいと思うんです」
リリアは答えなかった。
ただ、そっと彼のカップに紅茶を注ぎ足す。
その音だけが、静かな部屋に響いた。
(この関係が、壊れませんように)
リリアはそう願いながら、炎を見つめ続けた。
外では、雪が静かに降り始めていた。




