第7話 僕は魔法使いだ
「この俺をここまで追い詰めるとはな。」
これまでの激しい戦闘で、獅子王は、かなりの手傷を受けてしまっている。
回復が、まったく追いつかなくなっているほどだ。
序盤では、獅子王が、聖級精霊魔法″土傀儡″によるゴーレムの物量攻撃と、神級魔法″支配の鎖″の発動によって、戦いを有利に進めるかに見えた。
しかし、牛若丸の魔刀″氷月″と″炎陽″による二刀流の斬撃と、上級魔法″囚われの鎖″による多重攻撃によって、獅子王は、思わぬダメージを受けてしまった。
そして、今も牛若丸の猛攻は続いている。
それでも、獅子王の眼光は鋭く、魔力が全身にみなぎっている。
それもそのはずである。
獅子王は今、体内の魔力を練り上げている。
極限まで凝縮された魔力の塊が、その巨大な身体の中で形成されつつあり、その過程で、大量の魔力が全身から溢れ出ているのだ。
全身にまとう青白いオーラも、一段と輝きを増している。
まだこれほどの魔力が残っていたのか、と思うほどである。
高密度に凝縮された魔力の影響で、静かだった夜空は分厚い雲に覆われ、海は波立ち、白波がとぐろを巻いている。
さらに魔力が高まる。
獅子王の白い立髪は、鋭い剣山のように逆立ち、真っ赤な細い目は青白く変色している。
獅子王は、魔力そのものを凝縮させているため、魔法スペルの詠唱は行なっていない。
しかし、魔力のコントロールに全神経を集中しているため、今の獅子王は、まったくの無防備な状態にある。
そして、最強の守り手であるゴーレムは、土塊となったままである。
牛若丸にとっては、またとない絶好のチャンスである。
しかし、なぜか牛若丸は、二刀流の構えを維持したまま、まったく動かない。
考えがあってのことなのか、それとも単に動けないだけなのか、その真意を表情から読み取ることはできないが、先ほどまで烈火の如く攻め立てていたことが嘘のように、完全に沈黙している。
この間も、さらに魔力は増大し続けている。
「俺様と、ここまで渡り合える奴が、この世にいるとは思わなかったぞ。」
獅子王は呵呵と笑い、青くなった目を細めた。
ーー だからお前を欲したのかもしれない。
「しかし、今度こそ終わりだ。牛若丸!」
獅子王は、牛若丸の名を初めて口にした。
そして、大きく息を吸い込んだ。
暫し、静寂が流れる。
次の瞬間、巨大な魔力の塊が、目が眩むような閃光と、耳を覆いたくなるような爆発音とともに、獅子王の大きな口から、砲弾のように撃ち出された。
「俺様のホワイトボールは、貴様の貧弱な鎧では、なんともならないぞ。」
ホワイトボールという名の魔力の塊は、石畳を激しく破壊しながら、牛若丸に向かって突き進んでいく。
この純白の巨大な球体に、よほどな自信があるのだろう。
獅子王は勝利を確信して、高笑いをしている。
ホワイトボールが、牛若丸に迫りつつある。
にもかかわらず、牛若丸は、これまで獅子王を苦しめていた二本の魔刀″氷月″と″炎陽″をそれぞれの鞘に戻してしまった。
「ついに諦めたのか。」
獅子王の笑いが止まらない。
牛若丸は、静かに、迫り来る巨大な魔力の塊と向かい合った。
そして、自由になった両手で素早く印を結び、こう言った。
「僕は魔法使いだ。」




