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第8話 白黒つけようか

「僕は魔法使いだ。」


牛若丸がそう言うと、突然目の前に、黒く、巨大な球体が現れた。


「その玉は...ブラックボール!」


獅子王は驚きの声を上げた。


ブラックボールは、相手の魔力や自然界の精霊力を吸収する、高度な聖級魔法である。

そして、ホワイトボールのような魔力の塊ではないため、長大で複雑な魔法スペルの詠唱が必要となる。

そんな代物が、突然目の前に出現するわけがない。

巧妙に、隠蔽魔法で隠されていたのだ。


獅子王は、牛若丸が隠蔽魔法で魔力を偽装をしていることに、薄々気付いてはいたが、ブラックボールのようなものをこっそりと隠しているとは思わなかった。


黒と白の球体が、星同士の衝突のように激しくぶつかると、バルコニーに閃光が広がり、衝撃波が走った。

否、これは星同士の衝突というより、巨大な恒星がブラックホールの重力に囚われて引き込まれていく様に似ており、ブラックボールが貪り食うように、ホワイトボールを飲み込んでいる。


ブラックボールにとって、獅子王が放った上質な魔力の塊は、最高の餌でしかない。

つまり、ブラックボールは、ホワイトボールの天敵なのだ。


獅子王は、合点がいった。

これまで″支配の鎖″によって、牛若丸に注ぎ込んでいたはずの魔力は、ホワイトボールによって吸収されていたため、牛若丸は支配されることなく、戦い続けることができたのだ。


牛若丸は、右手でブラックボールに軽く触れ、左手で魔刀″炎陽″を抜いた。


真っ赤な炎陽が、切先から徐々に黒くなっていく。


「二重詠唱だと?!」


牛若丸は聖級魔法″ブラックボール″を維持したまま、別の魔法を同時に発動させている。


炎陽の刀身全体が黒く変色すると、今度は折り返すように、柄の方から切先に向けて燃え始めた。


牛若丸が詠唱しているのは、聖級魔法″不死鳥の炎″である。

この魔法は、不死鳥が纏う炎を刃に宿らせて、いかなるものであっても、永久に消えることのない紅蓮の炎で焼き、そして両断してしまう高度な武具強化魔法である。


″不死鳥の炎″は、凄まじい勢いで大量の魔力を消費していく。

二つの聖級魔法の同時発動ともなれば、必要となる魔力は膨大な量になるが、牛若丸は高度な魔法技術によって、ブラックボールが吸収した魔力を自分の魔力に変換し、それぞれの魔法に供給することで、″ブラックボール″と″不死鳥の炎″の同時発動を可能にしている。


牛若丸は、所々に複雑な魔法スペルを織り交ぜつつ、時折、左手で印を結んでいる。

″印″を結ぶことによって、聖級魔法の長い魔法詠唱をショートカットしているのだ。


″囚われの鎖″の詠唱が異常に短く、そして速かったのも、この印によるものである。


獅子王は、ブラックボールをじっと見ている。


「完敗だ...。」


獅子王は思った。


ーー 牛若丸を魔法を使うことができない剣士だと思い込まされたときに、すでに勝負はついていた。


″支配の鎖″の魔力をブラックボールに吸収され、渾身の力で放ったホワイトボールもブラックボールに飲み込まれつつある。


そして今、″不死鳥の炎″が魔刀″炎陽″に宿りつつある。


獅子王に落胆の表情は、まったくない。

むしろ、穏やかで、柔らかい笑みを浮かべているように見える。


「もう俺には、その魔法を跳ね返すだけの力は残っていない。」


視線をブラックボールから牛若丸に移す。

そして、獅子王は再びホワイトボールの生成を始めた。


「だがな、この俺は魔王だ。魔物たちを率いる王なのだ。」


獅子王はゆっくりと、そして、大きく息を吐き出した。


「簡単に勝たせるつもりもない。爪痕は残させてもらう。」


獅子王は最後の力を振って、大きく息を吸い込むと、再び錬成したホワイトボールを牛若丸に向けて、口から吐き出した。

それは、初弾の一割程度の小さなものであったが、極めて危険な攻撃であることは明らかだった。


牛若丸は、大きなホワイトボールを完全に飲み込みつつあるブラックボールを盾にする形で、小さなホワイトボールを衝突させた。


牛若丸の額に汗が滲んでいる。


さすがに、同時に二個のホワイトボールを吸収するのは難しいのか、ブラックボールが不安定になっている。


この時、炎陽に不死鳥の炎が宿った。


「まずは、小さい方をなんとかしないと。」


牛若丸は、いったんブラックボールから右手を離し、炎陽を両手で握った。

そして、炎陽をフルスイングで振り抜いて芯で捉えると、小さなホワイトボールは地平線の彼方へと消えていった。


しばらくすると、凄まじい閃光と共に、巨大なキノコ雲が立ち上り、少し遅れて、爆発音と衝撃波が牛若丸たちを襲った。

一つの街が消し飛ぶほどの凄まじい破壊力である。


牛若丸は言った。


「そろそろ白黒つけようか。」

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